晴天注意報

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彼の長所は“誰からも好かれる”と言う所である。
また短所は“騒動の中心が自分と気づかない鈍さ”と言う所である。







見上げた空は今年、類を見ないほどの見事な晴れっぷりであった。
吹く風も穏やかで実に過ごしやすい日である。
「リリスやじっちゃん、元気かな〜・・・・・・」
スタンはのほほんと空を見ながら呟いた。
ちなみにここは草原。
見渡す限り緑が広がっている。
「たまにはこういうなーんにもない日があってもいいよな〜・・・・・・」
スタンの言葉が示す通り、ここ最近は戦闘に次ぐ戦闘でみんな精神的にも体力的にもまいっていた。
一日くらい休みを取らないと堪えられない!
というルーティの談により、一同は一日だけのお休みをもらうこととなった。

「・・・スタンさん」
木の陰からひっそりこっそりスタンを見つめる熱い視線。
視線の主はフィリアであった。
『フィリア、こんな所で見詰めとらんで隣に行ったらどうじゃ』
クレメンテ老の言葉に、フィリアは顔を真っ赤にして首を振った。
「そそ、そんなこと出来ません!いいんです、私はこうして見ていられるだけで・・・・・・」
そう言ってまたうっとりとスタンを見つめる。
クレメンテは剣でありながらため息をついた。

――ちなみにスタンのいる場所からフィリアのいる場所まで実に20.7メートル。
恋する乙女の眼力とはかくも凄いものがあるのだろうか。

そしてそんなスタンを見つめるもう一対の目。

「ん〜、ん〜、ん〜・・・・・・」
『・・・ルーティ、唸ってばかりいないでいってきたらどう?』
「なっ!ど、どこによ!!」
ため息混じりの相棒の言葉に、ルーティは過剰な反応を示した。
『さっきからスタンの方をじっと見て唸ってるじゃない。側に行きたいのならそうしたら?』
「そそ、そんなわけないじゃない!誰があんな田舎もののところ!!」
『でも貴方さっきからスタンの方ばかり見てる気がするけど?』
「あああ、あたしが見てたのは・・・そう!レンズよ!あいつの側にレンズが落っこちてるからどうやってそれを気取られずに取れるかって、それを悩んでたのよ!!」
『・・・ルーティ、貴方の視力は動物並み?』

――ルーティからスタンまでの距離およそ12メートル。
この距離から草むらに落ちているちみっこいレンズが判別できるなんて極めて不可能。
アトワイトは素直になりきれない相棒の姿に、ばれないようこっそりとため息をついた。




ってな一部始終を知ってか知らずか、スタンに近づく一人の男。




「よっ、スタン」
「あ、ジョニーさん」
あいも変わらずやたらと豪奢な格好のジョーにが、隣に腰掛けた。
「なんだか間が抜けてるなぁ。俺がいっちょ景気のいい曲でも・・・・・・」
「あ、いや。それはお断りしておきます」
「言うねぇ、案外」
ジョニーは苦笑して楽器をしまった。
「天気いいなぁ・・・・・・」
「はい・・・・・・」
のほほんとした会話をする二人。
あまりの天気のよさに頭のネジが緩んでいるのかもしれない。
「寝転がりたいねぇ。でもそのまま寝転ぶと頭痛くなるんだよなぁ」
「あ、だったら俺膝枕しましょうか?」
普通の人間ならしないような提案を持ち出すスタン。
さすがのジョニーも驚いている。
「・・・いいのか?」
「はい。ちょっとは頭痛くなくてすむかも」
「そうかい、んじゃあお言葉に甘えて・・・・・・」
よいせっとジョニーがスタンの膝に頭を置くことはできなかった。
「うわっ!」
「なっ!?」
突然吹く巨大竜巻。
強風に目を潰され、やっと見えるようになった時にはもうジョニーの姿はどこにも無かった。
「な、なんなんだぁ・・・・・・?」






「なにあいつ、信じられないっ!!」
さっきと変わらず離れた場所から見ているルーティ。
その手にはディスク<おおたつまき>がしっかり装備済みのアトワイトが握られている。
『ルーティ、何もあそこまでしなくても・・・・・・』
アトワイトがジョニーに同情を向ける。
「いいのよ!あいつとんでもない事をしようとしてたんだから!」
『とんでもない事って?』
アトワイトの声は訝しげだ。
『こんなに離れているのにどうしてそんなことが分かるの?』
「勘よ!」
きっぱりと言い放つルーティに、アトワイトは力が抜けていくのを感じた。






