甘い生活
=La Dolce Vita=

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視線の先、窓の上辺りから足が生えてる。
よく見ると足は上階のベランダから生えているようだ。
足は二三度揺れると、クロードの部屋のベランダに落ちた。
その足には、よく見慣れた胴体がくっついていた。
「――――っ!ディアス!?」
ディアスは平然と手に持っていた靴をベランダに置き、中に入ってきた。
「な、何で窓からっ!?」
「ドアが開かなかったので上の階の人間に頼んでベランダを使わせてもらった」
「ここ五階だぞ!?落ちたら死ぬっ!」
「そんなへまはしない。それより――――」
ディアスはまじめな顔で近づくと、へたり込んだままのクロードの前に片膝をついた。
「どうしてあんなことを言った」
端整な顔が至近距離に近づいて、クロードは顔を背けた。
「他に好きな奴でもできたか?」
「・・・違う」
「俺を嫌いになったか」
「・・・違う」
クロードは首を横に振った。
それだったら、そっちの方がどれほどましだったか。
こうやって近くで話しているだけで、胸が苦しい。
「ならどうしてだ。理由がなければ納得できない」
「だって、ディアス・・・には」
咽喉につかえそうな言葉をゆっくりと吐き出す。
「セリーヌ先生が、いるでしょう?」
「・・・・・・はっ?」
「この間・・・・・・二人が一緒にいる所見た人、たくさんいて。今日だって、一緒にいたし・・・・・・」
「それは、」
「僕なんかより、あの人の方がディアスには似合うから・・・・・・」
「ちょっとまて」
「僕は、セリーヌ先生みたいに綺麗じゃないし、男だし、子供だし、全然・・・・・・似合わない」
「――クロード」
「だから、もうこんな関係止めて――――っ」
言葉が最後までつむがれる事は無かった。
俯いていた顔をディアスが強引に上げさせる。
滲みかけた視界に、眉を寄せたディアスの顔が映った。
「クロード。いい加減にしないと俺は怒るぞ」
「だってっ!」
「よく聞け。誰がそんなバカな事を言い出したかは知らないが、俺とセリーヌは何でもない。そんな噂はデマだ」
真摯な瞳に、決心が揺らぐ。
クロードは視線から逃れようと、目を泳がせる。
「それこそ・・・ウソだ」
「ウソじゃない」
「じゃあ何でセリーヌ先生と一緒にいたんだよ」
「それは・・・・・・っ」
今度はディアスが言葉に詰まった。
それでも視線は外さない。
「それは、言えない」
「やっぱり・・・・・・」
ちくりと鋭い棘が胸に突き刺さる。
「セリーヌとの事は言えないが、これだけは信じろ。お前が思っているようなことは何も無い」
「いやだ。信じないっ」
クロードは首を振る。
「そんな言葉、絶対信じられない!」
「ならどうすれば信じてもらえる」
「離せよっ!」
叫ぶが、ディアスは頬に添えた手を放さなかった。
そしてクロードの目をまっすぐ見て、
「何十回も、好きだと言えばいいのか。愛していると言えばいいのか?」
ディアスが体をきつく抱きしめた。
「言葉ではダメか?どうすればいい。どうすれば信じてもらえる」
「やだ・・・・・・っ。信じたくない・・・・・・」
クロードは身をよじって束縛から逃れようとした。
だが抱きしめる力は強くて、逃げられそうに無い。
「離せってば・・・・・・っ」
「離せばお前は逃げるだろう」
抱きしめる、強い腕。だが不思議と息苦しさは感じない。
「クロード、俺は言葉ですべてを語れるほど器用じゃない。だからお前の望む言葉をやる事はできない。それでも、これだけは信じて欲しい。俺が――――愛しているのはお前だけだ」
びくりと、その言葉に体が、心が震えた。
耳元でした苦しげな声に、信じたいと心が震えた。
この言葉はウソかもしれない。
大人が、ぐずる子供をなだめる為のウソ。
それでも――
「本当、だよな」
クロードは顔を上げた。
「信じて、いいね?」
「信じてもらわなければこちらが困る」
苦笑するディアスの顔が滲む。
「ディアス・・・・・・」
ゆっくりと降るキスの雨。
優しくて、暖かくて、また涙が出た。
「あんまり泣くな・・・・・・」
「んっ・・・・・・」
頬に流れた涙の跡を舐めとられる。
触れる唇は更に下へ下へと移動し始めた。
「ちょっ、ディアス・・・・・・っ」
「何だ?」
首元に顔を埋めたまま、白々しく聞き返されて思わずディアスの髪を掴んだ。
「どこ、触ってんだっ!!」
「分からないのか?」
「分かってるから訊いてるんだよっ。も、離せぇっ!」
足をバタバタと暴れさせてみるが進行が止む気配は無い。
「んっ・・・・・・」
胸の飾りに唇が触れて声が出る。
「ちょっ、やだ・・・・・・っ」
「あれほど言っても中々信じなかった罰だ。大人しくしていろ」
反論してやろうと思ったが、その前に快楽に言葉を塞がれしまい、為す術は無かった――――




「どうするんだ・・・・・・おいぃっ!!」
クロードは脱衣所の鏡を見て怒声を上げた。
鏡の中には憤怒に顔を歪める少年。
衣服を身に着けていない白い上半身には、余すところなく艶かしい赤い花びらが散っている。
「明日体育なんだぞ!みんなの前で着替えられないじゃないかっ!!」
性懲りもなく背中に覆いかぶさる張本人に吠え掛かる。
「別にいいだろう。見せ付けてやれば」
「い、や、だっ!」
きっぱり言い切って、鏡に向き直る。
「どうしよう・・・・・・一人だけトイレで着替えるのって変だよなぁ・・・・・・」



ブツブツ言うクロードの背中で、ディアスは内心ほっとしていた。
(まさか本当の事を言うわけにも行かないからな・・・・・・)
あの時は本当に驚いた。
いきなり車に誘われ、乗り込むと開口一番クロードと同棲している事実を突きつけられ、あまつさえクロードを奪って見せると宣戦布告されたのだから。
今日だって帰り道に捕まって延々寒々しい口喧嘩を続けていたのだ。
それが表面上睦まじく見えていたなど――――冗談ではない。
(あの様子だったら諦めていないだろう・・・・・・)
つくづく厄介な相手が敵に回ったものだと溜息をつく。
だがああやってたまに妬かれるのもいい気分だ。
まだしばらく誤解したままでいてもらおう。
(だがその前にあいつの撃退法を考えておかなければな・・・・・・)
「ん?どうしたんだい?」
いきなり黙り込んだためか、クロードがきょとんとした顔で振り向く。
「・・・クロード」
「何?」
「明日は痕がよく見えるようにシャツのボタンを二三個外していかないか?」
「却下っ!!」

あとがき

やっぱり最後は甘く、ね?
リク内容はディアス×クロードで先生×生徒でこっそり同棲。
裏がいいかもってありましたが、流石にそれは無理だったので裏『風味』で。
上のベランダから下へ侵入って無茶に見えますが、ディアスだったらできると信じてます(笑)
しかし上の階の住人、よくベランダ使わせたなぁ・・・・・・

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