:秋空に思い流るる:
涼浬+真那+美冬

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 まだ秋口であるにもかかわらず肌を刺す冷たい空気に、龍斗はぶるり、と肩を震わせた。




 みんなと別れた龍斗は、一人四谷大木戸あたりまでやってきていた。
 さすがに江戸の入り口とも言うべき大木戸付近。旅装束の人々や馬などでごった返している。
 あちこちから耳に飛び込んでくる言葉には、聞き慣れた江戸弁、上方弁だけでなく聞いたこともないような訛りも混じっている。
 情報を集めるには申し分ない場所だ。
 これなら、いろいろ期待できそうだ、と龍斗は意気込み、手近な行商人に声を掛けた。




 だが、事がそう簡単に行くはずもなく、語ってくれた中に龍斗の求める柳生一派の情報は一つも含まれていない。
 一回でだめでも次がある、とばかりに次々声を掛けてみるがどういうことか返ってくるのは芳しくない答えばかり。
 四半刻はかけずり回って見たろうか。
 結局柳生のやの字も捕まえられぬ体たらくで、龍斗はその辺の木戸にもたれかかり、往来に目を向けた。
 江戸に入る前はのんびりしていた足も、一歩大木戸を潜ると途端にせかせかと忙しなくなるその変わりように、龍斗は小さくため息をついた。




 なぜこうも江戸という空気は、人を行き急がせてしまうのだろう。
 龍斗はさっきから何人も声を掛けているが、ほとんどまともに応じてくれる者は居らず誰も彼もが何かに追われているかのように足早に散ってゆく。
「……もうちょい、ゆっくりしてみてもええんちゃうんかなぁ」
「しかし、江戸の人間はみなせっかちであることを誇りにしているような点があります。のんびりしてみては……などと言ってみても、まともに取り合ってはくれないでしょう」
 確かに涼浬の言うことも一理ある。
 市中をのんびりとろとろ歩いているのは地方から出てきたお上りや浅葱裏くらいで、江戸の者は腰の曲がったご隠居でもさっさか先へ行く。
 どうも山奥でのんきに育った龍斗には、その辺の呼吸という奴が分かりづらく、しょっちゅう話や道行きに置いてゆかれている点がある。
 話を訊いてもまともに返答してくれないのは、こういう事が原因なのだろうか。
「しゃーないな。場所替えしよか」
 次は成覚寺あたりにでも行ってみるか、と龍斗は腰を上げた。




「坊さんやったら逃げんと、ちょっとは俺の話も聞いてくれるやろ」
「ここからならば、成覚寺よりも太宗寺の方が近いですが」
 涼浬の提言にそれもそうか、と龍斗は太宗寺に足を向け



「――――飛水の!?」



 飛び上がった。
 一体いつからそこにいるのか、いつも通り乏しい表情の涼浬が隣に立っている。
 涼浬は動揺する龍斗などなんのその。涼しい顔で目礼すると、
「驚かせてしまったようで、申し訳ありません。なにやら難しい顔をしておいででしたので、声を掛けづらかったのです」
「え……何? ど、どないしたん。こないな所まで来て……」
 まだばくばくと早鐘を打つ胸を押さえながら問えば、涼浬は眉をさげて語りはじめた。





 実は、また真那が店の中をしっちゃかめっちゃかにしてしまい、さすがに腹に据えかねた奈涸と共に真那を捕まえようとしたのだが、追う途中で姿を見失ってしまい、仕方がないので奈涸は鬼哭村を。涼浬は内藤新宿を、それぞれ手分けして探すことになった。
 もしかしたら龍斗達を頼って来ているのではないかと思ったが、あいにくと留守。
 ならば心当たりを虱潰しに探してみようと大木戸までやってきたというのだ。




