The day of gratitude

「ああ、そういえば明日って僕の誕生日だった」
あくまでさらりと彼は言った。
その場にいた全員はものも見事に硬直した。
















普通。
普通なら自分の生まれた日を忘れるなどありえない。
だがそれは『普通なら』の話。
こんな毎日戦闘の連続で、さらに世界を救うなんて大業をやろうとしているのだから、忘れてたってさもありなんだろう。
はっきり言って事前に調べるなり訊くなりしておかなかった自分たちの落ち度だ。
どうしよう、なんて落ち込んでる場合じゃない。
だったらせめて・・・・・・













「ハッピーバースディ!クロード!!」





軽い破裂音と共にクラッカーから色とりどりの紙吹雪が飛び出す。
「うっわぁぁ〜!」
部屋に入ったと同時の襲撃に、クロードは両目を大きく見開いた。
「どど、どうしたの!?」
「どうしたのじゃないでしょ!」
レオンが両手を腰に、強気に見上げて言う。
「今日が誕生日だって言ったのお兄ちゃんじゃない」
「あ、そっか」
ぽんと手でも打ちそうなクロードの言葉に、一同微苦笑をもらす。
レナもクロードの前に来て、
「昨日聞いて大慌てで用意したのよ」
「ありがとう。でも、別にパーティなんて・・・・・・」
「なぁに言ってますの!」
クロードの言葉をさえぎり、セリーヌが言う。
「こんな時でなきゃ宴会なんて出来ないじゃありませんの。たまには息抜きも必要ですわ」
ぱちん、といたずらにウィンクされて、クロードは微笑した。
「さぁさ!夜はこれから!!パーティ初めよう〜!」
「の、前に!!」
プリシスのスタートの合図に、クロードのストップ。
「なになに、どしたの?」
「お願いだから僕を下ろして・・・・・・」
ディアスに抱っこされ強制連行されたままのクロードが、情けなく言った。






「うわぁ!これ、レナとアシュトンが作ったの!?」
テーブルの上に豪勢な料理にクロードが驚愕の声を上げる。
「本当に時間が無くて簡単なものしか作れなかったけど・・・・・・」
照れるレナに、クロードは首を振った。
「ううん。すごいよ、レナ!」
「さらにささやかですがこんなものも・・・・・・」
「あ、ケーキ!アシュトンが作ったの?」
「うん。甘さ控えめだからいくつでもどうぞ」
「あ、美味しい・・・・・・」
切り分けられたケーキに舌鼓を打ち、呆けたように感想を言う。





「クロード君!」
「わっ!?」
いきなりの閃光に目が眩む。
「ち、チサトさ〜ん」
本日の名カメラマン、チサトは拳を握り締め、
「写真なら任せて!ばっちり思い出に残るような一枚を撮って見せるわ!」
「あはは。お願いします」
「お。いい笑顔」
そう言ってまた一枚。





「クロードさん」
レナと話に興じていたクロードは呼ばれて振り向く。
「あ、ノエルさん。この鉢植えって・・・・・・」
手渡されたのは大輪の黄色い花の鉢植え。
「月並みですが、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。すごく綺麗ですね・・・・・・」
「僕が育てた花なんです。そう言ってもらえるとうれしいですよ」
「へぇ。ノエルさん、動物だけじゃなくって植物にも詳しいんですね」
「ええ、まぁ。そうそう、この花の花言葉、ご存知ですか?」
「いいえ?」
きょとんと首を振るクロードに、ノエルは糸目をさらに細めると、
「『あなたの幸せは私の幸せ』です」





「クロード!」
飛びついたのは、
「あ、プリシス」
「ハピハピバースディ♪」
「あはは。ありがとう」
「ここの電飾ってあたしがやったんだよ!」
「へぇ・・・・・・これみんなプリシスが?」
天井を仰げば、藍色に一面の星模様。
「そっ。すごいっしょ!!」
得意げに胸をそらせるプリシスに、
「うん。大変だったろうね」
「なんのなんの。クロード、楽しんでる?」
上目遣いに見上げられ、クロードはにっこりと、
「もちろん!」





「いよっ!飲んでるかぁ!?」
「うわっ!ボーマンさん!?」
背後から抱きつかれてバランスが崩れる。
酒匂が鼻先をくすぐった。
「酔ってますね!」
「ああ。酔ってるよ。酔わなきゃダメだろ、今日は!!」
「何でそうなるんです・・・・・・」
「だいたいもうちょい事前に言えっつーの。大慌てだぞ、こっちは」
「すいません」
殊勝なクロードに、ボーマンはにやりと笑って、
「来年はもっと豪勢にやってやるからな。覚悟しとけよ」
「・・・はい。お手柔らかに」
来年、という言葉に、クロードはくすぐったそうに笑った。




「クロード・・・・・・」
ようやくボーマンがよそに行って一息ついていると、こんどはディアスが話しかけてきた。
「さっきは悪かったな」
「強制的なお出迎えの事?」
「ああ」
小首を傾げるクロードに、ディアスはいつもの無表情にすこし苦い色を加えて、
「驚いたか?」
「・・・すごくね」
恨めしそうにディアスを見上げる。
ディアスはさらに苦い顔になった。
それを見てクロードはたまらず吹き出す。
「冗談だよ。驚いたのは確かに本当だけど・・・・・・」
続けて、
「ちょっと面白かったからいいや」
「そうか・・・・・・」















――――さんざん飲んで、歌って、食べて、笑って、卓上の料理があらかた無くなりかけた頃。
「それでは本日のメインイベント!」
「クロード。さぁ、こちらへ」
レオンとセリーヌが閉まったままだったカーテンを引き、クロードをバルコニーへ続く窓に招く。
「一体何が?」
「外、見てれば分かるよ」
レオンがそう言って窓を開けた。
バルコニーは風が吹いて、肌寒い。
夜空には雲ひとつ無かった。
「ねぇ、一体何が・・・・・・」
鳥肌の立つ腕をさすりながらクロードが振り向いたその時。









――――ドンッ









夜空を染める大輪の華。
「・・・花火」
クロードがその光景にぽかんとつぶやく。
「火薬の調合はセリーヌとレオンと俺」
と、ボーマンが言って、
「打ち上げ台はアタシ作!」
と、プリシスが手を上げる。
「昨日徹夜で作ったんだ。どう、お兄ちゃん」
レオンは言う。
クロードは俯いたままだった。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「クロード、気に入らなかった?」
レナも心配げに問う。
クロードは顔を俯けたまま頭をかき、
「違うんだ・・・・・・」
「何がだ、クロード」
「なんか・・・あのね」
「クロード・・・・・・」
「嬉しすぎて、言葉にならないんだ」
上げた顔は本当に、戸惑いの表情。
「僕、ほら、みんなに迷惑ばっかりかけてるし」
「そんな事無い!」
アシュトンが首を振った。
「そんな事ないよ。クロードに迷惑かけられたことなんて思ったこと一度も無い!!」
それぞれがうなづく。
「みんな・・・・・・」
「ねぇクロード。嬉しい?」
プリシスが問う。
「うん」
「じゃあ、笑って。笑ってくれると、こっちも嬉しくなるから」
「・・・・・・うん」
うなづくと、クロードは今度こそ本当に、
「うん!嬉しい!!」
心の底から、笑顔を見せる。

























――――空にまたひとつ、大輪の火の華。
咲いては地上のもうひとつの花を鮮やかに染める。

あとがき

昨年のリベンジならず(くぅ!)
実は当日誕生日だという事に気がついてあわてて書きました。
無念っ!(爆)

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