Gift from Aplayer = Ayasato sama.
『Short Short Story』

手紙にまつわる話

ガーネット→ワーテルロー

小麦粉200グラム。いなかパン10個。
3日後には村に着くと思いますので、よろしく。

いつもと同じそっけない手紙の内容にワーテルローはため息を洩らす。
要点の解りにくい手紙(ヴィ・ワから?)もなんともいえない気分になるのだが、簡潔すぎるこれもどうかと思う。
しかし自分達が平和に暮らすために彼女たちは旅に出ているわけで、瘴気の内でもこうしていられるのは彼女たちのおかげ。
そのための過酷な旅の合間の手紙に華美な文章を期待するほうが間違っている気もする。
なのでガーネットのそっけない文章も仕方がないかとも思う。

いや、村にいるときからこんなのだった、と思えないこともないのだが・・・。

でも、まあ、とにかく。
自分がしてやれることは速やかに粉を挽き、美味しいパンを焼いて彼女たちを待っていることだろうとワーテルローは袖を捲り立ち上がったのだった。
3日後にはガーネットのいつものようにワーテルローの肩についた粉を払う姿があるだろうこと想像しながら・・・。

- - - - -

ヴィ・ワ→ギィノ

ねー?
ん?
これでいいかなぁ?
ギガースのシッポ・・・? 何これ?
ギィノに送るの。
なんでまた?
うしししし。
ま、ほどほどにね。

ねー?
ん?
これでいいかな?
さふさふ?何が?
これ。
・・・あー、確かにこれはさふさふね。で、またギィノ?
もち。
ギィノは真面目なんだから怒られない程度にしときなよ?
・・・てへ。
まぁ、あの石頭には丁度いいかもね。
ふっふっふ。

ねー?
ん?
今度はこんなのにしてみたんだけど。
ギィノも大変ね・・・。
えー。これも心遣いのひとつでしょ。
本気で言ってるあたりが、あなたのあなたたるゆえんかしら?
それほどでも。で、どう?
誉めてるわけじゃないんだけどね。ま、でも、いいか。・・・んー。寧ろこれはこっちのほうがよくない?
あ、なーる。お主も悪よのう。
あなたさまほどでは。
えー、絶対そっちのほうが悪だよ。
・・・断言したね。
もちよ!
・・・・・・認めるけど。
認めるのか!?

二人であーだ。こーだ、と言い合って。
出された手紙を開いたギィノはひたすら頭を悩ませたとか。
やっぱり村では女の子たちのほうが強いらしい。

戦いにまつわる話

ここは、魔物たちの住む地。
そこに進むは、雫を求め旅するものたち。
本来、人が来るべき場所ではない。
油断は禁物。焦りも禁物。
それでも先に進まねばならない。

「あ、ゴブリンの集団」
叫んだのは、ヴィ・ワ。
ケージを投げ出し、いつものように特攻してゆく。

ドカ。バキ。ゴス。

「勝った〜!」
得意げに後ろを振り向いたが、しかしそこにいつもの姿が無い。
あれ?と周囲を見渡すと濁った瘴気の中にそれを見つける。
「ガーちゃん!!」
なんて無茶をと顔色を変える仲間をよそに、ガーネットはけろりと宝箱を持ち帰った。
そこまでして取ってきた宝箱。
剣でこじ開け、中身を覗く。
「・・・・・・玉葱剣か」
「ガーちゃん・・・」
攻撃力+1のそれに溜息をつき、もう持っているや、と呟くガーネットは、どう見ても「温」の民には見えなかったとか。

ヴィ・ワにとって怖いもの。
魔物でも、瘴気でもなく、たおやかな見かけの仲間の、あの子。

- - - - -

それは、まだ旅を始めたばかりの頃の話。

ヴィ・ワにとって旧街道は初めてではなかった。
父の後姿を見ながら、魔物と対峙したことも何度かあったりした。
でもいま隣にいるガーネットは今までそんな経験などあるはずも無くて、もちろん魔物と対峙するのも初めてのことだろう。
「大丈夫?」
そう問えば強ばった顔で、震える瞳で、でも気丈に、
「もちろん」
と笑う姿に、ヤラレテしまった。

