噂な毎日

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たまに耳を澄ませてみれば、そこかしこで聞こえてる・・・




まだ鳥も目覚めぬ早朝の事。
ヒューゴ邸の屋敷裏手では、こんな会話が。
「困ります!」
ゴシック調の機能性重視な作業着姿の少女が困惑気に言う。
「別に気にしないで」
対して長い金髪の青年は快活に笑った。
その手には調理で使うと思しき薪の束。
「こんな重いもの女の子に持たせるわけにはいかないよ」
「ですが、私がリオン様に怒られてしまいます!」
「ばれなきゃ大丈夫。リオンがなんか言って来たら俺が勝手にやってるだけだって言っておいてよ。じゃ、持ってくね」
そう言って、軽々と束を持って屋敷へ戻る。
「・・・スタン様」
頬を染め、すこし戸惑いながら彼女はその後に続いた。






「失礼します」
重厚なドアを恭しく開け、中へ入る。
中では若き主が書類整理の真っ最中であった。
「お茶をお持ちいたしました」
言うと、主人はちらりとだけこちらを見、また作業に戻る。
その人形めいた横顔に見惚れつつ、彼女は茶と菓子をセッティングする。
自分の淹れた琥珀色の液体が主人の唇に吸い込まれるのを見てから、彼女は満足げに部屋を出た。
「リオン様・・・・・・」
先ほど出した菓子よりなお甘い溜息が零れた。







そして。
「みんなー!ちょっと!!」
窓を担当していたまだ年若いメイドが掃除の手を休め仲間を手招く。
「どーしたのよ」
「来てるの、あの人来てるの!」
「ええっ!本当!?」
同じ年代くらいの仲間が次々と集まる。
二階の大きな窓から覗く、玄関までの道。
そこからこの地方には珍しい銀髪が見えた。
派手ではないが、かと言って野暮ったくもない上品な風体の男性が一人、こちらに向かってやってくる。
「あたし出迎えてくる!」
「ああっ!ずるーい!」
「あたしも行きたいー!」
次々騒ぎながら廊下を駆け下りようとする、が。
「何やってんの、あんたたち!!」
妙齢の、他の面々とは少し違った服を着た女性が鋭く一喝する。
すると全員はびくりとその場で固まった。
「め、メイド長・・・・・・」
「まったく、あんな黄色い声を出してはしたない。あなた達掃除は終わったの?いつまでも騒いでいないでさっさと終わらせてしまいなさい!!」
「は、はい!!」
全員大慌てで自分の持ち場へ戻る。
それを見届けてから、女性は階段を静かに、足早に降りていった。
「・・・なんだ、結局自分が行きたかったんじゃない」
箒を持ったまま、一人が見送りながらぼやいた。





「お待たせいたしました」
メイドは涼やかな声で規律通りそう告げた。
「突然押しかけてすまない。スタン君はいるかな?」
「スタン様ですね、少々お待ちください」
低いが、どこか温かみのある声で告げられ、メイドは恭しく頭を下げた。
そこへちょうど呼びにいこうとしたスタンが現れる。
「まぁ!スタン様!!」
その格好にメイドは悲鳴を上げた。
全身煤だらけで、手には黒く汚れたバケツを持っている。
泥遊びでもしてきたかのような状態だ。
「どうなされたのですか、そのお姿は!?」
「あの、暖炉が詰まってるっていってたから掃除してたんです」
「そのような事私どもにお申し付けくだされば・・・・・・」
青ざめるメイドに、スタンは快活に笑うと、
「でも、煙突高くて危ないし。俺、毎日あんまりやることも無いから」
「相変わらずだね」
「ウッドロウさん!?」
客人の姿を見て、スタンは駆け寄りかけるがすぐ立ち止まる。
「うわっ、スイマセン。すごいカッコで」
「別に君らしくていいと思うがね。客間で待っているから着替えてくるかい?」
「えっ」
「ぜひそうさせていただきます。さぁ、スタン様!」
「あ、はいはい」
メイド長に背を押されるように、スタンは自室へ向かった。
数分後。着替えてさっぱりしたスタンが客室へ戻ってくる。
「お待たせしましたー」
「早かったね」
「はい。それで、今日はどうしたんですか?」
テーブルを挟んで向かいのソファに腰を落ち着かせる。
「いや、少し顔がみたくなってね。あまりこっちには遊びにこれないみたいだから」
「スイマセン・・・・・・」
申し訳なさそうに言うスタンに、ウッドロウは苦笑して、
「別に責めているわけではないんだ。そちらも忙しそうだからね」
「結構暇ですよ。でも、リオンが外に出してくれなくて・・・・・・」
不満げな溜息を吐くスタンに、ウッドロウは、
「まるで籠の鳥だね」
「どっちかって言うと軟禁状態って感じです」
苦笑するスタン。
「――できるなら、私が攫い出してしまいたいよ」
「えっ?」
「――――お待たせいたしました」
頃合を見計らったかのように、メイドがドアを開ける。
盆の上の茶と菓子を見て顔を綻ばせるスタンとは対照的に、ウッドロウの方は少々迷惑顔だった。








