双子月宮学院混戦記
〜朝の乱〜

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双月宮学院。
歴史と由緒あるこの名門校は、過去多数の有力な人材を輩出することで教育界では有名な学校。
・・・なのだが。
同時にまたこの上なくユニークな学校としても有名であった。
てなわけで、今日も今日とてなんとも愉快な学園生活の始まり始まり〜。










早朝六時半。
まだ人気がない敷地内の道場で、一人の生徒の姿が見受けられた。
「ふぅ・・・・・・」
少年は雑巾を片手に、額の汗を拭った。
板張りの床に自分の姿が映るのを見て密かにガッツポーズ。
客観的に見るとちょっと変。
「やっと終わったぁ〜」
万歳と両手を上げたのは剣道部の主将、クレス=アルベイン。
他の部員たちが来る前からこうして一人、道場の掃除をするのが彼の日課だった。
「相変わらず熱心だなぁ〜」
「うひゃあっ!?」
いきなり背後から声と気配がして、クレスはとっさに木刀を放った。
べきりと嫌な音がして、声の主が倒れ臥す。
恐る恐る見たその正体は、
「ちぇちぇ、チェスター!?」
その場で首をあらぬ方向に曲げて眠りついているのは、まごうことなく幼馴染のチェスター=バークライトであった。
「どうしたんだい、チェスター!こんなところで寝ると風邪引くよ!!」
眠る羽目になったのはお前のせいだ、クレス。
さらに風邪云々の前に命の心配をしたほうがいいのではないか?
ほら、床目に沿って赤いものが流れ出している。
「チェスターってばぁ〜!」
クレスがゆさゆさと幼馴染の体を揺らし、あたりの床に素敵な赤のマーブル模様が装飾される。
華やかになったじゃないか、この道場。
一般人は一歩足を踏み入れたら悲鳴上げそうだけど。
チェスターの顔色が悪くなり、なお事態が悪化しそうだったが、
「うぅ、いってぇ・・・・・・」
「チェスター!起きたんだね」
永遠の眠りからな。
「お前なぁ・・・・・・せめて誰か確認してからやれよ・・・・・・」
さっきまで百二十度に曲がっていた首をさすりながらチェスターがぼやく。
確認さえすりゃ、人の首を曲げていいって言うのかお前。
「ご、ごめん」
殊勝に首を垂れるクレス。
その拍子にさらりと髪の隙間から白い項が零れ見えた。
一瞬息を呑むチェスター。
おあつらえ向きに誰もいない。
って、そりゃお前入ったと同時に扉に鍵掛けてりゃ誰もおらんだろうよ。
「・・・クレス」
「んっ?」
チェスターがクレスの双肩をぐっと掴む。
その顔は心なしか赤くて、眼が潤んでいる。
・・・って朝っぱらから、しかも神聖な道場で欲情するんじゃない。
ある意味健康な青少年である証拠だが、不健全である事に変わりはないぞ。
「チェスター、どうしたの?顔赤いけど・・・やっぱり風邪?」
普通ならこの辺でナイスなツッコミが入るところだが、当のツッコミ担当が暴走しているから危険極まりない。
頼むから気づけ。そして自分の身は自分で守ってくれ。
「悪ィ・・・・・・理性が利かないっ!」
元からないじゃん。
そして謝るくらいなら押し倒すな。
「えっ、何、なにっ!?」
この期に及んで自分の身に何が起こっているか分からないクレスの服に手がかけられた、その時。







