| 
       赫い月が高く昇り、その妖しい光が地に広がる望月の夜。 
      闇の中に隠れ住む魔族たちが、 
      千夜に一度の灯りを求め表へと出てくる。 
      古来より望月は魔力を高めるものとされてきた。 
      特に赫い月は上質の蜜にも似ている。 
      高位の魔族たちはこぞってその力を得ようと蠢く。 
      そしてここにも又、月の恩恵を得たものがいた。 
      ―――騒動はその次の日に幕を上げる。 
       
       
       
       
       
清浄な朝の空気が満たされた宿の一室。 
「んんん〜・・・」 
そこの仮の住人、アシュトンはベッドの中でうめいた。 
爽やかな朝の光も今の彼には暴力的な光の渦にしか思えない。 
(もうちょっとだけ・・・) 
 
「くぉら!とっとと起きろ!!」 
聞きなれた声と一緒に背中に鈍い痛みがはしる。 
「いいかげんに起きぬか。いくら我等とて怒らぬわけではないぞ」 
「そうだ!しまいにゃ実力行使に出るぞ!!」 
背中の痛みがどんどん増す。 
「ッるさいなぁ・・・今起きるよ・・・」 
とうとう観念したアシュトンはのそのそとベッドから身体を出して、 
「・・・・・・はっ?」 
思わず目を疑った。 
      「まだ、夢の中なの?」 
「そんな訳無かろう」 
「寝ぼけんなっつーの」 
べしりと頭を叩かれ目がさえた。 
痛い。夢じゃない!! 
       
       
       
       
―――そこには見知らぬ二人の青年がいた。 
       
       
       
       
「あ、と、へ・・・えと」 
「何だ、まだ寝ぼけておるのか」 
「じゃなくてあんたら誰!?」 
アシュトンは青年たちに向かって怒鳴った。 
「勝手に人の部屋来てしかもは・・・」 
「そうか、この姿で会うのは初めてだったな。・・・背中を見てみろ」 
「せなかぁ?」 
そういえばさっきから軽い。 
      アシュトンは素直に鏡に映した背中を見てみた。 
「・・・・・・あっ?」 
そこには普段≪あるべきもの≫が無かった。 
「ま・・・さか・・・」 
二人の青年を指差しながらアシュトンは酸欠の金魚のように口を開けた。 
「そんな・・・」 
「アシュト〜ン、朝よ〜・・・ぉぉ・・・」 
       
       
       
扉を開けたレナは入り口で思わず固まった。 
「・・・・・・」 
「よっ」 
       
       
       
       
       
      「!!!!!!!きゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」 
       
       
       
       
      青い髪の青年に挨拶されると、レナはけたたましい悲鳴と共に部屋を逃げ去った。 
「・・・・・・何をそんなに驚いているのだ?あの娘は」 
赤い髪の青年が首をかしげる。 
      それにアシュトンは気力を消耗しきったような声で答えた。 
      「健全な乙女の前に全裸の男がいきなり現れたら驚くよ・・・」
      
  |