それからまた。
「あ、またあの人来てる・・・・・・」
中庭で花壇の手入れをしていたメイドが呟いた。
一緒に作業していたもう一人も仲間の向いている方を見る。
屋敷の裏手、一組の男女がなにやら話し込んでいた。
片方はこの屋敷の住人、スタン。
もう片方は、しょっちゅう正攻法でなく屋敷に出入りしている女性、ルーティ。
「何話してんのかな」
「別れ話?」
そう思うほど、ルーティの方は不機嫌そうだった。
「だからぁ、何でアンタこの家でないの?」
「出ないんじゃなくて、出れないんだよ」
「なんで。一言いってから出るなり、それがダメなら塀を乗り越えるなり何なりできるじゃない!」
「そーなんだけどね・・・・・・。後の祟りが怖いんだよ」
「なんか言った?」
最後の言葉が聞き取れなかったらしく、聞き返すルーティにスタンは慌てて、
「いや!なんでもないんだ。そういう訳だから旅の用心棒は他を当たってくれよ。何で俺んとこばっかくるんだ?」
「ンなモン・・・・・・。アイツと二人暮しってのが癪なのに決まってんじゃない」
「はっ、何?」
「何でもない!」
怒鳴るように言い返して、ルーティは交渉を再開した。






さらにその夜。
「今日もお客さん多かったねー」
夕食の食器を片付けながら一人が呟く。
「本当。それにしてもスタン様ってお友達が多いのねぇ」
「今日なんてストレライズの神官様も来ていたわよ」
「他にも吟遊詩人なんていたし」
「すっごい格好だったわよね、あの人」
「でも、ちょっと格好よくなかった?」
「アンタはまたそういう事を・・・・・・」
「ちょ!リオン、放せよ!!」
呆れたメイドの声に重なるように、ロビーから大きな非難の声。
そっと食堂のドアから覗くと、そこには帰ってきたばかりのリオンに手を引っ張られるスタンの姿があった。
「お前、どうしたんだよ!帰ってくるなり」
「・・・今日ウッドロウが来たそうだな」
「そうだよ?」
リオンの不機嫌な声に、首をかしげながら返事をする。
「ルーティにフィリア、果てはイカレた詩人まで来たというじゃないか」
「イカレたって・・・・・・ジョニーさんの事変な風に言うなよ」
「僕の留守中、そういった類の人間は家に入れるなと言っておいたのを忘れたか?」
「いいだろ。俺が外にいけないから、みんな遊びに来てくれたんだぞ」
「分かってないな。根本的に・・・・・・」
「だからなにがっ!?」
「一緒に来れば分かる」
そんな会話が次第に遠ざかっていく。
完全に声が聞こえなくなってから、メイド全員は顔を見合わせた。
「・・・珍しいモノ見たー」
「リオン様って、スタン様の事本当に大事になさってるわよね」
「うん。それにしてもあの姿・・・・・・。まるで妻の浮気を心配する旦那様って感じじゃなかった?」
「したした!そんな感じした!」
「きゃー!もしかしてあの二人って本当に危ないカンケ?」
「あたし、あの二人だったらいいかも」
「アタシも!下手な女に取られるよりそっちの方が断然いい!!」
きゃあきゃあと姦しく、本来の仕事などそっちのけで盛り上がるメイドの面々。





今日も彼女たちの噂は続く。
この話をスタン達はあんまり・・・絶対聞かないほうがいいかもしれない。

あとがき

リク内容はリオスタで争奪戦。
外野から見た彼らの姿。
ある意味メイドさんって美味しいポジションだよなぁと思って(爆)
リオスタになってればいいんだけど・・・・・・

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