大丈夫。絶対アタシが守ってみせるから。

「・・・何ボーッとしてんの!」
そんな声とともに、目の前の魔物が氷に包まれる。
我に返れば再び呪文を唱え氷漬けを増やそうとしているガーネットの姿。
「大丈夫?」
その姿に思わず記憶のなかの言葉が口をついて出た。
その問いにガーネットは視線だけをヴィ・ワによこし、
「もちろん」
あの時と同じ気丈な笑みを返したのだった。
「・・・強くなっちゃったよなぁ」
しみじみとそう呟きながら、
そんな姿にも実はヤラレテしまっているというのは心の中だけに留めておいた。

- - - - -

それは、まだ旅を始めたばかりの頃の話。

ガーネットにとって世界は始まったばかりのようなものだった。
知識として分かっていたことも、実際に見てみると全く違うものになり、もちろん魔物と対峙するのも初めてのことだった。
でもいま隣にいるヴィ・ワは何度か外の世界に行ったことがあって、魔物との遭遇にもどこか慣れた感じだ。
「大丈夫?」
なんでもない顔で、気遣うように、でも強い意志を感じさせる瞳でそう問う姿に、
「もちろん」
返す声は震えていなかっただろうか。
ガーネットを守るように前に出た背中に、ドキリとしたのはきっと気のせい。

私はあなたの隣に相応しいのかしら?

「・・・うおりゃぁあ!!」
そんな叫び声とともに、魔物に向かってゆく背中が見える。
我に返れば、魔物の群れに特攻を仕掛けているヴィ・ワの姿。
「大丈夫?」
その途中、ふと振り向いたヴィ・ワがどこかぼんやりしていたガーネットに口の動きだけでそう伝える。
あの頃と変わらぬ気遣うような、強い意思を感じさせる瞳を見返し、
「もちろん」
笑みさえ浮かべてそう答えた。
「・・・単に無鉄砲なのよね」
ケアルの呪文を唱えながら、
やっぱり前を行くその背中にドキリとしてしまうのは気のせいということにしておいた。

アノコトにまつわる話

『智』の民ユークが住まう地、シェラの里。
ここで有名なのは「ふしぎなえきたい」と「アクセサリー加工」である。
そんな地に降り立った、我等がキャラバン。
はてさてどんな行動を起こすのやら。

「どう?」
「・・・ギリギリ2人分の宿代ってとこかな」
旅の始めはなにかとお金のかかるもの。
今回「ヒスイの腕輪」を作ったらあっという間に貯めていた分が消えてしまった。
残りは、ここシェラの里での1泊分といったところ。
眉間に皺を寄せるガーネットに、ご飯代は?と悲壮な顔のヴィ・ワ。
財布を覗き込んで暫し無言で考える。
「あ!」
沈黙を先に破ったのは、ヴィ・ワ。
ガーネットは視線で話の先を促して・・・聞いた瞬間後悔した。
「色仕掛けでいこう!」
「・・・誰に?」
頭痛がするとばかりにこめかみを抑えながらも一応聞くだけ、結構ガーネットも切羽詰っているのかもしれない。
「そりゃあ、旅の仲間に」
けろりと答え、首を傾げ、上目使いがポイントね、と実演してくれるヴィ・ワに向かって一言。
「じゃあ、ヴィ・ワがやったら?」
「ヤ!」
「なんで?」
「ガーちゃんのが見たいから!!」
うきうきと鼻息も荒く言い放ったヴィ・ワにとりあえず、なんでやねん、と突っ込みは入れておいたガーネットだった。

アノコトにまつわる話(by 田林)

