暴走ロマンス
=休日デート編=

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世に順風満帆の言葉あれど、こと恋愛に関してはその言葉を使う余裕などまったく無い。
そう思い始めた今日この頃・・・・・・




「あ〜、だめだぁ〜・・・・・・」
スタンは鉛筆を放り出して机にべったり懐き倒した。
その頭を容赦なく丸めた教科書が襲う。
「こら、休憩していいといつ言った」
「だってさぁ・・・・・・」
スタンは恨めしく鬼のような家庭教師を見上げた。
夜明け前の海を思わせる深い紺青の髪に切れ長の金眼。
街に出れば確実に女が放っておかないだろう。
ただし今の姿を見せなければ、である。
「ほら、後二問だ。これくらい十分で解いて見せろ」
「無茶言うなーっ!!」
スタンが吠える。
それでも青年は顔色一つ変えず。
「お前はやればできるんだから、やれ」
なんとも無慈悲な言葉を掛けた。



青年の名はディムロス。
現在難関の誉れ高い国立ダリルシェイド大学の院生。
そしてスタンの従兄弟であり、また家庭教師でもあった。
たいして教えてもらっているスタンという少年は、学校法人ダリルシェイド高等学校の学生。
ディムロスの「やればできる」の言葉どおり、普段の成績は芳しくないがなぜかテストになると成績がぐんと上がる本番本領発揮タイプ。
来年には従兄弟と同じ大学を受験予定である。



「で・・・できた・・・・・・」
スタンはぐったりと椅子の背もたれに体を預けた。
予定時間を五分オーバーして全問解き終わった。
頭はもうショート寸前である。
その横で、流れるような動作で赤ペンを走らせて、ディムロスはノートを閉じた。
「一つ怪しいものはあったが一応全問正解だ」
「あ〜い・・・・・・終わったあぁ」
「よくやったな」
そう言ってディムロスはスタンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
スタンは迷惑そうな顔でその手を払った。
「止めろよ。こういうの!」
「ご褒美だろう。昔は嬉しがっていたくせに」
「昔は昔だろ。今は子ども扱いされてるみたいで腹が立つんだ!」
「そうか・・・なら“大人の扱い”をしてやろう」
「え、んっ・・・・・・」
ふわりと、唇が重なる。
最初は眼を見開いていたスタンだったが、やがてゆっくり目を閉じてそれを受け入れた。


――補足。
さらに彼らは恋人でもあった。


その翌日。
素晴らしい晴天に恵まれた日曜日。
今日は前々から計画していたデートの日。
スタン宅に泊まり、意気揚々と家を出ようとしたディムロスは思わずドアノブを持ったまま固まった。
「やぁ、ディムロス」
そこにはディムロスが元学んだ事のある教師であり、スタンの現担任であるカーレルが立っていた。
・・・・・・ドアの直ぐ間際で。
ディムロスは反射的にドアを閉めた。
だがそれより先にカーレルの足がドアの間に割り込んだ。
「っく!何の御用時でしょおかっ、カーレル先生っ!」
「君に用事ではなく、スタン君にっ!!用事なのだけどねっ、ディムロス君っ!!」
穏やかそうで実際真逆な会話の間にも攻防は続く。
「ディムロス〜、誰。お客さん?」
そしてスタンがひょっこり玄関に顔を出すと、ディムロスは玄関に板を打ち付けている真っ最中であった。
スタンが小首を傾げて、
「・・・・・・台風?」
「それより性質が悪い」
ディムロスは打ちつける手を休めることなく言い放った。
ちなみにどうやってカーレルを追い出したか解説すると、


まず思いっきりドアを開き(外開き)、
カーレルが吹っ飛んだのを確認したのち、
鍵をかけて、
大急ぎで家の中から大工道具と板を持ってきて、
台風の前さながらにドアを補強した。


と、いった具合である。
「今日は出かけるのよそうか?」
「いや・・・家の中のほうが余計危険だ」
「・・・・・・ディムロス、お前変だぞ?」
そう言い切った一時間後、二人はようやく家を出た。
その時もディムロスは周りへの警戒を怠らず、さらにスタンに不信感を抱かせた。





「・・・・・・」
「・・・・・・」
最初の目的地、カフェ前まで来て二人はぽかんとした。
ディムロスの方はぽかんと言うより幽霊でも見たかのように唖然としていた感じだけど。
「カーレル・・・先生?」
そこにはなぜかウェイター姿で甲斐甲斐しく働くカーレルの姿があった。
「何故ここに・・・・・・」
「やあ、スタン君、ディムロス」
気がついたカーレルがにこやかに挨拶をする。
「何やってるんですか、先生」
「ここは私の友人が経営しているのでね。休みの日は時々手伝っているんだよ」
「いいのか。教師がアルバイトなんかして」
ディムロスは低い声で脅すように言った。
(こんな事ならあの時鎖つけて近所の池に放り込んで置けばよかった・・・・・・っ!)
少々危険な後悔が心中渦巻く。
そんな心のうちを知ってか知らずか、カーレルはやはり表情を変えず、
「別に金銭は受け取っていないのでね。アルバイトという訳ではないよ」
「ふーん。先生って優しいなぁ」
双方の思惑にまったくこれっぽっちも欠片も気づかないスタンは、素直に感心した。
それから、一応そこで食事を取っては見たものの、なぜかカーレルはべったりスタンと話し込んで、ディムロスは完全に蚊帳の外。
たまりかねてぼそりと、
「仕事の方はいいのか、仕事の方は」
「今の時間は比較的すいているし、休憩だよ、休憩」
「・・・眼球付け直してからのたまえ」
騒々しい人声のBGMに、ディムロスの呪詛は掻き消えた。