「真那坊の奴……」
 見世中に散らばる骨董品を前に青筋を浮かべる奈涸を想像して、龍斗は片頬をひくつかせた。 
 しかし、涼浬は真那を追ってはるばる王子から新宿までやってきたと言うのか。
 女の足で王子から新宿まではさぞかし大変だっただろう。
「遠いとっからご苦労なこっちゃな」
「いえ。忍びの足に遠いも近いもございません」
 感心して労えば、何のことはないときまじめに答えられる。
 しかし、なぜか次の瞬間眉をハの字に下げ、申し訳ありません、と謝られた。
 一体何のことかと首を傾げれば、この大変なときに手伝うことが出来ず……と続く言葉に、あぁ柳生のことかと思い当たる。




「兄も私もなるべく見世のお客から何か情報はないかと探りを入れているのですが、うまく行かず……」
「ええん、別に。二人は見世持っとるんやから、柳生のことは俺らに任しときー」
 ですがそれでは公儀の勤めが、だとか飛水の人間としてお役に立てないなど、だとか言い続ける涼浬。
 奈涸との一件で御庭番としての自分に縛られず生きて行けるようになったかと思っていたが、幕府に対する忠義はまだまだ篤く、根っこが深いらしい。
 いいから気にするなと言ってみても、いやしかし……と返される。
 いい加減問答にもあきてきた龍斗は、涼浬にある提案を出した。



「あんやー、せやったら真那坊探すついでに、柳生調べるんも手伝ってくれへん?」



 きょとん、とする涼浬に龍斗は真那の行方を捜しながら同時に柳生の情報も探そう。それなら一石二鳥だと提案する。
 申し出に少しばかり考え込んでから、小さく頷いた涼浬にこれでやっと出発できると胸を撫で下ろす龍斗。





 かくて再開される情報収集だったが、簡単に吉報が舞い込んでくれるわけもなく空振りは続く。 
 龍斗と涼浬は根気よく人々に話を聞いて回った。
 そんな粘り強さが天に通じたのか、ある行商人が真那らしい童を見たと言ってきたのだ。
 やっと見つけたと二人喜んだのもつかの間、なんと見かけたのは二人だという。




 訊けば訊くほど真那そっくりな二人のわらべ
 しかもその二人は全く別々の方へいなくなったらしい。
 さてどっちが本物か。思い悩む龍斗に、今度は涼浬が二手に分かれてはどうかと提案する。
 一方を追ってハズレだった場合、二度手間になる。
 両方共にハズレなら振出しに戻る分手間は四倍、八倍。
 だいいち、片方が本物でもハズレを追っている間に逃げ切ってしまう可能性もある。
 涼浬の提案に龍斗は頷き、それぞれ別れて教えてもらった方角を目指す。
 道中、通りすがる人々にも尋ねてみたが、どうやら真那らしき童を見かけたのは事実のようだ。
 逃げ切られぬうちにと足を速める龍斗。
 すると、何となくまわりの景色が見たことのあるものに変わってゆくではないか。
 どういうことか、と思っていた矢先にたどり着いた終着点。
 鳥居の向こうから聞こえる声は、確かに真那のようだ。
 だがそれにしても――――。




「なんで、織部神社なんかに……?」




 まぁ、葛乃は面倒見が良いから自分の知らないところで世話になっていたのかも知れないと考えて鳥居を潜った龍斗が見たのは、真那と葛乃と――――そしてなぜか美冬だった。
 
 探し求めていたお目当ては、境内で美冬に猫のように首根っこを捕まれていた。
 いったいどういう状況なのか、さっぱり分からず固まっていると、こちらに気がついたらしい真那が大声を張り上げ助けを乞うた。
「龍斗ー! 龍斗、この姉ちゃんなんとかしてぇなー!」
「……なんしとんなぁ、真那坊。桧神」
「っ、龍斗殿!?」
 求めに応じ、駆け寄れば美冬が一瞬顔をこわばらせる。その隙を見逃す真那ではない。




 力の抜けた美冬の手から素早く逃れ、龍斗の背中に飛びつく。
 恐ろしくつり上がった目でこちらを睨む美冬に背中からベロを出す真那。
 美冬の眼光はもはやそれだけで人を焼き殺せるまでに程度にまできている。
 睨まれているのは背後の真那だが、実際その眼光を受けているのは龍斗だ。
 美人が血を流さんほど眦をつり上げ激怒する様ぐらい恐ろしいものはない。




