空を覆う満天の星。 見下げる月と反転世界。 美しい夜の情景。 だがそんな中でも、世界は確実に寂滅へと向かっていた。
「リーッド」 「ファラ・・・」 風の吹く草原で、寝転がっていたリッドは幼馴染の登場に上体を起こして迎えた。 「横、いい?」 「・・・ああ」 隣にファラが座ったのを確認するとリッドはもう一度寝転び、空を見上げた。 「きれーだねー」 ファラも座ったまま、リッドの真似をし、空を見上げる。 「明日、だね」 「ああ」 明日。 リッド達はオルバース界面へ最後の決戦に向かう。 消滅の根源を絶つため、世界を救うため、大事な人たちを守るため。 けれどそれは同時にメルディの大事な人、母親であるシゼルを討つかも知れぬと言う事。 メルディの心情を考えれば辛い戦いになるのは避けられない。 「メルディは?」 リッドがそのままの状態で訊く。 「眠ってる」 「キールは」 「本読んでる」 「・・・変わらないな」 「うん、変わらない」 変わらない、いつもの夜。 「・・・あのね、リッド。笑わないで聞いてね」 ファラはリッドの方を見ずに言った。 「あたしね、ひょっとして、このまま朝になったら、またいつものように四人でふざけたり、笑ったり、怒ったりしながら旅を続けてるんじゃないかなって思ってるの・・・」 「それは――ないだろ」 あまりに馬鹿げていて滑稽で――儚い願い。 「・・・うん。無いよね」 軽く笑ってファラは立てた膝に顔を埋めた。 「・・・勝てるかな?」 顔を埋めたまま洩らした弱音。 リッドは聞こえなかったかのように返事をしなかった。 ファラはふっと息を吐いて顔を元に戻す。 「リッドは怖くないの?」 「――怖いな」 それはファラが聞きたかった答えではなかった。 「そっか・・・」 ファラは俯く。
・・・肯定されてしまった。 自分の中の恐怖を。 認めたくない恐怖を。 「でも・・・」 リッドは口を開いた。 「俺らは勝つ」 静かで、力強い言葉。 ファラははっとリッドを見た。 「絶対グランドフォールを止めてみせる。確かにシゼルは強ぇ。あのレイスが負けたくらいだ。怖くないなんていったらウソになる。でもな・・・」 リッドは体を起こし、空を見上げた。 見据えるのは星でもなく、月でもなく、見下げるもう一つの世界。 「守りたいんだよ。英雄になりたいとかそんなんじゃない。自分の育ってきた場所や、みんなとであった場所や、思い出なんかが全部消えるのがイヤなんだ。死んじまうのもいやだけど、世界が消えるのは――もっとイヤだ」 「リッド・・・」 じんわりと、暖かいものが胸の隙間に流れ込む。 リッドはいったん言葉を切ってから、ファラの方を見、笑いながら言った。 「それにさ、別に一人で戦うわけじゃないんだから。キールやメルディや、ファラがいる。絶対イケルって。これ、お前の口癖だろ?」 「・・・うん」 ファラは泣笑いのような複雑な顔で笑った。 嬉しくて泣きたい。 心の奥の黒い靄が言葉の風に吹かれ晴れてゆく。 その奥に見えたのは、笑っているいつもの自分。 「絶対、止めて見せようね!」 「とーぜんだろ」 リッドもまた、にやりと笑う。 ――いつものリッドだ。 「さぁてと、そろそろ寝ようぜ」
腰についた土を払い、リッドが立ち上がる。 「あの!」 歩き出したリッドはファラの言葉に振り返った。 「何?」 ――もしも・・・ ファラは言葉にしかけて飲み込む。 もしもじゃない。 「帰ってきたら聞いてほしい事があるの!!」 「今じゃダメなのか?」 問う言葉に、ファラは首を振った。 「帰ってきたら」 伝えたい言葉がある。 届けたい想いがある。 「――わかったよ。帰ってきたら、聞く」 頷いて、歩き出すリッドをファラは追いかける。 追いついたリッドの背中に、ファラは心の中で呟いた。
『帰ってきたら聞いてほしい事があるの』 凄く凄く大事な事。 届けたい想いと、伝えたい言葉と。
――叶えたい願いと・・・
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