甘え上手には敵わない


              

いつも超然とし冷静なライルが俺に脚を開かれ、身体を穿たれ、こんなに悩ましい表情をするなんて。
長身だが彼の身体は薄い。色白の皮膚の下に薄く、それでもしっかりと鍛えられた筋肉が張り巡らされ
俺が身体を突くたびにそれらが収縮するのが見える。
琥珀色の瞳が熱を孕み、普段は固く結ばれた唇が悩ましげに開いて湿った吐息を吐く。

「好いぜ、」

ライルを見ていると止まれなくなる。行為に没頭し、普段は静かで変わることの無い表情を変えたくて、
激しくしてしまう。

「馬鹿、あ、ぁ、……っ……もう、ちょっと、…おとなし…っ」
「何だよ、色っぽい声で喘ぐのな……たまんねぇよ」
金色の細い髪の毛が乱れて額に張り付いているのを撫でて整えながら、俺は苦しげに喘ぐライルの唇に
幾度も幾度もくちづけた。
俺の両脇で力無く揺れる、ライルの長い両脚を更に割り拡げ一層内奥へと自身を押し込む。
不意にぎゅう、と締め付けられる。女性の身体では感じることのない、男性の肉体からの容赦無い反撃。
更に燃え上がり、その収縮から強引に己を引きずり出すとライルの顔が苦しげに歪む。
「なあ、もう、イきそ、……」
さすがに中に出すのはナシだ、と思っていた。ライルだって俺の中に出したことなどない。

なのに。

「あ……」
突如、動きを止めた俺と体内の感覚にライルは苦しげに閉じていた目を見開いた。
「…お前、っ…!」
眉間に皺を寄せ両腕で俺を引き剥がそうと真っ赤になって藻掻くライルがまた、俺の肉欲をそそる。
「ごめん、あんまり好いから」
俺は離さなかった。ライルは体型こそ細いが弱くは無い。でもその両腕を捉えベッドに押しつけ、体重を
かけて抵抗を封じ込めた。
「離れろ!この早漏!」
「悪い、でもよ、初めてだったんだから許してくれよ」
「いいから抜け!」
「いや……気持ち好いからさ……」
腰を揺らすとそれに合わせてライルの目が切なげに俺を見上げる。
「可愛い、……」

男に挿れたのも初めてなら、抜かずの2ラウンド目というのも初めての体験だ。

「なぁ、分かる…?俺、また勃っちまった……あんたの中で。へへ、最高」
「最低だ、貴様というやつは」
心なしかライルの声が掠れている。
「文句言うなよ、声が嗄れるぜ?ほら、じゃあこっちも好くするから……」

俺は繋がったまま上体を起こすとライルの身体を見下ろした。随分消耗しているらしくライルはぐったりと
ベッドに身を預けたままだ。俺はその疲労し汗ばんだ身体を掌で撫で、平らな腹筋をくすぐり胸を撫でる。
乳首をころころと指で弄び、ライルが息を詰める様子を楽しんだ。
後ろの感覚に集中しているせいか、力の無いライルのペニスを手にとり片手に包み込み揉んでやる。
「あ、」
と薄く引き締まった唇が緩んだ。

「男だもんな、こっちも好いんだろ?」
手の中で次第に硬さを増してくるライルのペニスが愛おしい。しっかりと圧をかけ扱きながら、そっと腰を
動かし快楽に身を捩るライルの全身を視界におさめる。
「左の乳首の方が感度いいんだな」

固く隆起した小さな乳首を爪で抓るとうつろな目をして「は、ああっ」と掠れた声で啼くライルが愛おしい。
「なあ、どっちがいい?こっちを扱かれるのと、尻が気持ち好いのと」
「……」
「どっちもか、欲張りだ……」
「ちが、………あぁっ、バーガー、や、止め、……ああっ、あっ、あ」
彼の声に煽られ俺は夢中で腰を打ち付け、ペニスを扱く。
「くそっ、馬鹿、っ、」
ローションを足していないのに結合部がくちゅくちゅと音を立てる。きっと先刻中に放った精液が撹拌されて
いるのだ。
「いいじゃねえか、……もっと乱れて見せてくれよ」

 ほんの少し年長の、師団きってのトップエース。
 いつもクールに、その琥珀色の瞳で周囲を見渡して。
 けれども俺を見る目はいつもどこか優しい。

 その双眸が、俺を愛していると言っている。

 どうせそう言ったら、あんたは「自惚れるな」なんて言うんだろ。

 でも、俺には分かっているんだ。



「俺のこと、愛してるって言って」

「…っ、……!……」
時折歯を食いしばりながらライルは痩身を捩る。その肌に浮かぶ汗の玉を舐め取り、勃起したペニスの
硬く張った先端を指で揉む。ぬる、と濡れている。イかせたくなる。
はっはっと獣のように荒く息をつき開いた唇は言葉を発することを忘れたのだろうか。
筋ばった両腕が俺から逃れようともがき始めた。
「どうした?イきたい?」
「は、あ、あ、ぁ」
「いいぜ、思いっきり飛ばせよ」
「あ、あぁ、あ、……」
俺は極まりそうな体を一層突き上げ、そしてペニスをぐいぐいと扱いた。
「ああっ、ああ、あ」
いつになく大声で乱れるライルの暴れる両腕をまとめて片手に掴み敷布に押しつける。
「や、め、……ま、って……く……っう!」