「あー……二人とも?」




 とりあえず落ち着いて話をしてくれと頼めば、美冬の視線がこちらをむく。
 つり上がっていた目が丸く、赤い顔がさらに赤くなった。
「す、すまない龍斗殿……」
 しどろもどろになりながら、美冬が真那と一緒にいた経緯を語り出す。
 だが動揺しているのか。美冬の話はいっこうに要領を得ず、いたずらに龍斗を混乱させる。
「なにねぇ、たいしたこっちゃないさ」
 見かねた葛乃が、笑いながら話を継いだ。




 まず事の発端として、真那が茶屋から団子を盗もうとしている場面。それを美冬が目撃した所から始まる。
 元から正義感の強い美冬のこと。そんなところを見つけて黙っていられるわけがない。
 取っ捕まえて説教しようとしたが、真那の方はこんな状況手慣れたもの。
 素早く美冬の手から逃れ、ついでにからかいを一言二言口にして真那は逃げ出した。
 茶屋の方はと言えば美冬が現れるまで真那の存在には全く気づいて居らず、さらに美冬が来てくれたおかげで何も盗まれずにすんだ。
 これからはもっと気をつけるということで茶屋側の話は纏まったが――――さて、それで収まりがつかないのは美冬の方である。 
 おのれあのような小娘に嘲弄されっぱなしでは武士の恥とばかりに、茶屋の親父や取り巻き達を置き去りにして、美冬は猛然と真那の後を追った。
 真那の方はと言えば新たな店先で仕事でもと思っていたところに、背後から土煙を上げて追い迫る美冬を見て、完全に肝を潰し逃げ出した。
 かくて般若をも恐れる形相で疾走する男装の麗人に、韋駄天すら追いつけぬ俊足で般若美冬から逃げる乞食の娘。
 この追いかけっこに出くわした者は、さぞや腰を抜かしたことだろう。
 逃げては追い。追われては逃げ。時に躱し、時に飛びつき。
 二人の距離は全く縮まらぬまま、鬼ごっこは一体どれほど続いただろう。
 走りに走り回って織部神社までやってきた真那は、とうとうそこで、一体何事かと思った葛乃に捕らえられてしまった。
 龍斗達が見たのは、ちょうど真那を美冬に引き渡した、その瞬間だった、と言うことだ。




「――――真那」
 逃げようとする足を抱え込み、呆れ半分、咎め半分で背後の真那に目を向ければ、決まり悪そうに真那は顔ごと視線をそらせた。
「あんなけ人様のもんにもう手ぇ出したらあかんでぇ言うとったやろ」
「せ、せやかてやぁ龍斗……」
 咎める視線から逃れるように、背中に頭を擦りつけながら、何かもごもごと口ごもる真那。
 だがそれはきちんとした言葉を形作らず龍斗の背中に吸い込まれていった。
 これまでの真那の生活状況を考えれば、盗み癖が治らないのも分かるには分かるが、しかしこのままでいいのかと言えば当然いいわけがない。
 何か策を講じるべきか――――龍斗は思案するが、あいにくと良い考えは浮かばない。




「……龍斗殿」
 厳しい声を掛けられ、そちらに顔を向ければ柳眉を逆立てた美冬がいる。
「このようなことを言うのは失礼かと思うが、龍斗殿はその童にいささか甘いのではないか?」
 今のうちから躾は厳しくすべきだとのもっともたる意見に、しかし龍斗は返事を出来ないでいる。




