世界冥作劇場
赤ずきんちゃん
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昔、昔の事。 ある森深い小さな村に赤ずきんちゃんと呼ばれる子がおりました。 その子はいつも真っ赤なずきんを被っているので赤ずきんと呼ばれているのです。 赤ずきんちゃんはとっても綺麗な子でした。 髪はカラスの濡れ羽色。 肌は真珠、瞳はアメジスト、唇は珊瑚。 それはそれはキレイな男の子。 ……ええ、男の子だったんです、残念な事に。 ある日赤ずきんちゃんはお母さんに呼ばれました。 「赤ずきん、悪いんだけど森の中に一人で住んでるおばあちゃんのところへパンとぶどう酒を届けてくれない?」 「どうして僕がそんな事をしなくちゃいけないんだ」 「しょーが無いでしょ!アタシ忙しいんだから」 「銭勘定でか?」 「いいから行ってこい!!」 お母さんに蹴りだされ……もとい見送られ、赤ずきんはおばあさんのところへお使いに行く事になりました。 「まったく、どうして僕がこんな事を……」 ぶつぶつ言いながら森の小道を歩いていると、 「おーい!リオン――――!!」 元気いっぱいの声に呼ばれて振り向けば、そこには狼のスタンがいました。 このスタン、狼なのですが人を襲う事は無く、日がな一日剣の稽古をして暮らす、とってもいい狼なのです。 だから村の皆はスタンの事が大好きで、よく羊の世話を任せたり御礼に食事をご馳走していたのでご飯に困る事はありませんでした。 ――――その光景はきっと"狼少年"が見たら卒倒するでしょう。 まぁ、それはさておき。 村の皆と同じように、赤ずきんも狼の事が大好きでした。 「あんまり大声で呼ぶな。みっともない奴だな」 こんな憎まれ口を叩きますが、赤ずきんは狼の事が大好きなんです。本当に。 狼スタンは冷たい言葉にちょっと耳をたらしましたが、すぐまた元気に、 「なぁ、すごくうまそうな匂いがするな」 「ああ、今から祖母の家にパンを配達に行くんだ。まったく面倒な……」 「そっかー、大変だなぁ……。なぁ、リオン。俺も一緒について行っちゃ駄目かな?」 「お前が?」 胡乱な目をして赤ずきんは狼を見ます。 でも内心は、 (っしゃあ!デートッ!!) ちょっぴり壊れながら喜んでいました。 しかし表面はさも仕方無さそうに、 「まったくずいぶんヒマなんだな。ついてきてもいいが邪魔はするなよ」 「しないよぉ」 ぷぅっと両頬を膨らませる狼を見て、赤ずきんは唇をほんのすこし笑みに歪めました。 それから二人は花畑でおばあさんに贈る花束を作ったり寄り道をしながらどんどん進みます。 「へへへ……、これ、喜んでくれるかな?」 パタパタと嬉しそうに振る狼の尻尾には色とりどりの花弁がくっついていました。 それを丁寧にとりながら赤ずきんは、 「野端の花でつくった花束だが――――お前が持っていけばアイツは何でも喜ぶだろう」 「えへへへ〜」 さらに嬉しそうに笑み崩れる狼スタン。 それを間近で拝んでしまった赤ずきんは、 (くっ!何だ、このカワイさはッ!!誘っているのか、誘っているのか、オイ!嗚呼、どうせならいっそこのままアイツの所なんぞ行かずにお持ち帰りを……っ!!) 「リオンー?」 「いや……何でもない」 いきなり立ち止まってよそを向いた赤ずきんを、狼は心配そうに気遣います。 でも心配なんていらないんです。 だってただ単に鼻血吹いてるだけなんですから……。 散々回り道をしてやっと赤ずきんと狼はおばあさんのおうちにつきました。 ただのお家じゃありません。 ほとんどお城です。 「いつ見てもすごい家ー」 「おい、いるのか」 勝手知ったるなんとやら。 赤ずきんはズカズカと家に上がりこみます。 ですがどこにもおばあさんはいません。 「どこいったんだろう、いったい……」 最後に寝室までやってきて、狼は首をひねりました。 天蓋のついた豪勢なベッドはもぬけの殻。 ですが赤ずきんの方はといえば――――。 (チャ――――ンスッ!!) 密かにガッツポーズを取った赤ずきんは狼の手をぐいぐいと引っ張りました。 「あ、お、オイ!?」 引っ張られた狼は慌てましたがもう遅い。 ワイルドにベッドへ投げ出され、上に圧し掛かられてしまいました。 「リオン。ここ、おばあさんのベッド……」 「分かってる」 分かってません。 分かっていたら狼の服なんて脱がしにかかりません。 「え、え、え?」 「スタン……」 半分まで脱がされ、さらにリオンの顔が近づいても、狼は訳も分からず目を丸くするだけ。 哀れ、いたいけな狼さんはあべこべに赤ずきんに食べられてご馳走様となってしまうのでしょうか? ですが神様はどこかで見ているもの。 