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『四日後』
ふと耳に入った言葉に、リッドは後ろを向いた。
「どうしたんだ?」
あい変わらず難しそうな本を読んでいたキールが本から目を離す。
「いや、ちょっと・・・」
そう言うと、リッドは後ろに張られたテントへと声をかけた。
「おーい、お前等さっきなんか言ったかぁ?」
「え、何がぁ?」
中からファラの問い返す声。
「さっき、四日後がどうとか言ってなかったか?」
「エー、言てないよォ!」
「そぉそぉ、言ってない言ってない!おやすみー!!」
慌てたような声の後、中からはわざとらしい寝息が聞こえ始める。
「・・・何なんだろうなぁ」
釈然としないまま、リッドはまた焚火に目をやった。
少し小さくなった火に木を追加しながら、意識を本に向けたままの幼馴染へ話し掛ける。
「なぁ、四日後って何があるんだ?」
「さあな、誰の誕生日でもないし、記念日も特に思い当たらない」
そっけなく言い返し、キールはまた読書に没頭し始めた。
「・・・やはり晶霊の分布には何らかの因果関係が隠されていると見て間違いないな・・・これはエターニアを形成する上で何らかの必要性があるのか・・・ではなぜオルバース界面は・・・」
ぶつぶつと際限なく独り言を繰り返すキールを見、リッドは溜息とともに夜空を見上げる。
もう一つの世界はぼんやりと宙を見つめる少年を、ただ見下ろしていた。








朝、リッドが目を醒ますとそこにファラとメルディの姿は無かった。
「あ・・・」
ぼやんとした頭で辺りをうかがう。
「・・・ファラ達は?」
「街に買い物だそうだ、昼には帰るといっていた」
「フーン・・・」
小川につっこんだ頭を上げると、リッドは犬のように何度も頭を振った。
「こらっ!冷たいじゃないか!!」
「あぁ、悪ィ」
さして悪びれもせず、キールの放ってよこしたタオルで顔を拭きながらリッドはふと呟いた。
「あいつら・・・なに隠してんだ?」







「材料これでいいかなぁ・・・」
ファラは紙袋の中身を何度も確認しながら、呟いた。
「だいじょぶ、だいじょぶ。これでOKだよー♪」
メルディが元気よく相槌を打つ。
「ちょっと少なくない?」
「失敗したらそのときはそのとき、心配するのよくない。当たって砕けよー!!」
「砕けちゃったら最悪なんだけど・・・」
元気に前を歩くメルディを見て、ファラは思わず苦笑した。












「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
『遅いな』
リッドとキールは二人同時に呟いた。


時刻は既に昼下がり。
太陽はとっくに傾いている。
「遅いな」
「ああ」
「途中で何かあったんだろうか・・・」
キールが不安げに声を漏らす。
「んな訳ねぇだろう、たかが街に買い物だろう?何の危険があるんだよ」
「それもそうだが・・・」
「へーきだって、ファラにかかったらその辺の化け物なんか相手じゃねぇよ」
何気に失礼な言葉を吐きながらリッドはキールの不安を一蹴する。
そういうリッド自身もかなり落ち着かない。
その証拠にさっきからずっと膝の上で指が踊っている。
「やっぱり迎えに・・・」
「おーい、リッド、キール〜」
キールが立ち上がりかけたとき、道の向こうから耳慣れた声が聞こえてきた。
「ごめんなー、ちょっと遅くなったよ〜」
「ごっめんね〜」
「おせーよ!おかげで昼飯まだなんだぞ!!」
「まったく・・・時間くらい守れないのか?」
申し訳なさそうに笑う少女たちに対し、安堵した内心を隠しつつ、二人は不平を漏らした。









「ほんとうにごめん!すぐご飯にするから!!」
いそいそと買ってきたものを自分の荷物に入れると、ファラはフライパンを手にとった。
リッドはその様子をちらりと横目で見ると、
「・・・おい」
「ん〜?」
「今日なに買ってきたんだ?」
「え゛っ!?」
一瞬ファラの体が石となり、
「リッドには関係無いよ。うん、全然ない!!」
棒読みで一気にまくし立てた。
「関係無いって・・・」
「リッド、卵とって!バターが焦げちゃう!!」
「あ、お、おう!」
ファラの勢いに気圧され、リッドの疑問はもう一度問う前に消えた。