とっとと食事を終わらせてやってきたのは動物園。
「子供の頃よく来たなぁ」
懐かしそうにはしゃぐスタン。
一瞬幼い頃と重なって、ディムロスは口元に微笑を浮かべる。
「ディムロス、ライオン見に行こう、ライオン!」
「あまりはしゃぐと転ぶぞ」
声をかけて、ディムロスもスタンの元へ足を速めた。
子供づれの家族と一緒に、順当に動物たちを見ていって一番目当てのライオンの檻。
「あ、数は増えてないけど、一匹新しい奴がいるー」
スタンが檻の中の一匹を指差した。
「よく見分けがつくな」
「あれは一昨年生まれた子で、メスだそうだよ」
「へぇー・・・・・・」
「ほぉ・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・どうかしたのかい?」
落ち着いた声に二人は息を呑んだ。
「――――カーレル!」
「先生、何でここにっ!」
見ればカーレルは飼育員の格好で手にはご丁寧にデッキブラシまで持ってる。
「この動物園は私の友人の父が運営しているところでね。人手が足りない時は手伝っているんだよ」
「飼育員の資格はどうした、資格は!?」
「ところでスタン君」
「無視するなっ!!」
激昂するディムロスを完全に無視し、カーレルはスタンに笑顔で、
「よかったら私が動物園の中を案内しようか?新しくできた場所もあるし」
「ほんとですか!?」
ぱぁっとスタンの顔が喜色に輝く。
「お、おい。スタン」
「ディムロス、早く行こう!」
ディムロスに声をかけ、飛び跳ねるようにカーレルの腕を引き、先を急ぐスタン。
はっと気がついたディムロスの眼に、勝ち誇ったようなカーレルの横顔が映った。






園内めぐりの途中、もっと見たいというスタンを引っ張ってやってきたのは水族館。
来るまですこし不機嫌気味だったスタンだったが、中に入るや否やすぐさま上機嫌に変わる。
「ディムロス!ここ、イルカいるんだよな!」
「ころころとよく気分が変わるな、お前は」
からかい混じりのディムロスの言葉にスタンは少し頬を染め、
「しょ、しょうがないだろ。俺、もっと動物園見て回りたかったのにお前が邪魔するから・・・・・・」
「ここでは邪魔しないから、安心しろ」
「絶対だからな」
「わかったわかった」
念を押すスタンに、ディムロスは子供にするように頭を撫でる。
「・・・・・・また子ども扱い」
スタンは手を払い、唇を尖らせた。
それを微笑ましく見つめるディムロス。
「すまないな。それより、イルカを見に行くんじゃないのか?」
「あ、そーだ!行こう、ディムロス!」
途端笑顔に戻るスタンを見て、ディムロスはまた伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。
珍しい魚が泳ぐ水槽や、海の中にいるような気になる通路を抜けて、イルカのいる水槽までやってきた二人。
瞬間、ディムロスはスタンをつれてダッシュで逃げたくなった。
それもそのはず、なぜかここでもカーレルと遭遇してしまったからだ。
しかも動物園同様飼育員の格好で。
「えーと、先生。ひょっとしてここも・・・・・・」
カーレルの姿に気がついてきょとんとするスタンに、相手は笑って、
「ええ。友人の父親の昔の恋人が経営している水族館なんです。たまたま手伝いに来ていたのだけど・・・・・・」
「お前の交友関係はどうなってるんだ――――っ!!」
ディムロスの血を吐くような絶叫に、イルカはおろかその場にいた一般客まで逃げ出してしまった――――。







「ディムロス・・・大丈夫?」
夕暮れの帰り道。
ぐったりと覇気の無いディムロスに、スタンは心配げに話しかけた。
「疲れてるんなら、やっぱり今日は出かけないほうがよかったんじゃないか?」
その言葉にディムロスはうっそりと、
「お前が今日をずっと楽しみに待っていたのを知っているからな。そんな事はできん」
「・・・おれ、別にいいよ」
スタンは少し沈んだ表情で、
「別に、ディムロスと一緒ならそれでいい。ディムロスが疲れるんなら、どこ行かなくっても俺は・・・・・・」
「スタン・・・・・・」
ほんの少し目を見張って、それからディムロスは微笑みかけた。
「そうだな。どこかへ行かなくても、二人で居れればそれでいいか」
そう言って誰もいない夕暮れの道を、二人は手を繋いで家へと向かった。






家に帰ると、美味そうな匂いが家中に漂っていた。
「ただいまー、リリス!」
「おかえり、スタン君」
「ってぇ、カーレル先生!!」
本日四度目。
しかも家の中で、あまつさえエプロンを着用して台所に立っている担任に、スタンは声を上げた。
「何で・・・・・・先生、俺んちに・・・・・・」
「今日妹さんが友達と出かけて遅くなると聞いたのでね。夕飯を作って待っていたよ」
にこやかな笑顔を前に、ディムロスは台所の入口で脱力した。
もう追い払う気力も怒鳴る体力も微塵とて持っていなかった・・・・・・

あとがき

リク内容はディムスタで、
ディムロス=従兄弟兼家庭教師(教育は徹底していて素晴らしい)スタン=従兄弟兼生徒(見かけによらずやるタイプ)
カーレル=スタンの担任(ディムにちょっと嫉妬?)
授業の後は甘甘で、休日はデートにいそしんでいる。
今回はデート編、カーレルの邪魔がどれだけすごいかのギャグ風味。
正直カーレルのキャラをあんまり掴んでいないので、結構大変でした。
でもあのハロルドの人格を投影したソーディアンを使えるんだから、結構凄い人なんだろうなぁと。
なんかディムロスがへたれ(笑)

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