「あのね、助けがほしいんだ」
「助け?」
「そ、ちょっとばかり愛の手をってヤツ」
普段ならしないような、わざとらしい可愛らしい仕草で「お願い」目線をかましてくるヴィ・ワに、タヒルは深いため息を吐いた。
日頃からからかったり嫌がらせしてみたりの行いのせいか、この幼なじみが自分に対してこんな仕草を見せる程の好意を抱いていないことはよく分かっている。
おそらくこれは、何か魂胆があってのことだろう。というか、本人も慣れないことをしているという自覚があるのか、微かに口元が引き攣っているのが見える。
旅先で困ったことがあったから、以外に理由が思い浮かばない。そしてその困り事と言ったら、一つしかないだろう。金銭面のことだ。
「……どんな無駄遣いしたのさ」
「無駄遣いじゃないよ、必要経費だし」
何故か両手を腰にあて、えへんと胸を張って答える。
普段は村で家の手伝いをしているが、時々村の外からやってくる魔物に備えるためにこの村の警備の手伝いもしている彼にも、武器や防具にかかる費用も薄々予想できる。
事実、危険な戦いに身を置く彼女たちにとっては必要経費だろう。
さらには旅先という環境では、村の中で生活している時と違い、村ならタダで手に入るようなものにも金がかかるという話も聞いている。
「仕方ないなあ」
彼女たちが旅に出ているのは、村にあるクリスタルの浄化のため、ひいては村人のためである。
好きで世話になっているわけじゃない、なんて言葉を口にする気もないし、ここは素直に協力しておくのが道理だろうかと、彼は財布を取り出した。
「やったあ!」
 途端にさっきまでの作りモノ然とした笑顔から、いつもの満面の笑みになるヴィ・ワに、今日はそれまで大人しかったはずの悪戯虫が反応する。
「はい」
「わーい、ありが……」
「この貸しは高いよ?」
 財布の中にあった200ギルを渡しながら、そう笑顔でしっかり釘を差すタヒル。
思わず、隠すように握りこぶしを作りながらヴィ・ワは、
(うちの村のクラヴァットって……うちの村のクラヴァットって…!)
と奥歯を噛み締めていたとかいないとか。
案外この世界で一番手ごわいのはクラヴァットらしい。

続アノコト?

「なんとかタヒルから借りてきたよ〜」
 でも貸しは高いと言われちゃったと、疲れた顔で戻ってきたヴィ・ワに、ご苦労さまとガーネットはお茶を渡す。
「タヒルはアタシに何させる気だ〜」
 腹黒タヒルめ、と涙目で天井を睨むヴィ・ワにガーネットは笑みをむけ、
「大丈夫よ。タヒルの弱みのヒトツやフタツやミッツやヨッツ握ってるから」
 とのたもうた。
 その様に、やっぱりうちの村のクラヴァットって、とヴィ・ワが戦慄を覚えたとかいないとか…。

待ち人にまつわる話

はじめてのおつかいにまつわる話(by 田林)

「っんどりゃああああ!!」
とうてい女とは思えないような凄まじい気合と共に放たれた一撃は、氷塊に閉じ込められていたリザードンを打ち砕いた。
地響きを立てて倒れこんだ魔物が、煙のように拡散して消える。
「よっしゃあ! やったよ!」
それを見届け、満面の笑みでヴィ・ワは連れを振り返った。
「すごいクポ〜!」
空中をふよふよと漂いながら喝采を返すのは、ひょんなことからキャラバンの旅に同行しているモーグリの子ども、モグ。
「……えへへ。よし、先行こうか!」
セルキーの少女はその喝采を聞きながら一瞬視線を彷徨わせた後、にこっと笑みを浮かべて「へへっ」と笑うと、地面に置いてあったケージを担ぎ上げた。
歩き出そうとする彼女に、慌てたようにモグが追いすがる。
「待ってクポ〜っ、ケージはモグに任せるクポ!」
「あ、ああ。そうだったね」
魔物の砦の真っ只中に一人と一匹。油断ならない状況と、初めての“一人”。お手伝いをすると言ったモグの役目は『ケージ持ち』だと、入る前に何度か確認したはずだった。
「ごめんごめん、いっつも持って移動する癖が……」と謝りながら、ヴィ・ワがケージを差し出す。
そして、ハイッと渡されて嬉しそうについてくるモグを見ながら。
「んー……なんか、ちょっと」
ちょっとだけだけど、寂しいかも。と思った。それは少しというか、かなりモグに対して失礼かもしれないけれど、確かに先ほど思ってしまった本音。
(ちょっとだけだかんね!)
そう自分に言い聞かせながらも、心の隅では早く用を済ませて、宿で待つガーネットの元に帰ろうと考えていたとか。