「ジョニーさん帰っちゃったのかなぁ」
と、言う事でまとめて置いて、スタンはまたぼんやりと空を見上げた。
そこへ現れる第二の男。
「間抜け面を晒しているな」
「あれ、リオン」
後ろから覗き込まれてさかさまに見えるリオンに、首を仰け反らせスタンは言った。
「リオン、こんなところで何してんだ?」
「それはこっちの科白だ。お前は何をしている」
尊大な言葉に、最初の頃はカチンときていたが今はもう慣れた。
慣れたというより気づいたのだ。
言葉のわりに、リオンが優しい事に。
ちなみにそれがスタン限定であることにはまったく気づいていない。
「なんとなく、かな?」
「・・・ふん」
すこし馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「リオンは?質問に答えたんだからリオンも答えろよ」
「・・・散歩していたら偶然通りかかった」
顔を覗き込んだままウソを言う。
本当はスタンを探しに来ていたのだが、そんな事リオンの性格上言えるわけもない。
だがそれをスタンはあっさり信じた。
「そっか。天気いいもんな。リオンもこんな天気、好きか?」
ふわり。まるで空を写し取ったような目が細められて笑顔になる。
リオンは顔にこそ出さないが内心どきどきしていた。
覗き込んだままの目が、自然スタンの唇の方へ移動する。
うっすらと開かれたそれは、少年にとって誘われているように見えた。
「・・・スタン」
「ん〜?」
ゆっくりと顔が近づいてゆく。
あと二センチ。
しかし二人の顔がそれ以上近づくことは無かった。
「だわぁっ!?」
「ナニッ!?」
いきなり陽気に似合わぬ、息もできない猛吹雪。
吹雪が去った後、さっきのジョニーと同じくリオンの姿は掻き消えていた。
「・・・・・・異常気象?」






「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・」
フィリアはただひたすら手を前に組み、謝罪の祈りを捧げていた。
その脇に立てかけられた、ディスク<もうふぶき>装備済みのクレメンテ。
『のう、フィリア。ちーっとやりすぎではないかのう』
「はい。ですがリオンさんがふしだらな行為に及ぼうとしたもので・・・・・・」
『なぜそんなことが分かった?』
「だって聞こえたし見えたんですもの。リオンさんの熱に浮かされたような声と姿が」
『・・・・・・おぬし耳も目もいいのぅ』
クレメンテはそれ以上何も言おうとしなかった。







「う〜ん、宿に帰った方がいいかなぁ」
「こんなにいい天気なのにかい?」
聞こえてきた、聞きなじみのある低い声。
「あ、ウッドロウさん」
「やあ、スタン君。隣、いいかな?」
「どうぞどうぞ」
スタンは快く頷いた。
「いい天気だね」
「はい、そうですね」
何気ない会話。
髪をもてあそぶ風は温かさを孕んでいて心地いい。
「そういえばさっき、竜巻が起こったんですよ」
「ほう、まぁ、今日は少し風があるからね」
「あと、吹雪もあったし」
「・・・この陽気にかい?それは珍しいね」
「でしょー。天変地異の前触れかな?」
スタンは小首をかしげ、また空を見上げた。
「・・・何を考えているんだい?」
ウッドロウが優しく声をかける。
「ひょっとして故郷の家族のことかな?」
「えっ、どうしてそれを・・・・・・?」
スタンが零れんばかりに目を大きくし、ウッドロウを見る。
ウッドロウは微笑して、
「なんとなく、君の考えていることは想像がつくよ」
「それって単純ってことですか?」
むっと頬を膨らませるスタン。
「そうじゃないよ」
ウッドロウは笑みを深くして言った。
「いつも君のことを考えているからね」
「えっ――――」
思いがけない一言に、スタンはまた目を見開く。
ウッドロウは笑みを消し、代わりに真剣な目で続けた。
「・・・スタン君、君さえよければすべての戦いが終わった後、私と一緒にファンダリアへ来てくれないか?」
「なっ・・・・・・」
ウッドロウの真剣な言葉に声が詰まる。
「あの・・・・・・」
「無理にとは言わない。突然で驚いただろうからね」
「あ・・・・・・俺・・・・・・」
手を握られ、その手の暖かさにスタンの頬が赤くなる。
「だが覚えておいてほしい。私はずっと前から君が――――」
ウッドロウが言葉を最後まで紡ぐ事はできなかった。
「――なっ!?」
「――――っ!?」
突然巨大隕石がウッドロウのみを襲い、その場でウッドロウは倒れ臥した。
「な、な、な・・・・・・」
目の前の現実に呆然とするスタン。
それは彼だけではなかった。





「どー言う・・・事?」
ルーティが立ち尽くす。
『・・・・・・私たち、何もしていないわよね?』
その手の中でアトワイトも呟く。

「何が起こりましたの?」
フィリアがぽかんと口を開けて佇む。
『ワシ等は何も・・・・・・』
木に立てかけられたクレメンテが混乱した呟きを口に出す。










そして――――
『なんだかよく分からんが一瞬むかっ腹が立った・・・・・・』
宿の中で、ディスク<おちるきょせき>を装備済みのディムロスが不快な感情の波に苛立った声を出していた・・・・・・

あとがき

八日間連続更新企画より
普通はありえないでしょうとも、こんな事。
最後の最後でディムロス登場。
密かにディムスタ?(爆)

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