不意にドアが開いたかと思えば矢がものすごい勢いで赤ずきんと狼の間を通過しました。 「そこまでだッ!!」 「おばあさん……」 開いたドアの前で仁王立っていたのはこの家の主であるおばあさんでした。 お仕事を終えて寝室で仮眠を取ろうかとやってきたらこんな事態に遭遇してしまったのです。 なんともお気の毒。 おばあさんは長い銀糸を背に流し、端麗な顔を怒りで歪め、矢を赤ずきんにロックオンしています。 ……ええ、おばあさんは若くて綺麗な男性です。 でもおばあさんはおばあさんなんです。 「危ないじゃないか、スタンに当たったらどうする」 赤ずきんは体を起こしておばあさんを睨みます。 対するおばあさんは弓を持った手をぶれさせもせずに、 「そんなへまはするものか。彼から今すぐ離れたまえ」 「断る」 「やはり君がすぐさま応じるとは思っていなかったが……ならば実力行使でいこう」 「出来るのか?」 どこからか取り出したのか細身の剣を、赤ずきんは構えます。 おばあさんも弓矢では不利と感じたか、こちらも剣を手にします。 じりじりとにらみ合いながら、間合いを狭めてゆく二人。 そして、 「行くぞ!」 「返り討ちだ!!」 たちまち起こる剣戟の響き。 寝室はにわかに戦場と化しました。 「ひ、ひぇ〜」 狼はよたよたと抜けた腰で扉の方まで移動しました。 「どどど、どうしようッ!?」 狼はおろおろとするばかり。 止めようにもあの中に入っていくなんて出来やしません。 「う〜、う〜、う〜……」 今にも泣き出しそうになってしまった、その時。 「何やってんのよ、アンタ」 「ルーティ!!」 声をかけたのは、いつまでたっても帰って来ない赤ずきんを訝しんで……もとい心配してやってきたルーティお母さんでした。 「ルーティ!ねぇ、ど、どうしよう!?」 天の助けとばかりに半泣きでしがみ付いた狼の頭をよしよしと撫でてやりながらお母さんは部屋の中を覗き込みました。 そして思いっきりため息。 「ま、どうせこんなこったろうと思ってたけどね……」 分かっていたのなら災難の種をまくようなことはしないで欲しいものです。 「ルーティ〜……」 「分かったからそんな情けない声出すんじゃないわよ。……しょーが無いわねぇ」 お母さんはぽりぽりと頭をかきながら、何度かコンコンとせきをしました。 そして、 「ア――――ッ!スタンが暴漢に襲われかけてるうぅぅ――――!!」 「なにぃ――――ッ!?」 どこからか砂煙を上げお母さんの大声を聞きつけてやってきたのは、猟師のディムロスでした。 「スタン、無事か!?」 「ディムロス!!」 猟師は狼をがっしり抱き締めました。 狼スタンと猟師ディムロスはとっても仲良しさんだったのです。 ――――猟師と狼ですが仲良しです。 仲良しったら仲良しなんです。 「スタン、大丈夫か!?何かされたか……!?」 「はいはい、感動の再会はこれくらいにして……」 お母さんは体をあちこち撫で回す猟師から狼を奪還して、こう言いました。 「悪いんだけど、あそこの二人何とかしてくんない?」 あそこの、とはいまだ不毛な破壊活動を繰り広げている赤ずきんとおばあさん。 「なに!?まさかあいつらがスタンを……ッ!!」 誰もそんな事言ってませんが当たらずとも遠からず。 それにもう猟師の耳には誰の言葉も入りません。 「己、今日こそ引導を渡してくれるッ!!」 激しく時代錯誤なことをのたまいながら剣を手に、猟師参戦。 猟師なら銃を使えと思うでしょうが、初期装備が斧な猟師もいるので良しとしましょう。 さぁて、大変な事に部屋の中の争いは目に見えて激化する一方。 「どどど、どうしよう〜!?」 「大丈夫よ」 床に投げ出されたままのパンとぶどう酒、それに花束を拾って、お母さんは狼の手を引きました。 「る、ルーティ?」 「帰るわよ。ここにいたら危ない」 「でも三人が〜」 「だから大丈夫だって。ほっといても最低墓地に墓が一つ増えるだけだから」 ちっとも大丈夫じゃありません。 でもお母さんは心配する狼の手を引きずり、引きずり、お家へ帰っていきました。 ――――その後、狼はお母さんのお家でおなかいっぱいご飯をご馳走になり、おばあさんの家があった場所は一夜にして瓦礫の山が出来上がったとさ。 めでたし、めでたし。 |
あとがき
管理人の手にかかれば名作も奇作になるという実例(笑)
書いてて滅茶苦茶楽しかったです。
普段壊さない(あれでも)リオンをちょっぴり(どのへんが)変態っぽく。
つーかリオンの赤ずきん姿をいのまた絵で想像して吹き出した人挙手――――
……
はい、自分です(爆)
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