一方。
「・・・・・・」
「なにか、キール?」
さっきから視線を感じ、メルディは振り返った。
「べ、別に、僕は何も・・・」
「じゃ、どしてメルディの方じっと見てるか?メルディの事、そんなに気になるか?」
「別に、誰がお前なんかを・・・!」
メルディは無邪気に聴き返し、キールをさらに慌てさせた。
「ぼ、僕が見てたのはその荷物だ!!」
「荷物?」
キールの指差す方を見ると、そこにはメルディの荷物袋があった。
「そう、荷物だ」
キールはそっぽを向き、そのまま続ける。
「今日帰ってくるのが遅れたのはその買い物のせいなんだろう。いったい何を買ってきたんだ?見たところかなり大事に扱っているようだが、武器・・・ではないよな。この間買ったばかりなんだから。―――べ、別に僕はお前が何を買ってきたか気になってるわけじゃないぞ。ただ・・・時間に遅れた理由が知りたいんだ。おい、メルディ、お前たちいったい何を買って・・・・・・あれ?」
長々と弁明混じりの質問をしている間に、メルディは荷物を持ってとっとと逃げ去っていた。
「おい、メルディ。メルディ〜!?」
キールが呼びかけても、当然メルディが戻ってくる事は無かった・・・






その日の宵闇迫る頃。
ファラとメルディは水浴びをしてくるという口実でリッド達から一時離れることに成功していた。
「ねぇ、リッド達気づき始めてるんじゃあ・・・」
「かもなー。どうしようかー・・・」
二人は不安げに顔を突き合わせ、同時に溜息をついた。
「当日まで隠しとおせるかなぁ・・・」
「んん〜、万全を期すよ!絶対、その日までないしょ、ないしょ!!」
「―――うん、そだね!」
ファラは力強く頷くと、ぐっと拳を握り締めた。
運命の日まで―――あと三日。





―――次の日からファラ達とリッド達の追いかけっこが始まった。
ファラ達は極端にリッド達を警戒するようになり、昼間は殆ど姿が見えない。
どこに行っているのかと何度も後を尾行したが、そのたび見失ってしまう。
尾行をはじめて二度目の時など、リッド達のいる草むら目掛けてサンダ―ブレードが振り下ろされた。
当然、旅も一時中断である。
リッドもキールもファラ達が帰ってくるたび、『世界救う気あんのか?』だの『旅に支障が出る』だの言ってはいるもののもうとう聞く気配はない。
そんなかくれんぼ+鬼ごっこもようやく終わろうとしていた。
終幕はファラ達が決意を新たにして三日後の真昼―――





「リ〜ッド」
「あっ?」
草原に寝転がっていたリッドは三日ぶりに聞く声に、間抜けな声を出した。
「寝てた?」
「ン・・・別に」
「横・・・座っていい?」
「別にここ俺の席じゃねぇし」
不貞腐れたようなリッドの様子に、微苦笑しながらファラは隣に座った。
「はい、あげる」
隣に座られた途端何かを突きつけられ、リッドは目を丸くした。
「なんだ、これ」
目の前に差し出されたので目が寄ってしまう。
「いいから、あげる」
さらに突きつけられ目にぶつかりそうになったので、リッドはおとなしくそれを受け取った。
「何だよ、これ」
それは綺麗にラッピングされた平べったい箱だった。
「バレンタインプレゼントだよ」
「はぁ?バレンタイン?」
リッドは頓狂な声を上げ、ファラを見た。
「そ、バレンタイン」
「なんだ、それ?」
聞きなれぬ単語に思わず聞き返す。
「んーとね、セレスティアの風習なんだって。二月十四日はチョコレートをあげる日なんだって」
「はーん。セレスティアのねぇ・・・」
「けっこー作るの苦労したんだからぁ」
自慢げに胸を張るファラの言葉に、リッドは目を見張った。
「え・・・作ったって・・・?」
「そう。作ったって言っても売ってるやつを溶かしなおしただけなんだけどね。当日にいきなりあげて驚かせようと思ったんだぁ」
成功成功とさらに得意げにファラは笑った。
その隣で、リッドはプレゼントを見つめたまま固まっていた。
(俺の・・・為に・・・?)
今までこそこそしていたのも?
何か隠し事をしていたのも―――みんなこれの為?
(ッたく・・・)
自然、唇がつり上がる。
「リッド・・・気に入らなかった・・・?」
心配そうに見つめるファラにリッドは笑いかけた。
「いや、あんがとな」
「どーいたしまして」
嬉しそうに笑うファラに、リッドも笑顔で一言。
「じゃ、今からこれ食うからパナシーアボトル用意してくれ」
「ちょ!どー言う意味よ、それ!!」
晴れ渡った空に、ファラの怒鳴り声とリッドの破裂するような笑い声が響き渡った・・・












