sleepingbeauty?
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それは世にも麗らかな昼下がり。 宿の広い庭の隅。 巨大な森にでもあるような木陰では、安らかな寝息を立てて眠る美女・・・でなくて青年。 タンポポのように鮮やかな金の髪にうっすら開いた珊瑚の唇。 まだどこか幼さを秘めた顔を一人の少年が傍らで覗き込む。 少年は宵闇の空のような髪をさらりとかき上げ、紅玉よりなお赤い唇に微笑を乗せる。 白く、細い指先が青年の頬を撫でると、青年は軽く身じろぎをした。 しかし触れる手は止めず、今度は唇の輪郭を確かめるようになぞる。 薄く開いた唇の間から誘うように覗く赤い舌。 少年は誘われるまま己の唇を重ね―――― 「なにをやっとるか、バカモノッ!」 ようと近づけた顔に入る蹴り。 綺麗に靴の底がヒットして、少年は顔をさすりながら身を引いた。 「貴様・・・・・・」 唸るように邪魔者を睨みつける。 その先には青年を抱き起こすこれまたなかなかの美丈夫。 紺青の長く艶やかな髪に鋭く光る金の目。 青年を抱く腕は強く、逞しい。 「ディムロス、ソーディアンの分際で邪魔をするな」 言葉と共にぎりぎりと奥歯を鳴らす。 恋敵の腕の中に想い人がいるのがどうしようもなく腹立たしい。 だがディムロスはスタンを放す事などせず、逆にリオンを睨みつけると、 「お前こそスタンに何をしようとした。言わずとも分かるが」 「なら訊くな。貴様はとっととスタンを離してここから消えろ」 「断る」 「何だとっ!」 「むざむざ獣と一緒に放っておけるか。マスターを危険な目に遇わせられない」 言い切るディムロスに、リオンは侮蔑の視線を投げかけた。 「ふん。マスターな・・・・・・。本当にそれだけか?」 ディムロスの眉がぴくりとはねる。 「どういう意味だ」 「マスターとソーディアン。それ以上の感情をスタンに抱いているんじゃないかと訊いているんだ」 「そんなことを貴様に言う義理があるのか?」 「あるな。――――邪魔者は早めに排除しておくに限る」 言うが早いか、リオンは前に飛び出した。 そしてディムロスの腕からスタンを奪還する。 「しまったっ!」 今度はディムロスが臍をかむ。 それにしてもこんな騒ぎになっているのにスタンの方は目覚める気配すらない。 ただ生きている証拠に寝息だけはした。 「油断大敵という奴だ」 「くっ!」 そのまま、己よりも上背のあるスタンを軽々抱き上げた。 「どこへ行く!」 「大声を上げるな。スタンが起きるぞ」 「うっ!」 覿面に口を押さえるディムロスを見て、リオンは悠々と勝者の笑みを浮かべた。 「まっ。目覚められると色々と面倒な事もあるしな。取り敢えずは宿のベッドへ行くか」 「なっ!?」 「ンなこと許すと思ってんの!!」 別の場所から声がしたかと思うとリオンの頭に落ちる氷の塊と刺さる矢。 現れたのは怒りの形相のルーティとリオンの手から落ちたスタンを抱きとめるウッドロウ。 「・・・愚かな」 眼下で臥しているリオンを見、ウッドロウはわずかに溜息をついた。 「お前たちいったいどこから・・・・・・」 新たな敵の出現に身構えるディムロス。 「そんなことはどうでもいいの。それより・・・・・・」 ルーティは手早くウッドロウの腕からスタンを引っ張り出すと、 「こンのスカタン!何襲われててグースカ呑気に寝てんのよ!!」 胸倉を掴み、がくがくと千切れそうなほど首を揺らす。 「ルーティ!あまり手荒なマネは・・・・・・」 「っさいわね!こうでもしなきゃこのバカ起きないじゃない!!」 ルーティの剣幕に一瞬ひるむディムロス。 どんな時代でも女は強い。 「しかしな」 「彼の事は彼女に任せて、我々はこちらを相手にしないか?」 よもや殺しはしないだろうと、ウッドロウはディムロスの肩を叩く。 