Voice
=耳に残るは君の声=

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ふと、空を見上げる。
青の中から響く、懐かしき彼の人の声。






明け方の海はまだ暗く、引きずり込まれそうな魔力を持っている。
スタンは誰もいない船着場で佇んでいた。
ただ佇んでいたわけではない。
じっと、耳を澄ましていた。
波音の隙間から、遠く町でざわめく人声の中から、たった一人の声を探し出そうとしていた。
「・・・・・・ふぅ」
結局努力は無駄に終わり、溜息と一緒にその場に腰をおろす。
海を眺めながら遠くを見つめる。
「ディムロス・・・・・・」
思わず、捜し求める相手の名を呟いた。





声が聞こえ始めたのは騒乱から一年経った頃だった。
最初はただの幻聴かと思った。
会いたさが聞こえさせる幻。
だがそれから毎日声は続いた。
囁くように、朧に名を呼ぶ懐かしい声。
いてもたってもいられなくなった。
募る思いを抑えきれなくなった。
リリスが止めるのも聞かず、又旅に出た。
馬鹿げている、かも知れない。
ディムロスはあの時、神の目と共に消えたはずだ。
だがそれでも、探さずにはいられない。
諦めきる事ができない。
言いたい事がまだたくさんあるから。
聞きたいことがまだたくさんあるから。
でも本当にあの声はディムロスの物なのか。
もういくつもの国を回って来たが、いつも成果はゼロ。
確かだと思っていた自信が揺らぎ始める。
同時に、ある人の事が浮かんできた。




旅の途中、一度ハイデルベルグへ寄った事がある。
戦乱の爪跡はそこかしこに残っていたが、復興は確実に進んでいた。
突然訪ねたスタンを、ウッドロウは驚きもせずに迎えてくれた。
なんだか時間が止まっているような気がしていたが、王の貫禄の出てきたウッドロウを見て、時間は確実に経っているのだと知る。
夕食の後、二人はテラスでこの一年のことを話し合った。
そして旅に出た理由を問われ、スタンは少々躊躇いながら答えた。
告げた後、ウッドロウは少し黙り込んだ。
「・・・おかしい、ですよね」
スタンは少し俯きながら呟いた。
「もう一年以上も立ってるのに、声が聞こえるだなんて・・・・・・。あいつがいなくなったのが信じ切れてないのかも知れません」
「君は、これからも探し続けるつもりかい?」
言われて、少し考えた後頷いた。
「たぶん・・・いや、きっと声が聞こえ続ける限り、探すと思います」
「いなくても?」
「・・・・・・」
「彼が、もういないのだとしても?」
「・・・・・・いると思います。どこかに、きっと。それに、どうしても訊きたい事があるんです」
そう言って思い出す。
あの日から聞こえ続ける声を。
確かに届いたあの響きを。
「だから、探します。世界中どこに居たって見つけてみせる」
固い決意を胸に、スタンはウッドロウを見つめ返した。
「それほど想われていて、彼は幸せだな」
ウッドロウは視線をそらし、ふっと溜息をつく。
「けれどスタン君、もしも、もしも彼が見つからなかったら・・・・・・」
するりと、冷たい指先がスタンの髪を梳く。
「もう一度私の元を訪ねてくれないか?その時、私も言いたい事がある」
真剣なまなざしに、スタンはきょとんと目を丸くした。
「・・・・・・ジョニーさんと同じ事を言うんですね」
今度はウッドロウが目を丸くした。
「彼の元にも行ったのか」
「はい。やっぱりそこでも同じ事を言われました」
「そうか・・・・・・なら、できれば、彼より先に私の元へ来てくれ」
「・・・わかりました」
――――苦そうに笑うウッドロウが、なんだか印象的だった。







思い返してスタンはふっと溜息をついた。
ウッドロウのいう通りかもしれない。
ディムロスはあの時消えて、本当はどこにも居ないのかもしれない。
でも、それでも諦められない。
「どこにいるんだよ・・・・・・」
呟いた言葉は、潮風に浚われ消える。
打ち付ける波が、足を濡らす。
「えっ!?」
その時、突如波がひどくなった。
穏やかに晴れているはずなのに、まるで嵐のように高くなる。
「なんだよ、いったい!」
スタンは波に浚われないようにその場から遠ざかった。
倉庫近くまで来て、海を見る。
すると、今まで海水が満ちていたはずの場所から砂地が姿を現していた。
その砂地は、まるで一本の道のように長く続いている。


“・・・・・・タン・・・・・・ス・・・タン・・・・・・”


「――――っ!」
声がした。
いつもよりはっきりと、鮮明に。


“スタン・・・・・・スタン・・・・・・”


