月光奇想曲
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――月が欠け始めている。

ほんの数日前まで完全な円形だったものが徐々にその形を変えてゆく。
クロードはその様をパーティから離れた場所で見ていた。
予想外の敵襲などを受け、一向はいまだ次の町に到着していない。
今日も今日とて女性陣の不満な声を背景に野宿である。













「何をしている」
静かな声に振り向くと、そこには赤髪の青年が立っていた。
青年と言っても人ではない。
その証拠に彼の目には妖しの光が宿っている。
「ちょっと・・・月見」
隣にやってきた青年――ギョロ――に、クロードは微笑して答えた。
「欠け始めたな」
仰ぎ見る月は数日前までの禍々しい赤色ではない。
全体的に白っぽい檸檬色である。
「あとどれくらいその格好でいるの?」
「正確にはわからないが・・・そうだな、明日あたりまでだ」
「ふぅん・・・・・・」
気抜けしたような返事を返し、クロードは空を見上げた。
「淋しくなるね」
言うと、ギョロは若干目をむいて、
「なぜだ?」
「え。だってもうじきお別れでしょう?」
「・・・ただ龍の姿に戻るだけだぞ。なぜ別れになる」
「あっ」
クロードは慌てて口元を抑えた。


すっかり忘れていた。
別にギョロ達はいなくなる訳ではない。
ただ姿が元に戻るだけだ。
そのことをすっかり忘れていた・・・・・・
「――おかしな事を云う奴だ」
呆れるような口調にクロードは俯く。
そのせいか見えていなかった。
そんなクロードの様子を見て微笑むギョロの顔を。
「あ、でもその姿でいるのはあと明日くらいなんだよね」
「ああ」
顔を上げるとギョロは何事もなかったかのように元の表情に戻っていた。
「やっぱり、ちょっと淋しいよ」
「――それがわからん」
ギョロはため息をついてよそを向いた。
「別に消えるわけでもないのになぜ淋しいなどと言う感情が湧くのか・・・・・・」
理解しがたい・・・と首を振る。
「淋しい・・・・・・よ?ほら、その格好でいるとなんだか近くなった気がして嬉しいんだ」
「・・・・・・」
ギョロは言葉をなくして、クロードを見つめた。
「普通ならギョロたちとこうして話す事ってできないじゃないか。こっちの言葉はわかるみたいだけど、僕はギョロたちの言葉ってわからないし・・・・・・。それに人の形でいてくれるとなんか・・・・・・距離がぐっと縮まる気がするんだ」
おかしいかな?
そう云いながらはにかみ、頬をかく。
「――――そうか」
息をゆっくりと吐きながら、ギョロはクロードの頭に手を添えた。
「それなら、私も同じだ」
今度はクロードが驚く番だった。
「私も、私の言葉でお前と話せることが嬉しい」
短い言葉の間からこぼれだす暖かい感情。
それが心地よくて微笑みかける。
「同じだね、僕ら」
「ああ。そうだな」

――微笑み合う二人の間に、降る月明かりは限りなくやさしかった。
























後日談。

翌々日の朝、二頭竜は見事元の姿に戻っていた。
それはいい。
めでたしめでたし、で終わろう。
それはそれとして――――













「どーしてまた人間の姿になってるんだよ――!?」
「別に前回こっきりって言ってねぇぞ」
「・・・説明していなかったか?」
「聞いてません・・・・・・」
がっくり肩を落とすアシュトンを、仲間たちは苦笑と同情を交えた視線で見つめていた。








≪終≫

あとがき

やっとこ終了です。
途中シリアスになっちゃったりしましたがやはり最後はギャグで終わり(笑)
なんか・・・ギョロの話し方が最初と違うぞ・・・?
ま、とにかく。
ここまでお付き合いいただき真にありがとうございました!!

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