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「怪我してなきゃいいけど」
長閑に広がる田園風景を見ながら口を吐いてでたのは、単身デーモンズコートに乗り込んでいった仲間の心配だった。
甘えるように鼻先を寄せるパパオを撫でながら、ガーネットは小さなクシャミを一つ。
これのおかげで今回ガーネットは留守番を言い付かってしまったのだ。
「何だか落ち着かない」
いつも隣にいるはずの存在が無いのは、どこか不安で寂しい。
直ぐに返ってくる、と言ったヴィ・ワの言葉は実力から考えても嘘ではないと思う。
それでも一人でうずうずと待っているよりは、一緒に行きたかったという気持ちのほうが強い。
「っくしゅ!」
再び思考を中断するようにクシャミが出る。
息苦しさに僅かに滲んだ涙を拭いながら息を整え、決意表明。
「…何としてもヴィ・ワが帰ってくるまでに風邪を治さなきゃね」
そう呟きながら、自分よりよっぽど薄着のヴィ・ワがなぜ風邪を引かないのか不思議に思うガーネットなのだった。

はじめてのおつかいにまつわる話・2(by 田林)

静かになった砦を出る頃には、もうすっかり分かってしまっていたので、彼女は素直に負けを認めることにした。それは“負け”というのとは違うかもしれない。けれど仲間の病気にかこつけて、最近感じていた『自分は彼女に頼りすぎているんじゃないか』という不安を払拭しにきたはずだったというのに。
「……やっぱ淋しい……」
しかも、少しじゃなくて、すんごく。手の中の王の鱗を転がし、ポツリと呟く。もう意地や矜持なぞ溶け去ってしまっていた。
「どうしたクポ〜?」
すべての魔物を倒し目当ての物を手に入れたというのに、どこか肩を落として馬車に向かうヴィ・ワを、モグがどこか怪我でもしたかと心配そうに気遣う。せっかく一緒に来てくれたモグに悪いな、と思った彼女は笑顔を浮かべて首を横に振った。
「んーん、何でもないよ。それより早く帰ろ?」
「きっと待ってるクポ! お土産持ってくクポ〜」
王の鱗とロードガウンとオリハルコン……これらが揃えば、この雄大な大地の力を宿した鎧が出来上がるはず。それは、今は宿で待つ少女がいつも、早く作りたいと口にしていた防具のひとつだった。
「そーだね。ついでにまだ残ってるリンゴで"うささんりんご"作っちゃおっか」
大昔、平和を願った若者の手で生み出された金色と赤の混ざり合った果実は、馬車の中にまだまだごろごろ転がっているだろう。
手にしたラケットを背負いながらヴィ・ワは、風邪にも効くなんてしましまりんごって万能♪ と笑い、歩きだした。
改めてその存在の大切さを思い出した相手のもとへ。

- - - - -

風邪も治した。
パパオの調子もいい。
食糧も買い足した。
準備は完璧。
あとはヴィ・ワとモグが帰ってくればいつでも旅立てる。
おそらく明日、どこかのキャラバンの馬車に乗せてもらえていれば今日の夕方には帰ってくる・・・ような気がする。
「たぶん今日・・・かな?」
ガーネットは荷物の点検を終え満足そうに頷いてから、チラリと大農場の入り口に視線を流す。
そこには緑の草木があるだけで、まだ人が来るような気配は無い。
それでもガーネットには妙な確信があって、そのまま入り口に居座って待ちたい気持ちをぐっと抑える。
ガーネットは入り口にくるりと背を向けそのまま宿へと向かう。
昨日の本の続きを読むために。
そうして迎えるのだ。
いつも旅している時と同じように。
ベッドの上で本を捲りながら。