グギョ。






人間の身に起こってはならない音がして、チェスターが再度倒れ臥した。
またしても首が説明しがたい方角へ曲がっている。
本日二度目。
軟体生物もびっくりだ。
「ちぇ、チェスター・・・・・・」
「まったく油断も隙も無い・・・・・・」
そう言って、呆然とするクレスの前に現れたのは歴史教師のクラース=F=レスター。
手には血と思しき模様がついたネクロノミコン。
凶器はこれらしい。
何でもいいが呪われた書物を一教師が所持していて良いものか。
それにもし持っているのなら管理くらいちゃんとしておいてほしい。
別世界じゃ放し飼いで人襲ってたし。
「クレス、大丈夫か」
「あ、はい。僕は別に・・・・・・。先生はどうしてこんな朝に?」
「いや、何となくお前さんの身に危険が迫っているような気がしてな」
その為だけに通常より一時間も早く学校に来たってのかい。
勘が鋭いというよりここまでくると動物の本能を感じるな。
「あ、そういえばチェスターッ!?」
やっとこ気がついたか、瀕死の幼馴染に。
探すクレスの目に壁にめり込む親友の姿が。
さすがクラース。始めて見て目を点にするほど不必要に腕は鍛えていない。
「チェスター、大丈夫?もしもーし!」
「・・・・・・」
「チェスター、チェスター!」
「・・・っ・・・いてぇ」
「あ、よかったぁ!」
抱き起こしたクレスの顔が喜色に輝く。
しかしよっぽど丈夫な体しているな。
こいつなら鉛球頭に喰らったって五分で復活するんじゃないか?
喜ぶクレスの後ろで目を眇め傍観するクラース。
「・・・・・・っ」
「おい、おっさん。あんた今舌打ちしなかったか?」
よろりと起き上がりながらチェスターはクラースを睨む。
すでに服はボロボロ、白いはずのシャツは派手なカーディナルレッドとホワイトのだんだら染め。
勝手に制服をお洒落に改造してしまうんじゃない。
「だいたい鍵掛けてたはずなのに何であんたがここにいるんだよ」
「あんな鍵一つ開けられんで歴史教師が務まるか」
全世界97%の歴史教師は鍵開けができんでも立派に職務を果たしている。
どうも教師の定義を激しく誤解しているようだ。
「第一お前こそどうしてここにいるんだ。弓道場は向こうだぞ」
「部活前の一運動だよ」
そんな運動は必要ない。
もうちょっと健全に血じゃなく青春の汗を流せ。
「朝っぱらから何を考えているんだ、お前は」
ふぅっと溜息をついてクラースは続ける。
「だいたい授業前だったら時間も無いしクレスもつらいだろう」
問題点はそこじゃない。
「どうせやるなら放課後だ」
論点も違う。
これが国語のテストなら十点以下は確実だ。
「っ!?やっぱあんたも・・・・・・!」
「その通りだ。だから潔くお前は諦めろ」
「こればっかりは譲れねぇっ!」
いや、クレス本人の了承もなしに勝手に譲ってもらっても困るだろう。
当人の意思を確認しろ。
したらしたで絶対首を横に振るか、あるいは意味を理解しきれないと思うが。
「安心しろ!手に入れた暁にはきっちり手取り足取り仕込んでやるから」
安心できん。だいたい何を仕込む気だ、おい。
「俺だって新居とか婚姻届けとかきっちり完備済みだ!」
手順間違えてるだろ、お前。
「・・・どうあっても譲らないんだな?」
「ったり前だろ!」
にらみ合う二人の間に鋭く散る季節外れの花火。
止めないとその内火事になっちゃうぞ。
「・・・だったらどっちがクレスを悦ばせられるか勝負しようじゃないか」
「面白い!」
面白くはない。
「あ、あの・・・二人とも・・・・・・?」
いまいち現状を理解しきれない逃げ腰のクレスの腕を、左右から二人が捕らえる。
「ちょ、ま・・・・・・」
今まさにクレスの服が脱がされかけようとしたその時。







「何をしている貴様らっ!!」






怒号と共に二人が吹っ飛ぶ。
道場の半分は見事半壊。
朝の日差しと青天井が眩しい。
「えっ・・・・・・何・・・・・・」
「大丈夫か!?」
「ダオス先生!?」
現れたのはクラースと同じ歴史科。
影の権力者と名高いダオス教諭。
「大丈夫だったか!?」
そう言ってクレスを抱きしめる。
「せん・・・せい・・・・・・」
ダオスの腕の中で呆然とするクレス。
その体は震えていた。
「そんなに怖かったのか。大丈夫だ、私がちゃんと慰めてやろう」
何故そっちの方に考えが向く。
結局お前も同類か。
「・・・先生」
震える声で名前を呼び、クレスはキッと顔を上げた。
「先生!チェスターに・・・・・・僕の親友に何てことするんですか!!先生なんかだいっきらいーっ!!」
「ク、クレス!?」
突然泣き出し、走り出すクレスに動揺するダオス。
しかしあんな事されてまだ親友と呼べるのか。
ある意味チェスターが報われない。
「ク、クレス!私が悪かったぁぁぁ!!」
何泣いてんですか、貴方は。
今のその姿、女房に逃げられているダメ旦那に酷似してるぞ。
「クレスゥーっ!」
「わぁーんっ!」















早朝の空に情けない泣き声がデュエットでこだまする。
――今日も平和になりそうです。

あとがき

やっちゃったよ。
やっちゃいましたよ、テイルズで学園モノ!!
しかもダオスまで出しちゃって・・・・・・
正統なテイルズファンに喧嘩売ってますか?
売ってません。
売ってませんから買わないでください(懇願)

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