 何というのか、里にいた頃からそうなのだが龍斗は叱ること――特に真那くらいの童を――が苦手だ。
 あんまり厳しくしすぎるのは可哀想な気もするし、なにより殊勝な顔の一つでもされれば、もう反省したのだろうと許してしまう。
 実際その手で何度も煮え湯を飲まされてきたのだが、やはり龍斗は叱るのが苦手だ。
「まぁ、ほら……真那坊も反省しとるようやし……」
「それがいかんというのだ! 模範となるべき身近な大人の龍斗殿がそのように軟弱な態度では、すぐになめられてしまう。結果、その童がお天道様に顔向けできないような、そんなろくでもない大人になったらどうするのだ!?」
 今だってげんにそうではないか!
 美冬の鬼気迫る剣幕に、龍斗はもごもごと口の中で真那はそんな子じゃない、だとか、あまりきつく接しすぎても歪んでしまう、だとか言い返すが当然相手の耳には入らない。
 だいたい、美冬の言っていることは厳しすぎるが正論で、言い返せばその倍は"ごもっとも"な意見が返ってくるだろう。
 一体どうすれば美冬は怒りの矛先を納めてくれるのか、浴びせられる直言にどうしたものかと口ごもる龍斗の耳に、きわめて豪快な笑い声が飛び込んでくる。
「……何がおかしいのだ、葛乃」
 話の腰を折られて、不機嫌そうに美冬は振り返る。
 喉の奥が見えるほど笑い転げる葛乃は、滲む涙を拭い、




「いやぁ、なに。あんた達の様子がまるで凶暴女房と女房と子供に弱い亭主みたいに見えてねぇ」
 まるで落語の「熊の皮」に出てくる女房と頓兵衛みたいじゃないか、との葛乃の言葉に、怒りのためか真っ赤になっていた顔をさらに赤く染め、美冬は吠えた。




「ばばばばばばば、馬鹿なことを言うな! だ、だれ、誰が女房だ、誰が!?」 
「アンタ以外に誰がいんのさ」




 なんならさっきのやりとりを一字一句正確に再現してやろうかとまで言われ、美冬は言葉を無くす。
 矛先が葛乃に向いてくれたことにほっとしていた龍斗だったが、すぐに美冬の視線は元に戻った。
 おもわず次の口撃を警戒して後ずさる龍斗だったが、意外にも美冬は何も言わない。
 口をへの字に結んでこちらをじっと睨み付けている。
 顔どころか耳や手、目に見えるところすべて真っ赤に染まっており、まるでタコの親戚のようだとさえ思った。
「あ、あんみぃ、桧神……」
 あまりにきついその形相とこめかみに浮かび上がった青筋の立ち具合に、龍斗は恐る恐る声を掛ける。
 が、言い終えるか否かの間に俯いた美冬は小さく、
「……今日はこの辺で失礼する」
 言って、足早に龍斗の脇を通り抜けていった。
 龍斗の煮え切らなさに業を煮やしたのだろうか。
 掛ける言葉もなくその背を見送る龍斗だったが、突然美冬はくるりと振り返り、
「――――この話はまた後日、改めて行わせてもらう」
 それまでに少しは盗み癖を直しておいてくれと言って、今度こそ本当に美冬は帰っていった。




(あぁ……続きあるんか……)
 正直、またあの剣幕で怒鳴られるかと思うとぞっとする。
 情けない気持ちで、龍斗は恨み半分、ずっと大人しいままの背中の真那を軽く揺する。
 が、返事は返ってこない。
「……真那坊ー?」
 いつもならば騒がしいのに、と首を伸ばして納得した。




「……寝とる」




 考えてみれば、奈涸達から逃げ、美冬からも逃げ、一日中走りっぱなしだったのだろう。
 穏やかながらもしっかり龍斗の服を握りしめる姿に頬が緩んでしまう。
「罪のない顔で寝ちまってまぁ……」
「お説教は起きてから、になりそうですね」
 葛乃が笑う横で、涼浬がため息混じりに頷く。
 だが真那の場合、説教が始まる前に逃げそうだなぁ、



「って、いつの間に!?」



 ――――と、言おうとして龍斗は悲鳴を上げた。
 大仰に驚いたため、思わず背中の真那を滑り落とすところだったが、どうにか落とさずにすんだ。
 相当疲れているのだろう。身じろぎ一つしただけで全く目覚める気配はない。
 それにしても、数刻前別れてから今までずっと影も形もなかったのに? と首を傾げれば、
「その嬢ちゃんだったら、美冬が怒鳴りはじめた頃からいたよ」
「何か大事な話をなさっておいでのようでしたので出て行くにいけず、そこの鳥居からずっと伺っておりました」
 だったらとっとと来て、とっとと連れ出してくれば良かったものを……と、思わず恨みがましい気持ちになってしまったが、あの美冬の剣幕を見たのではさもありなん。
 いかに剛胆な者であれ、出てこれる雰囲気ではないだろう。
 とりあえず、肝心の真那が寝てしまっているのではしょうがない。
 龍斗達は葛乃に一言、騒がせた非礼を詫び帰路についた。