熱い迸りが俺の胸にまで飛んだ。あとはライル自身の腹や胸に白い飛沫を残す。
ぴくん、ぴくんと手の中で震えながら萎えてゆくペニスが愛おしい。その痙攣に併せて俺と繋がっている
尻の穴も力強く収縮し、俺を責めるように締め上げる。

「へっ、……やーらしー、……」

未だ全身をひくつかせている無力なライルの体を俯せ、腰を掴み、引き上げ更に穿つ。
結合部が良く見えた。そこは俺に蹂躙され、充血しておりそのくせ白く泡だった粘液をまとい非常に淫らだ。

「言えよ」

聞きたかった。

「言えよ、俺を愛してるって言えよ」

これほどまでに俺に体を自由に弄ばせているなら、言ってくれたっていいじゃないか。


ライルの骨張った体に覆い被さり、背後から抱きしめ尚も抽送を続けていると、奴の頭がゆっくりと
こちらを見上げてきた。
「ったく、……、貴様、……」
肩で息をつき、喘ぎながら俺を見つめ唇を歪める。よろよろと右腕を上げた。
その手が鷲のように俺の襟首を捉える。

「……馬鹿、野郎、……」
俺に突かれるたびに表情を歪めながら、吐き捨てるように言ったライルの右手は俺をぐい、と引き下げた。

「貴様、みたいな奴、……」
ライルは苦しげに上体を起こし、俺に顔を寄せてきた。鼻と鼻が触れる。


「愛してる」

「ライル」
甘い愛の言葉を吐いたあと、ライルははっはっと苦しげに息をつき眉間に皺を寄せ目を閉じた。
「愛してる、フォムト」
それでもそう囁いた唇をそのまま俺の唇に重ね、「愛してる、愛してる」と幾度も譫言のように囁き続け、
空いた左手で俺の片手を掴むと己の股間へと導いた。
「もっと、……滅茶苦茶に……」
柔らかに萎えたペニスが愛おしい。
「ライル」
互いに舌を出し、絡め合う。「愛してる、ライル、」俺の性器は逆にライルの中で膨れ上がる。
「ああっ、フォムト、…!」
動きの激しくなった俺を必死に受け止めるライルの声が次第に大きくなる。
まるで獣の咆吼に似て、俺をますます奮い立たせる。
「やっぱこっち向いて」
あまり耐えられそうになかった。その瞬間は、愛しい男と向き合いたかった。
ライルから己を引き抜き、またこちらを向かせ両脚をぐっと持ち上げると、露わにされうっすらと口を
開いたままの秘所に猛りを突き入れる。

そのまま体重をかけ、長身の体を折り曲げるように抱きしめ、俺は無我夢中だ。
ライルも長い両腕を俺に絡みつける。しっかりと抱き合えばライルの汗の匂いが鼻腔を満たし、俺は
鼻先を奴の耳元に埋め恋人の匂いを存分に吸いこんだ。

「俺、また、……出る…っ」
そう言いながら俺は既に放っていた。愛する男の体内に種を存分に撒いた、そんな気になった。

「あっ、………」
ライルの全身がびくんと跳ね、そして脱力しやがて両腕の戒めも離れていく。
ふう、とようやく責め苦から解放されほっとしたような表情を浮かべるライルを眺める。
その目尻に僅かに涙の跡を見つけ、胸の奥が締め付けられるような感覚に身震いした。

「離れたくねぇな、……好きだよ」
「……さっさと、……はなれ…」
目を閉じたままの案の定な言いぐさだが、ひどく嗄れたライルの声に驚いた。
「おい、大丈夫かよ、その声……」
「、さま、のせいで…っ」

「そっか、大声で俺のこと愛してる愛してるって連呼してたもんなぁ?へへ、すっげぇ可愛かったぜ」
「!!!」
おそらく、普段のライルなら容赦なく俺を蹴り飛ばしていたことだろう。
しかし腰が抜けたのか、手足に力は無くただ琥珀色の瞳が恨めしげに俺を睨み付けているだけで
少しばかり気の毒ではあるものの、日頃の仕打ちを思えばこれくらいの仕返しもいいだろうと思う。
不機嫌そうな頬に口づけ、「ほら、後始末しよう。腹ん中たぷたぷだろ?」と、再び両脚をひらく。
「……ほんとに腰抜けた?」
むっつりとしたまま頷くライルの体に指を差し込み、開く。ん、と僅かに腹に力を入れると、こぽ、と俺が
さんざん射精した残滓が零れ落ちてきた。充血した肌を伝う白い粘液を拭ってやる。
あまりに無防備なその姿に欲情しそうになるのを俺は必死に耐えた。
しかも俺が処理するたびに「ん、」だの「あ…」だのと掠れた声で喘がれ理性を保てない。
成る程いつもライルが俺にしつこくするのも当然か。

