親切、仇を成す
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別に彼に罪はないと思う。 なぜなら彼はただ親切でやっているだけなのだから。 ――だがそれが時として奇妙な惨事を招くことになる。 「あ、あの、すみません・・・・・・」 「いいよ、ミント。別に謝らなくても」 横を歩くクレスが苦笑する。 その手には大量の荷物があった。 事の起こりは十分前。 久々の休日。 町を散歩していたクレスが、道具屋から手に大量の荷物を持ち出てきたミントとであったことに始まる。 「ミント」 「あっ、クレスさん!?」 荷物の隙間からミントはひょっこり視線と声だけクレスにかけた。 駆け寄るなどミントの性格上、ついでにその大荷物の存在上出来ない。 「大変そうだね、持とうか?」 「ええ!?いえ、いいです!」 「遠慮しなくってもいいよ。僕の方が力あるし」 言うと、ミントが苦労して持っていた荷物を、クレスは軽々持ち上げた。 「宿に持っていけばいいんだよね?」 とどめとばかりに微笑まれて、ミントは俯きながら赤くなった。 人ごみの中を語らいながら歩く。 これはまるで小説の中のワンシーンのようだ。 (ずっとこのままでいれたら・・・・・・) そう思ってはいたが案外あっけなく宿につく。 「ありがとうございました」 内心のがっかり感など顔に出さず、ミントは礼を言う。 「ううん。役に立てたみたいで嬉しいよ」 ミントの心の内など知らずクレスは微笑む。 ――それを見ていた少女が一人。 「ミントずるーい!!」 突然何の脈絡もなく登場したのはお騒がせ魔女っ子のアーチェ。 頬を風船みたいに膨らませて抗議する。 「あたしだってクレスとデートしたいのに!ミントばっかズルイ!!」 「でで、デート!?」 さっきの自分の考えを言い当てられたみたいで、ミントはドモリながら赤くなる。 「そそそ、そんな。わた、私たちは・・・・・・」 「違うよ、アーチェ。僕らはただ街中で偶然会っただけなんだってば!デートなんかじゃないよ!!」 さくっとミントの頭に矢を突き立てて、クレスは説明する。 その説明を聞くにつれ、アーチェの機嫌も直っていった。 「なぁんだ、そうだったんだ。ゴメンネ、ミント。変な事いっちゃって」 「い、いえ・・・・・・」 さっきのクレスの『デートなんかじゃない』発言がまだ尾を引いているミント。 おかげで次のアーチェの行動を阻止することが出来なかった。 「あ、そだ!あのさ、クレス、あたしもお買い物行きたいんだけど・・・・・・」 上目遣いのおねだりに、クレスは快く了承した。 「いいよ。荷物持ちなら任せて」 「やぁったぁ!」 飛び跳ねて、ついでにクレスの腕に自分の腕を絡ませる。 「んじゃさ、んじゃさ、早く行こう!!」 「ちょっと、そんなに急がなくても・・・・・・!」 わいわい騒ぎながら宿を出る二人。 その後ろで、ミントはまだショックを受けていた。 「うふふ〜」 アーチェはご満悦だった。 念願叶ってクレスとデート。 これが機嫌よくならざるものか。 「これからどうしよっかな?」 「え、決めてないの?」 驚いたようなクレスの声に、アーチェははっとする。 有頂天になって、買い物に行きたいからといって連れ出したことをすっかり忘れていたのだ。 「あ、ううん!買い物、買い物だよね。お店どこだったっけなぁ〜・・・・・・?」 探す振りをして少しでも長く一緒にいようとする。 だがそれは無駄な努力に終わる。 「よぉ、クレス。何してんだぁ?」 前から歩いてきたのはクレスの幼馴染のチェスター。 最初は朗らかだったが、クレスの隣にぶら下がっているアーチェを見て表情を顰める。 「何でそんなもんぶら下げてんだ」 「そんなもんとは何よ!」 「ああ、チェスター。これからアーチェと買い物に行くんだ」 「ふぅ〜ん。買い物ねぇ・・・・・・」 意味ありげに呟いてアーチェを眇めて見るチェスター。 「・・・何よ」 「・・・別に」 二人の間で静かに火花が散る。 不穏な空気に人ごみもまた、彼らの周りだけ静かに引く。 だが一番近くにいるはずなのにその空気にクレスだけが気づいていない。 鈍い鈍いと言われている理由がこんなところにも垣間見える。 「・・・決めた。俺も一緒に行く」 突然アーチェから視線を外し、きっぱりとチェスターは言った。 その言葉にアーチェは目を見張り、クレスはのほほんと変わらない。 「ちょっと!なんであんたまで一緒に行くのよ!!」 せっかくの二人きりを邪魔されてはかなわないとアーチェが吠える。 だが当のチェスターはどこ吹く風で、 「なぁ、クレス。荷物持ちは一人より二人の方がいいよな?」 