=両雄邂逅=
ryouyukaikou

/戻る/次

+漂白+
いまだ整備しきれていない道を、三台の馬車が行く。
街を目指し、ひた走る。
かつて、帝都と呼ばれた地へと続く道を、馬車は走り続ける。




















窓の外を流れてゆく景色は、目で追いきれないほど早い。
バルカスという人の言ったとおり、このまま行けばすぐにでもグレッグミングスターには行けそうだ。
馬車の中は沈黙に包まれていた。
まるで泥のように、息苦しいまでに濁った沈黙が、馬車の中に沈殿している。
馬車に乗った時から、喋るものは誰一人いなかった。
一人は、毒のせいでしゃべる事もままならず。もう一人はそんなコウをずっと抱き締め、黙り込んでいる。
最後の一人、ハクウはというとじっと窓の外を眺めたままだ。
口を開く事が出来なかった。
それは、あんまりの猛スピードと悪路の為、喋れば舌を噛む危険性がある為――――ではない。
なんと声をかければいいのか分らないのだ。
さっきから何度も口は開いている。
しかし、普段自分でも制止切れないほどよく回る舌はこんな時ばかり凍りつき、言葉らしい言葉など紡ぎはしない。
思っても見ない自身の変調に、ハクウは戸惑っていた。
第一、いったいこの状況で何を話せばいい。
コウの様態だとか、先ほどの戦闘の賞賛だとか――――山賊への怒りを止めてくれた礼だとか。
こんな時こそ、人懐っこい姉や口の上手い赤い騎士の存在が欲しいと思う。
毒舌家の風使いや、竜騎士でもいい。
もう、この沈黙を打破できるなら、誰でもいい。なぜこの場に彼らはいない。
当たり障りの無い事が頭の中に浮かんでは、泡のようにもろく弾ける。
――――息苦しかった。
言いたい事はあるはずなのに、どれ一つとっても形にならない事が、もどかしくて息苦しい。
それはそのまま、シグレに対するハクウへの思いにも似ていた。
最初は純粋な憧れ。
強き者、御伽噺の英雄に対する羨望と渇望。
しかし、思い描いていた英雄像は、本人によって木っ端微塵に崩された。
ついで根付いたのは、現実の英雄に対する失意と私憤。
違う。こうじゃない。
"自分の英雄"はこうじゃない。
純粋ゆえに、強い思い込み。
それを壊され、シグレに恨みさえ憶えた。
だが、ルックの話を聞き、ポイズンモスとの戦闘を経て、認識は改まる。
いや、まっさらになったと言った方がいいか。
壊された英雄像の破片が、ルックやシグレの風によって吹き飛ばされ、跡には更地が残った。
今は、途方も無くまっさらになった場所に立って、呆然としているといった所か。
ハクウは、まっさらに持っていかれる思考を取り戻そうと、軽く頭を振った。
今はそんな事を考えている場合じゃない。
澄ませた耳に、コウの荒い息遣いが届く。
彼を、一刻も早くコウを首都へ連れて行かなければ。
そう思えば、眼が回るほどだと思っていた外の景色が、亀の歩みのようにゆったりしているように映る。
はやく。早く。速く。疾く。まだ馬車は止まらない。
疾く。速く。早く。はやく。
「ハクウ殿」
突然、シグレが口を開いた。
それがあんまりにも唐突だったものだから、一瞬誰が喋ったものかも分らなかった。
一拍遅れて、窓の外から目がシグレへと移る。
シグレは、俯いていた。
ただ視線は、じっとコウを見つめたまま。一適の水が湖面に落ちるよりももっと静かな声で、一言。
「ありがとうございました」
ありがとう。
何に対して?自分に向って?
またしても一気に思考が漂白される。言葉という言葉を失う。
「……あ……え、あ……」













――――ハクウがまともな返答をする前に、馬車はまえのめりになりそうな勢いで止まった。

あとがき

いつになったらつくんだろう、グレッグミングスター。
とりあえず、2主の内情が書きたかったというか、
いざ書いてみたら、2主同様、自分が何言いたいのか分らなくなったというか……(汗)
もっと周囲、ナナミやフッチ達の気持ちも書きたかったんですが、妄想に文才が追いつかない(泣)
ちなみに、馬車が三台なのは、この大人数を一気に運べる馬車なんぞすぐに用意できないだろうと思ったからです。
坊・コウ・2主の組み合わせは、こうしないと話が出来上がらないから(笑)

/戻る/次