賑やかな午睡
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ふわり。 風が薫る。 穏やかで実に過ごしやすい午後である。 人気も少ない森の中。 スタンは木陰で夢の中にいた。 夢の内容はよく覚えていない。 ただ何となく息苦しくて、徐々に夢が晴れてきた。 うっすら開けた目に飛び込んできたのは、ぼやけた綺麗な顔。 見覚えのあるリオンの顔だった。 (きれーだなぁ・・・・・・) ぼやっと考えていたがその内重要な事実に気がついた。 息苦しさの原因。 それは唇を塞がれていたせいだ。 しかも――――相手の唇で。 「うぅーっ!」 唸ると相手も気づいたようだが少し目を開けただけで、キスを止めようとはしない。 「んっぐ・・・・・・んぅ!!」 何度か手のひらを相手に叩きつけてみたり、足で空を蹴ったりと無駄な反抗をしてみるも相手は離れようとしない。 その内酸素不足のためか、それとももっと他の理由か、目の前がボーっと涙で霞んできた。 「ふっ・・・ん・・・ふぁ」 息に色がつく。 ピチャリと湿った音を立てて唇が離れた。 「目が覚めたか」 問われたが、ろくに答えられる状態ではない。 ただ涙の滲んだ目で睨むのが精一杯。 そんなスタンの抵抗をリオンはからかうような目で見つめると、 「そんな顔をされると誘われているような気になる」 「ばっ!」 「寝言は寝て言えっ」 と、別の角度から別の声がして、メキャリと小粋な音がした。 「でぃ、ディ・・・ムロス?」 まだ涙の滲む目で見上げると、人の形をとっているディムロスがリオンの後頭部に踵落としをお見舞いしていた。 さっきのを見られたかとスタンは慌てて体を起こし、唇を拭う。 「スタン、立てるか」 気を失ったリオンの下からディムロスはスタンの腕を取って引っ張り出す。 だがスタンの足は完全に役に立たなかった。 「腰、抜けてる・・・・・・」 スタンは呆然と呟く。 「・・・・・・しょうがない」 溜息一つ吐くと、ディムロスはスタンの腰に手を添え、足を支え、横抱きに抱いた。 「うわっとっ!」 「落ちるぞ。つかまってろ」 「う、うん」 慌ててスタンはディムロスの首にしがみつく。 ディムロスはそんな様子を見てふっと笑った。 「な、なんだよ」 間近で笑われ、さては腰が抜けてしまった事に対してかとスタンは顔を赤くしながら眉を寄せる。 「いや。なかなか愛らしい状態だと思ってな」 「なっ!?」 しらっと吐かれたその科白はスタンの顔を赤くさせるには十分すぎる効果を持っていて、 「ま、まじめな顔でからかうな!!」 「本当の事を言ったまでだ」 「男が可愛いわけないだろっ」 「だが私はかわいいと思った。褒めているんだがな」 「どっちかっつーと貶してるって感じだけど・・・・・・」 不満げに顔を背けブツブツ言うスタンに、ディムロスの相好は崩れる。 「――いつまでそうしているっ!」 気合の入った声と共にガスッと言う音がして、ディムロスの体が後ろに倒れる。 スタンの体を見事に避けて、今まで気を失っていたとばかり思っていたリオンがディムロスの顔面に手刀を叩き込んでいた。 「リリリっ、リオン!!」 スタンはぎょっと声を上げた。 なぜならリオンの顔は血の赤と肌の白でさしずめ紅白幕のようになっていた。 本来ならおめでたい色だが、この状態だと不吉極まりない。 「おまえっ大丈夫か!?」 「これしき、どうって事はない」 そう言って、本当に平然と血を拭うリオン。 スタンはなんだかホラー劇でも見てる気になってきた。 「あ、そうだ!リオン、何でディムロスを襲ったりしたんだよ!」 「襲われていたのはお前自身だろうが」 リオンは呆れた顔でスタンを見る。 だが当のスタンはきょとんとした顔で、 「何?どー言う意味?」 「お前がそれを言うか・・・・・・っ!」 よろよろとディムロスが立ち上がった。 その声は地獄の底を這うように低い。 リオンが軽く舌打つ。 「なんだ、生きていたのか」 「勝手に殺されてたまるか・・・・・・お前の方こそよく生きていたものだな」 「ふん。貴様を野放しにして誰があの世になんぞいけるか。