その視線の先にはよろよろと立ち上がるリオンの姿。 「貴様ら・・・」 「君が私を気に入らないのは重々承知だが、ここは一つ共同戦線を張ったほうがいいと思う。どうだい?」 「・・・かなり気に喰わないが、それも仕方がないか・・・・・・」 ウッドロウが弓を取り、ディムロスも剣を取って身構える。 「――――僕に勝つ気でいるのか、莫迦め」 赤く濡れた顔に薄ら笑いを浮かべ、リオンもまた、剣を取った。 緊迫した空気が流れる。 その空気の外で、 「もー!何で起きないのよー!!」 ルーティはひたすらスタンを起こそうと必死だった。 さっきから激しく揺すってみたり、大声を上げたり、瞼をこじ開けてみたり、くすぐってみたりしているものの目覚める気配は一向にない。 「どうなってんのよ、アンタはぁ!」 確かにこの陽気。 うとうとしないと言えばウソになる。 だがそれにも限度というものがあって、スタンはその限度を軽く振り切っていた。 「スタン!スカタン!田舎モノ!藁頭ー!」 咽喉が張り裂けんばかりに叫ぶも、結果は無駄。 あんまり憎たらしくなって拳を振り上げかけたが、幸福そうな寝顔に腕はまた下りる。 「もぉ・・・・・・あんたらもちょっとは手伝ってよ!」 後ろをむいて見れば、宿の庭だというのを完全に無視したバトルが繰り広げられていた。 「だいたいお前達いい加減に諦めろ!」 切りかかるリオンを、ディムロスは炎の壁で塞ぐ。 「それはこちらの科白だと思うがね!」 ウッドロウの放った氷を纏った矢を、リオンは跳ね返した。 「言っておくがアレは僕のものだ。手を引けといわれる道理はない」 「スタンが、いつお前のものになったっ!」 「寝言は眠ってから言ってもらおう」 「世迷言じゃない。僕がそう決めたんだからそうなんだ!」 この騒ぎに宿の人間も駆けつける。 「お客様方!他のお客様も居られますので、そのような事は・・・・・・」 「うるさい!!」 そのあまりの剣幕に、一般市民である宿の主人は体を強張らせるしかなかった。 「あー、もお・・・・・・」 ルーティはギリリと奥歯を噛んだ。 スタンは起きない。後ろじゃ理不尽な戦闘が繰り広げられている。おまけにさっき矢だか石っころだかが頬を掠める。 ルーティはスタンを宿の中まで引っ張っていくと、おもむろにアトワイトを取り出した。 『あ、あの。ルーティ?』 アトワイトが脅えたように伺いの声を出す。 「黙ってて、アトワイト」 やけに静かな声に、アトワイトは口を噤む。 「あんたらねぇ・・・・・・」 ルーティがアトワイトを掲げる。 まだ彼らは気づいていない。 「いい加減に・・・・・・」 ただ事でない気配に宿の主人が慌てて避難した。 「っ!いい加減にっ、しろ――――ッ!!」 次の瞬間、膨大なエネルギーが庭全体を覆いつくした。 ――――スタンが目を覚ましたのは、夕焼けが近づく頃だった。 「あれ・・・?」 なぜか庭で寝ていたはずなのに、見知らぬベッドの中にいる。 「起きましたね、スタンさん」 椅子に座ってこちらを見ていたらしいフィリアが、安心したように微笑んだ。 「フィリア・・・・・・ここ、どこ?」 「宿を替わったんです。すこし、色々ありまして」 「ふぅん。ところで皆は?」 きょときょとと周りを見渡す。 「皆さんは・・・・・・」 フィリアは少し言いよどんで、 「ルーティさんを除いて、お医者様のところです」 「えっ?」 ――――それから一ヶ月、彼らがその町で足止めを喰らったのは言うまでもない。 |
あとがき
リク内容はBLスタン争奪戦。
元は『賑やかな午睡』の書きかけ。
結局勝ったのはルーティとフィリアの模様です。
この後宿がどうなったか。
おそらく無事じゃないでしょうね(爆)
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