「キール、はい!」
突然目の前にやってきたメルディは、突然何かをキールの目の前に突きつけた。
倒れた木に腰掛けながら読書をしていたキールは、あまりの事にしばし呆然とする。
「キール?」
窺うような声にはっと我に帰る。
「な、なんだよ、それは!」
「バレンタインプレゼントだよー?」
「バレンタイン?何だ、それは」
聞き覚えの無い単語に、キールは不可解な表情をした。
「はいな!セレスティアの記念日。この日は大好きな人にチョコレート贈るよー」
「なっ!?」
"大好きな人"という言葉に、キールの顔は真っ赤に茹で上がった。
「だからはい!がんばて作ったよー♪」
「へッ・・・作った?」
キールの表情は狼狽したものからいっぺん、驚きの表情へと変わった。
「はいな!メルディとファラ、キール達がないしょでチョコレート作ったな!驚かせて喜んでもらうため!売ってるの溶かしても一度固めるだけだったけどいっぱい失敗した。でもメルディとファラ、がんばったな!!」
見るとプレゼントを差し出す手には火傷の跡が見える。
"驚かせて喜んでもらうため!"
(・・・莫迦だ・・・こいつは・・・)
がんばったって?
喜んでもらうためだって?
こんなに手を傷だらけにさせてまで・・・
言いたい小言は山ほどあるのに、なぜかにやけた笑みが浮かんでくる。
「キール・・・?」
「・・・よこせ」
不安げに顔を窺うメルディに、キールは無愛想な顔で手を差し出した。
渡されたプレゼントの包みをなるべく丁寧に空けると、中から多少不恰好なハートのチョコレートが出てきた。
キールはチョコを手にとると、いきなりものも言わず食べ始めた。
メルディの目の前でチョコは見る間に無くなってゆく。
ぽかんとその様子を見守るメルディ。
そうこうしている間に、不恰好なハートはすっかりキールの胃袋に収りきった。
「・・・」
丁寧に指についたチョコを舐めとる。
「キール・・・」
「・・・・・・形は悪かったがちゃんとチョコレートの味がしたな」
「キール!」
ぱあっとメルディの顔が綻ぶ。
「・・・・・・アリガトウ」
その言葉を言うか言わないかの間にキールは立ち上がり歩き出した。
「キール、何処いくか!?」
「〜〜〜散歩だ!糖分を摂取超過した時は散歩する事にしてるんだ!!」
「メルディもいっしょに行くー!」
「勝手にしろ!」
殆ど走るように歩き出したキールの後をメルディが追いかける。
厚い雲間から、冬の穏やかな日差しが零れだす。









一年に一度の大事な日。
さて、貴方は誰と過ごしますか?

あとがき

えー、突発的に書きました。
いちおーリッファラ&キルメルになっとるでしょうか・・・?
あいも変わらずタイトルは苦手です。
ださいのしか思いつかないでやんの(泣)
つーか実はこんなん書いといてなんですが自分キーファ好きだったりして・・・(爆)

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