 厚い雲から零れる日差しは、すでに赤々と染まっている。
 どこからともなく聞こえるカラスと子供達の声が秋の物悲しげな空気の中を遠ざかってゆく。
「緋勇殿、お疲れでしたら私が代わりますが……」
 申し出るが、龍斗は笑って頭を振った。
「飛水のンは気んしぃなーやぁ。そっちも、一日探し回って疲れとるやろ」
 そうはいっても自分は忍びなのだ。これくらい鍛錬で――――と背中の真那に手を伸ばすが、眠っているはずなのにその両手はがっちり龍斗の背中を掴んで離さない。
 手を出し倦ねておろおろする涼浬に、龍斗はもう一度気にするな、と言って笑った。
 あきらめて、黙ったまま連れ添い歩き出す。
 涼浬は無言のまま、並んで歩く龍麻の横顔を盗み見た。
 薄明に照らし出される龍斗の顔は、常にないほど穏やかだ。
 時折背負う真那に向ける目には、深い慈愛が込められている。
 正直、戦闘中の物々しい表情や自分に負けず劣らずの無表情くらいしか知らない涼浬は、なにやら見てはならないものを見てしまったかのような気まずさを感じていた。



 何となく、落ち着かない。



 この気持ちの原因が龍斗にあるのは明らかなので、だったら龍斗の方を見なければ良いだけの話なのだが、気がついたら隣を見ている。
 一体どうしたのだろう、自分は。
 何度目かの盗み見の後、気取られそうな様子に慌てて前を向けば、向こうから同じように背中に子を抱えた男性がやってきた。
 隣にいるのは母親だろうか。
 ぐっすり眠りこける子供を見つめる表情には幸福感が満ちていた。
 通りすがるとき、どちらともなく会釈する。
 目が、自然と親子連れを追いかける。
 背中に子供を抱えた父親と、寄り添う母親。
 まるで今の自分達のようだ――――と考えて、涼浬は猛然と頭を振った。
 何を不遜なことを考えているのだろうか、自分は。
 龍斗と自分が夫婦の様などと、そんな……。
 浮かび上がった考えを必死に追い払いながら、しかし織部神社で聞いた葛乃の言葉が甦る。
 ――――凶暴女房と女房子供に弱い亭主……。
(さしずめ私達の場合、"無愛想女房と子煩悩亭主"か……)
 うんうんと頷く側から涼浬は再び首を振る。
 だから、何を考えているのだ自分は。
 女房だとか、亭主だとか、夫婦だとか、二世の契りだとか、そんな――――。




「……飛水の?」




 頭の中を巡る不埒な考えを必死に追い出していると、隣から訝しげな声が飛んでくる。
 具合でも悪いのかと、心配げに龍斗が顔をのぞき込んでくる。
 その顔を、何でもない、大丈夫だと押し返して涼浬は歩みを進める。
 さっきまでの考えを、もしや読まれてはいないか、と再度横顔を盗み見るが龍斗の様子に変わったところはない。
 あぁ、それにしても龍斗は本当に真那に甘い。この甘さはまるで本物の親子のようだ。もし自分との間に子をもうけても、龍斗ならばきっと可愛がってくれるに違いない――――。
(わ、私はまたなんて事を……ッ!)
 再び脳内を巡りはじめる不埒な妄想に、首を振って追い払う涼浬。
 そしてその様子を心配してくれる龍斗。




 ――――結局大丈夫か具合が悪いのかいいえお気になさらず……のやりとりを何度か繰り返し、王子につく頃には涼浬はすっかり目を回していた。

あとがき

全力全開趣味丸だし。
大好きな【陽】女性陣を詰め込んでみた。
涼浬も真那も葛乃さんも美冬も好きなんです。
欲を言えばほのかも出したかったです。

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