「そうだね、そっちの方が僕も助かるよ」 「クレス〜〜」 「いいよね、アーチェ?」 「うっ・・・・・・」 大好きな笑顔でそう言われたのではアーチェの方に言い返す術などない。 (このお邪魔虫〜!) (誰が二人っきりになんぞさせるか!!) 二人が睨みあいを続ける中、隣のクレスは、 「二人とも仲がいいなぁ〜」 てんで的外れな感想を言ってのけた。 しぶしぶ三人で訪れたのは町の中心部にある雑貨屋さん。 外からでも分かるほどにそこそこ繁盛している。 だがベルのついたドアを押し開いた瞬間、アーチェとチェスターはクレスをつれて回れ右をしたくなった。 しかしそれを行う前にクレスが『回れ右』の原因に声をかけた。 「あれ、クラ―スさん」 「やぁ、クレス」 にこやかに挨拶を交わす二人。 「お買い物ですか」 「ああ。しおりを買いにちょっと。お前さんも・・・・・・買い物だよな?」 「はい。アーチェの買い物に付き合ってるんです」 見て分からないのかと首をかしげるクレス。 クラ―スが思わず訊いてしまったのも無理はない。 なんせ左腕にはアーチェが引っ付き、右の方にはチェスターがいたからだ。 あんまりどころかまったく見慣れない光景。 「ふーん。買い物、ねぇ・・・・・・」 「何よ」 「何だよ」 妙に引っかかるクラ―スの物言いに、アーチェとチェスターの二人は同時に眉を顰める。 「いや、別に。そうだクレス、私の買い物も付き合ってくれないか?」 「何で!」 訊いたのはクレスではなくアーチェ。 これ以上邪魔者が増えるのは我慢ならないらしい。 それをクラ―スは大人の余裕で退ける。 「別に同じ店内なんだ。離れ離れになるわけじゃない。それとも絶対にだめだと言う理由でもあるのかね?」 「それは・・・・・・」 「僕は別にいいですよ」 「「クレス!!」」 二人の講義の声に、クレスは二人の方を向く。 「ほら。クラ―スさんの言う通り同じ店内だし。何かあったらすぐ呼んでよ、ね」 頼まれて嫌と言えないのがクレスの長所であり短所。 そう言うところもひっくるめてクレスのことを好いているのだから、二人に何か言う言葉などない。 「・・・わーかった。ただし危ないと思ったらいつでも呼べよ」 「・・・なんで店の中で危ないことがあるの?」 きょとんと目を大きくするクレスを見て、チェスターはひとつ、ため息をついた。 店の中は適度な暖房が入っており、暖かくて過ごしやすい。 ・・・はずだった、三人が入ってくるまでは。 店の人間は戦々恐々としている。 クレス達以外、他の客はいない。 なぜかクレス達が入ってきてから続々と店を後にする人間が増えたからだ。 その理由をクレス以外の人間はよく分かっていた。 「クラ―スさん、なんかこの店ちょっと寒くありませんか?」 「気のせいだ、気のせい。それよりクレス、ピアスでも買ってやろうか」 「え、いいですよ。僕穴空いてないし、似合わないと思うし」 「そうか、穴があいてなかったか?」 そう言ってクラ―スはさりげなくクレスの耳に手をかけかけたが・・・・・・ ダンッ 突然二人の間に凍結した矢が突き刺さる。 「えっ、何!?」 慌てるクレスの横で、クラ―スは後ろの方を睨み付けていた。 後ろにいたのは品物を物色しているチェスターとアーチェ。 もちろん、それは『ふり』だけ。 さっきからこんな風に矢が飛んできたり炎が飛んできたりしているのだ。 おかげで棚や品物が五つほどだめになった。 (あの二人は・・・・・・) だがクラ―スとてやられてばかりではない。 「うわっ!!」 チェスターの叫び声がして、いきなり目の前の棚から水柱が噴き出す。 (あのオヤヂ・・・・・・) 濡れ鼠なチェスターからお返しとばかりに今度は雷をまとった矢。 (く、このっ!) 今度は二人の足元にニョロニョロの軍団。 (こんのぉ〜!!) お次はクラ―スの頭上のみ石つぶて・・・なんて可愛いものじゃない隕石。 静かな戦闘の繰り広げられる中、店員はカウンターに隠れただ早くこの疫病神達が出て行ってくれることを祈り、戦いの原因たるクレスは、 「そうだ、すずちゃんにリボンでも買って帰ろうかな〜」 まったくこの騒ぎに気づいていなかった。 (くっ、このっ!) (やりやがったなっ!) (負けるもんかぁ〜!) ――――補足。 次の日、店のあった場所には、代わりに巨大なクレーターが空いていたという。 |
あとがき
八日間連続更新企画より。
犯罪級に鈍いクレスが書きたかったのです。
しかしこういうことが日常的に行われているとすれば、
いつかこの人たち指名手配されるんじゃないか・・・・・・?
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