むしろお前が逝け」 「断る。第一お前の方こそそのままにしておけばスタンに害を及ぼすに決まっている」 「過保護なことだな」 「どうとでも言え」 寒々しくも熱い会話と、二人の間に散る火花。 そしてその傍らでは事態についていけず呆然としているスタン。 とりあえずこの二人が何かを争っていることは分かっている。 が、しかし。 それがよもや自分の事とは露とも気づいていなかった。 「――――これは最終警告だ。今すぐスタンから手を引け。さもなくば」 「どうなると言うんだ」 薄ら笑いを浮かべるリオンに、ディムロスは表情のない顔で告げた。 「この場でお前を排除する」 「――できるとでも思っているのか、阿呆が」 やはり口元に嘲笑を浮かべたまま、リオンは腰の剣を抜いた。 きらりと、白刃が午後の穏やかな日差しを不穏に跳ね返す。 「私に勝てる自信があるか?青二才め」 冷たい視線でリオンを睨む。 ディムロスもまた、剣を抜いた。 そばにいたスタンはぞくりと怖気を感じた。 二人から醸し出されるのは怒気でも闘気でもない。 紛れもなく――――殺気だ。 「二人ともっ!」 「覚悟!」 「返り討ちだっ!」 まるでスタンの悲鳴が合図だったかのように二人は同時に跳んだ。 たちまち切り結ぶ剣の音が平穏な空気に取って代わる。 (なんだよ、これぇっ!?) いまだ現状が把握しきれていないスタンはただ目を見開いて二人の死合いを見つめていた。 「おい、止めろよ!二人とも!!」 叫ぶも、その声はむなしく剣戟の響きに消される。 (二人は本当に殺しあおうとしている) スタンはぞっとした。 同時にたとえようもない怒りが内からこみ上げてくる。 (お前らなぁぁ〜っ!) 目の前で理不尽な戦いを続ける二人に、スタンはそれだけで射殺せそうなほど鋭い視線を向けた。 震える手で拳を握り締める。 そして。 「いー加減にしろおぉぉぉ〜ッ!!」 地を震わさんばかりの絶叫に、流石の二人も手を止める。 ぽかんと動きを止めた二人に近づいたスタンは、其々の頭に一発ずつ拳を振り下ろした。 「いっ!」 「っつ!何をっ!」 「何をじゃない!!」 リオンの声を遮り、スタンは叫んだ。 「お前ら何やってんだよ!何が原因か知らないけど喧嘩に抜き身持ち出すなんて普通じゃないぞ!死んじゃったらどーすんだ!!」 「いや、スタン」 実際殺そうとしてたんだと言おうとしたディムロスは、スタンのきつい一睨みに口を噤む。 「死んじゃったらなぁ、終わりなんだぞ!俺は二人が死ぬなんて絶対嫌だっ!」 叫び終わり、荒い息を整えながらスタンは俯いた。 「絶対、嫌だからな・・・・・・っ!」 涙の浮かぶ空色の目で睨まれ、二人は息を呑んだ。 「スタン、悪かった」 ディムロスがそっとスタンの髪を撫でる。 「僕も、その、やりすぎたようだな」 リオンがスタンの目から零れそうな雫を拭う。 「もぉ、やんないな?」 「しない。お前を悲しませる事はしない」 ディムロスの言葉にスタンはリオンの方を向く。 リオンはまっすぐな視線に少し顔を背けると、 「しない、事にしよう」 「・・・よかったぁ」 安堵の息を吐いたその瞬間、スタンの足から力が抜けた。 「スタン!」 「くっ!」 ディムロスとリオンが両側から支える。 「ゴメン。安心したら・・・・・・眠く・・・・なっ・・・・・・」 言い終わる前に目を閉じ、寝息を立て始める。 その様子に、ディムロスとリオンの双方は思わず顔を見合わせた。 で、結局。 「おい。あんまりくっつくんじゃない」 「そっちこそ、その手を除けろ」 涼やかな木陰の下。 いがみ合う青年と少年の間で、スタンは何も知らずくぅくぅと寝息を立てていた。 実に穏やかな、午後の出来事。 |
あとがき
リクはディムロスVSリオン×スタン。
シチュエーションはスタンの昼寝。
リオンの起こし方はキスで。
これも書いてて楽しかったですね。
ディムロスは保護者チックで、リオンは少々強引で、スタンは何にも分かってない。
惚れた弱みってのもあるんだろうけど、結局最強はスタンですか?(笑)
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