道の向こうから確かに、あの響き。
「ディムロス!!」
スタンは海の中の道を走り出した。
道を進むにつれ、声が近くなってくる。
「ディムロス・・・ディムロス・・・・・・っ!」
やがて道は終点についた。
そこは見たこともない木が覆い茂る小さな島だった。
「ディムロス・・・どこに居るんだよ、ディムロス!いたら返事しろ!!」
懸命に呼び、道の無い森の中を行く。
何度か蔓に足が絡まる。
小枝が頬を掠める。
それでもスタンは足を止めなかった。
進んでいくうち、木がまばらになってきた。
森の中、まるで広場のような場所に出る。
中央に見慣れない人間が立っていた。
青い髪、凛とした眼差し、すらりとした体躯。
見たこともない人間だった。
だがスタンは、二三歩よろめく様に前へ出て、その名を呼んだ。
「・・・・・・ディムロス」
「――スタン」
穏やかな笑みがスタンを迎える。
「――――っ!ディムロス!!」
叫ぶと、スタンはディムロスの元へ駆け寄った。
「なん・・・だよ、何・・・・・・ここに・・・・・・」
まだ幻かと触れた体は確かに温かくて、じわりと涙が浮かんできた。
「なん、だよ!俺、声が聞こえて、すごく探してっ!」
「ああ。呼んでいたからな、ずっと」
「何・・・なんでっ!!」
「会いに行きたくても行けなかった。まだ体の再生が出来ていなかったからな」
「どーいう・・・・・・」
興奮冷めやらぬスタンの背を撫でながら、ディムロスはポツリポツリと喋りだした。
「神の目を破壊した後、私もまた消滅したはずだった。だが神の目が消滅するさい起きた巨大な時空の割れ目に飲み込まれ、消滅する事はなかった。そこから漂い続けて、その後私はこの地に降り立った。だがその時はまだ精神体のまま。幽霊も同然だった。そこで、まだ壊れ切れていなかったコアクリスタルの力を使い、生身の体を作り上げていった。実際、こんな風にちゃんと体が出来上がるとは思ってもみなかったがな」
最後は苦笑と共にとじる。
「じゃ、何で・・・なんで、声がしたんだよ。何で呼んでたんだよ・・・・・・何で・・・・・・」
「・・・・・・逢いたかった」
ディムロスは静かに言った。
「会いに行きたかったが、精神体のままでは出来なかった。それにあの時も、神の目を破壊する時もただお前のことばかり考えていた。もしもっと私に力があれば、お前に苦しい思いなどさせなかったのにと・・・・・・」
「そんなこと言うなっ!」
スタンは激しく首を振った。
「そんなこと言うなよ・・・・・・っ」
「スタン・・・・・・」
「俺ずっと後悔してたんだ。あの時、本当にお前を犠牲にしてよかったのかって。もっと他の方法があったんじゃないかって。俺、俺、ずっと訊きたくて・・・だから俺よりディムロスのほうが・・・・・・!」
掠れそうな声を懸命に絞り出す。
震える手で、必死にディムロスの腕を掴んだ。
「ごめん・・・・・・辛い思いさせて、ごめん・・・・・・」
「泣くな、スタン」
ディムロスが泣き顔を隠すように抱きしめる。
「私は辛くなど無かった。世界を守ると言う事は、同時にお前を守れると言う事だ。その事が、私は誇らしかった」
「でも・・・でも・・・」
涙が止まらなかった。
それが悔恨の涙なのか、喜悦の涙なのか、スタン本人にも分からなかったが。
それでも、温かい体に触れて、優しい言葉を掛けられ、涙が止まらなかった。
「スタン・・・・・・」
優しい指先が涙を拭う。
「どうも私は、お前を傷つけたようだな」
「そんなことっ!」
「だができれば。許してもらえるのならこれからもお前を守り続けたい」
「――ディムロス?」
顔を上げると、ディムロスは少し苦しそうに笑いながら、
「これから、お前と共に生きていきたい。お前の傍を離れるのは――二度とごめんだ」
「――――っ!」
スタンはディムロスの体に抱きついた。
「俺も・・・一緒がいい。ずっと、一緒にいたい・・・・・・っ」
背に回された腕も、感じる鼓動も、もう二度と失くしたくないと思った。
「スタン・・・・・・」





慈しむ様に降る声。
温かく響いては沁みこむ。
それは求め続けた君の音――――。

あとがき

リク内容は騒乱一年後、ディムの声がして探しにいくスタン。
途中でウッドロウやジョニーのちょっかいがあるも、とうとう地図にも載っていない孤島で擬人化したディムロスを見つける。
その後はファンダリアで一緒に暮らすも良し、精神世界(死んだ訳でなくそこにはそこでの体がある)へいくも良し
スタンがディムに最後の選択を正しかったかと訊くシーンがあればなお良し。
との事でした。
すごく分かりやすいリクで、結構すらすらかけました。
本当にコアの力で生身の体が作れるかどうかは知りませんが(をい)
一瞬生成しているシーンを想像して気分悪くなりました(爆)
BGMイメージはポルノグラフティの『ヴォイス』
でも「結構合うかも・・・」って気づいたのは書き終わった後だったりして(笑)

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