「いったい、いつまで指を……」
すっかり力を無くしているくせに、口調だけは相変わらずだ。
「待てよ、もう少し掻き出そうぜ」
そう言い、俺が指をくの字に曲げた瞬間、「はぁっ」とライルが妙な声を上げた。
ペニスもぴくん、と反応し僅かながら頭をもたげる。
「え?」
「そ、そこ、……、いじる、な……っ…」
「ここ?」
指の腹が当たったところを業と擦る。「あああっ」しわがれ声でライルが喘ぐ。
「何、ここが好いの?」

「よ、よく、な、…っああ、ああっ」
「好いんだ」
「やめろっ」

「いいじゃねぇか、……ライル、こんなとこで感じて女の子みたいだな?」
「…っ…」
「俺の前でだけ、女になれよ」
琥珀色の瞳がどこか緩み、切なげに俺を見上げてきた。
「全部見せて」
「あ……あぁ……ん……っ…」
体が引き攣れた瞬間、いきなりペニスから勢いよく透明な液体が飛び出してきた。当然、俺にかかる。
ライルの秘所が俺の指を断続的に締め付けた。
「おい、……まるっきり女じゃねぇか」
大きな快楽の山を越した後もちいさく体のあちらこちらを震わせて、更に俺が指を蠢かせるたびに
柔らかく垂れたペニスの先からぴゅ、ぴゅ、と僅かずつだが液体が噴き出す。
「フォ……ム……ん、…あ……」
「可愛い」
もうライルは怒ることも、俺を睨み付けることもなかった。
ひたすら全身を震わせて、間断なく訪れる絶頂の波に呑まれどうしようも出来ずただ泣いている。
ライルが噴き出した潮のような液体を胸や腹に引っかけたまま、俺は震えるライルの体を抱き寄せた。
「気持ちいいのか?」
頼りなげに俺の肩にすがるライルの両腕すらがくがくと震えている。
「……、……」
そんな声も出ないような状況で、健気にも頷いてくれた。
「俺たちグチャグチャだな」
きっとライルが正気に戻ったら、この状況に激怒するだろうなと思いながら俺はありとあらゆる体液に
まみれた体を抱きしめる。ひとときの肉欲に燃えた身体はまだ興奮のただ中にあり熱い。

「フォムト」
小さく俺の名を呼び、寄せてくる唇に応える。
「愛してる……」
すらりと長い両腕が俺の背にまわった。






翌日、俺は「今日は休みで良かった。起き上がれない」と不機嫌なライルを置いて出務した。
ああ見えて戦闘機乗りは頑健だ、ライルも今日一日寝てれば元気になるだろうと思って定刻に
執務を終えライルの家に帰宅してみると部屋は真っ暗だった。
「おい、ライル?いないのか?」

寝室に行くと相変わらずベッドに寝ているライルがいる。
「ったくよぉ、俺は仕事してきたってのに暢気なもんだな。ずっと寝てたのか?」

 昨晩ぐしゃぐしゃにした寝具は全部取り替え、ランドリーに放り込み、汚れたライルの体も全身
綺麗に拭き清めてやった。
まあ、俺が悪いといえば悪いので当然かもしれないがそれにしても何もしなさすぎだろう。
洗濯し、乾燥まで終わっているランドリーの中の寝具はそのままだ。しわくちゃになっている。

「おい、ライル」
ベッドの上の塊を揺さぶり、「今、何時だと思ってるんだよ」と声をかけた。
「う…ん……」
元から肉の無い顔が更にげっそりやつれているように見えるのは無精髭のせいだろうか。
「朝…?」
「いや、夜。……調子悪いのか?大丈夫?」
「大丈夫なわけ、無いだろう。身体中が痛い」
「それって、俺のせい?」
ムッツリ顔で頷いてきた。そりゃ、当然だろうな。
「ごめん、でもよ、……すごく……うん、すごく好かったから……なぁ?」


それでもご機嫌斜めなライルに俺は食事をこしらえ、その合間に洗濯をやり直し、そういえばと
昨晩脱ぎ散らかしたままのライルの軍服を手入れしてやった。
聞けば今日一日、何も食べられなかったと言う。俺はと言えば朝昼晩とガッツリ食べてまだ少し
物足りないくらいだ、なんて迂闊には言えないな。

そんなこんなで、今晩は大人しく休もう、とベッドに入った。
「なあ、怒ってる?」
「当然だろう」
「許してくれよ」
「……」



Next→