それは寂しいなんて、不安だったなんて、待っていたなんて、ヴィ・ワに知られたくないガーネットの強がりなのかもしれない。

最後の戦いに出る前に

ススムナ モドレ
モドルナ ススメ
ここは地の果て 世界の果て
吹く風さえも行く手を惑わすそんな場所

濃く重く瘴気が渦巻く山の麓。
本来ならば臨むことさえなく終わるはずの地。
ふわふわと漂うモーグリに丁寧に封された手紙を渡し、ついでとばかりに頼みごとを口にする。
「ねぇ。もし、もしね。私たちが戻らなくて、その代わりにここのモーグリが戻ってきたら届けて欲しいものがあるの」
何気なく。ついでのように。でもとても大事なこと。
「何を届ければいいクポ?」
慎重に、慎重に、口にする。
「・・・このケージを、私たちの村まで」
告げた途端、その意味に気がついたのかモーグリの顔がくしゃりと歪む。
それでも、
「この山のモーグリに入り口までは頼んでみるから、だから、お願い」
今にも泣き出しそうなモーグリが微かに頷いたのを見て、ありがとう、と小さく呟いた。

遠ざかる二つの背中に叫ぶ。
「ぜったい、ぜったい、戻ってくるクポ!!」
今度こそ。
かつて同じことを告げてこの地に入っていった二人のときと同じ思いはしませんように。
彼女たちの背中が見えなくなっても、ただひたすらそう願いつづけた。

最後の戦いにまつわる話

「疲れたね」
「うん」
「何か食べたいよ〜」
「私はお風呂に入りたい」
「あ〜、そ〜だね」
「動けそう?」
「まだ無理!」
「私も」
「でも腹減った!」
「うん」
「風呂にも入りたい!」
「うん」
「一緒に!!」
「うん・・・ん?」
「けって〜い!!!」
「(ま、いっか)」
「・・・」
「・・・帰ったらね」
「うん。帰ったらね」

赤い岩肌を剥き出しにした大地に頬をつけながらの会話。
傷だらけの埃だらけの疲労困憊。
満身創痍という言葉がよく似合う。
全てが終わり、全てが始まる。
だけど今はまだ動けないままで。
それでも二人の頭上には、いままで見えなかった青い青い空が広がっていた。

突如として窓が壊れるのではないかと思うほどの突風が吹き荒れたかと思うと、始まりと同じくらい唐突にぴたりと風がやんだ。
何事かと家の外に出てみれば、世界は一転していた。
青い、青い空。
今まで覆われるようにあった瘴気の欠片も見当たらない。
頬にあたる風さえ今までと違うようだった。
気がつけば自分と同じように空を見上げ、あっけに取られている村の住人たちの姿があちらこちら。
「なぁ・・・これって・・・」
掠れた声でそう問い掛けた声に振り向けば、呆然とした友の顔が見える。
おそらく自分も同じような顔をしているに違いない。
「ああ・・・たぶん」
そう。同じ人物のことを考えながら。
できるかどうか分からないけれどと前置きしながらも、その瞳は確実だと語っていて。
世界を変えてくるからと笑う姿に、もう引き止めることはできないのだと悟った。

・・・そうして、今がある。
奇跡は起きた。
でも、だから、どうか、もう一度、願う。
彼女たちが無事でありますように。
そして肩についたこの粉を払う掌の温かさを、朗らかに笑うその笑顔を再び見ることができますように。

村人たちと女の子たちの話

ぺらり、ぺらりとページを捲る音がする。
なぜか泣きたくなるほど綺麗な青空の下、大きなリンゴの樹の下で小さな文字をひたすら目で追う姿が傍にある。
そんな旅していた頃と何ら変わらない風景にヴィ・ワは安心したように眠りに落ちた。

「何してんの?」
突如として現れた影と降ってきた声にガーネットはページを捲る手を止める。
見上げてみればにっこりと笑うタヒルがいた。
ガーネットはそれを確認するとまた直ぐに視線を落とし文字を追い始める。
「本を読んでるの」
そっけなくそれだけを告げて。
同じクラヴァットといえど読書に魅力を感じない無いタヒルはふぅんと頷くと、それきり興味を失ったように黙って隣に座る。
読書の邪魔さえされなければどうでもいいガーネットも特に咎めはせず本の世界へと入り込んでいった。

ガーネットの傍で気持ちよく眠っていたヴィ・ワは何かを感じ、目を覚ます。
魔物もいなくなったこのご時世に一体どうしたのかとガーネットを見やり、固まった。
そこには、ガーネットの足の上に頭を乗せ(俗に言う膝枕)さらにはその長い髪を楽しげに弄んでいるタヒルの姿。
そんな傍目はラブラブカップルのような二人の構図にヴィ・ワは顔を真っ赤にして口を大きく開いた。
「こらー!タヒルー!そこはアタシの指定席だー!!」
「突っ込みどころはそこなのか!?」
ずるりと古典的コケをしたタヒルとヴィ・ワの言い争いをよそに、ガーネットがまたページを捲った。

あまりの騒がしさにガーネットが切れるまであと15分。

- - - - -

手紙を持ったモーグリの姿が見えなくなるなり、膝からかくんと力が抜けた。
ケアルの呪文で傷は治せても、疲労までは消しきれない。
そのまま地面にへたり込んだガーネットが顔を上げれば、隣も似たようなものだった。
否。
おそらくヴィ・ワの方が疲労は深い。
魔物に囲まれ、アイテムも全て使い切って、瀕死の重症を負ったガーネットを助けるためにヴィ・ワは自ら囮になったのだから。
「ごめんね」
地面に頬を押し付けたまま、疲れきって眠ってしまったヴィ・ワの頭をそっと持ち上げ膝の上にのせる。
ごそごそと寝返りを打ってベストポジションを見つけたのか、さらに深い寝息に変わる。
それに安堵の溜息を漏らしつつ、ガーネットはそっとケアルの呪文を唱えるのだった。
「お疲れ様。それと、ありがとう」

その後、ガーネットの膝枕はヴィ・ワの怪我をした時のおとっときになったとか。

- - - - -

この世界から瘴気が無くなって、クリスタルを浄化するためのキャラバンも無くなって、人はいつでもどこにでも旅に行けるようになり。
そうして緩やかに時は過ぎて。

戦いなれ、傷だらけで、肉刺だらけだった掌も、いつしか白くやわらかく戻った頃。
旅の間にすっかり増えてしまった本が所狭しと並んでいる。
ぼんやりとしたランプの灯りに照らされながら、彼女の目は文字を追いつづけていた。
書斎。
旅に出る前から彼女の家にあった彼女の大好きな場所。
錬金術師という名に恥じぬように、彼女は知識を得ることに貪欲だった。
3度の飯よりも、睡眠よりも本が好き。
そんな彼女だったからこそ、キャラバンになると知ったとき酷く驚いたものだった。
そして、その旅が必要なくなって、彼女はまたこの書斎に戻ってきた。
まるであの過酷な旅などなかったかのように。
静謐なその空間にワーテルローは彼女へ声をかけず扉を閉めようとした。が、ふと机の上に置いてあるものが目に留まる。
ぼろぼろになって古びた布。
バンダナだろうか。
ワーテルローは疑問に思い動きを止めたが答えなど出るはずも無い。
そうして再び彼女を見やり、その手にあるのが瘴気と魔物の関連について書いてある本だと気付く。
ただ静かに本を読みつづけるガーネットに言葉をかけることも無くワーテルローは扉を閉めたのだった。

fin.

管理人・田林から…

An even break」(ジャンルは違います)のあやさとさまから戴きました。

メルマガ風小話集になりました。何日も、何度もいただいた携帯メールでの小話です。その後PCメールにしっかりした版も戴きまして、改めて全部を乗せることに。素敵なお話ばかりをいただいてしまいました。
途中で青字になっているのは、携帯メール時に田林が送ったものです。何気に二〜三話ほどリンクしたりしたので、ご好意に甘えて、色違いにして一緒に掲載させていただきました

あやさとさま、ありがとうございました。
2004年4月13日〜28日に頂戴いたしました。

関連リンク

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