トキヤは次期族長補佐ではあるが、ハヤトの仕事が宰相経由で回される時もあるし、ごくたまに族長から直接仕事を与えられることもある。その日の仕事は族長からの仕事だった。
「妖魔絡みだっけ? 危なくないのかい?」
龍神族の小さな街の外れ、トキヤの縄張りからは離れているが虎神族と熊神族の領地境にほど近い山に、トキヤとレンは向かっていた。駆龍に乗ってはいたが、進みは遅くはない。
レンからの疑問に、トキヤは「ええ」と答える。
「虎神族では主に洞穴の中などに現れたでしょう? 龍神ではたまに集団で狩ることもありますが、私の場合はひとりで行くことが多いですね」
「龍神族に狩人が少ないとは思わないけど……」
怠慢では? と思ったのが声に滲んだ。
妖魔は陰の気が固まって自然にできるものと、術などにより人為的・神為的にできるものとに分かれる。また、妖は実体がなく、魔は実体がある。
自然にできる妖は小さな塊があちらこちらに湧いて出る煙のようなものだ。対処としては根本を絶やすことが第一。できなければ封印してしまうのが第二。
絶やすことができないものは力が強いから、何人かが集団がかりで討伐するか、封印することが多い。
ここ最近は強い力を持つような妖魔の出現はあまり例がないが、年上の龍神などによれば、それでもトキヤが幼い頃よりは強くなってはいるらしい。原因は不明だ。
トキヤが背後でくすりと笑む。
「何人かを編成するより、私ひとりのほうが効率が良いという場合もありますから。これでも私は狩人としても優秀なんですよ。それに、妖魔との相性もありますし……」
西の山に妖魔が出現するようになった、という報告を受け、真っ先に向かうのが調査隊だ。彼らが妖魔の属性や特徴を見抜き、街へ報告を持ち帰る。
高度な【眼】を持っていなければ見破れないし、属性などの判定をする判断力や場数も必要となるため、調査隊は族長直属の部隊の中でも一目置かれていた。調査隊に含まれているのは必ずしも龍神族だけではなく、鹿族や蛇族、亀族などの眷属からも登用があった。
このあたりは、場合によって猫族や獅子族からも登用している虎族と同じだ。なるほど、とレンは頷く。
「トキヤが有利属性を持ってるってこと?」
「そうなりますね。仮に不利でも、無属性も持っていますから」
「ああ……」
決闘の時に使った第三の術のことか。それなら納得できる。あの術は発動も速かったし、学校の頃から磨き上げたというだけのことはある。
とはいえ二匹の虎を持ち上げたりぶん回したりするだけではないのか、という気持ちは拭えない。
「一応、信用するけど」
「武器も持ってきていますし……あなたもいますから」
「オレ?」
「勝手に着いてきたということは、一緒に戦ってくれる気があるということでしょう? 剣も提げているようですし」
「……怒ってるかい?」
こっそりと支度を調え、トキヤが出立してから速く後を追った。駆龍のほうが脚は速いが、覚えのあるレンの匂いで速度を落としてくれたし、トキヤも後から走ってくるレンの足音を聞き分けたから止まってくれた。
現在はトキヤの駆龍に二人乗りしている。レンの後ろからトキヤが駆龍の手綱を引いている形だ。
トキヤが討伐に行くと話があり、レンがついて行くのを決めたのはすぐだった。翔と留守番をしておいたほうが良かったのかもしれないし、トキヤの技量を信じていないわけではなかったが、一緒にいたかった。
背後を耳で窺うと、「ふ、っ」と小さな笑い声に似た息が漏れた。
「いいえ、嬉しかったです。……が、まず自分の身を第一に考えて動いてくださいね。咄嗟で庇いきれるかわかりませんから」
ホッとするが、トキヤの言葉には口を尖らせる。
「素早さなら虎神の中でも負けないさ」
過去に大怪我を負ったこともあるから大口は叩けない。けれどあれはあれで計算だったのだと言い張りたい。
「妖魔と戦ったことは?」
「駆り出されて、何度か。速いヤツと、鈍いけど力が強いヤツは遭遇したことがあるよ」
あれも、集団で退治していたはずだが、途中から自分だけになったこともあったな、と記憶が甦る。言えばトキヤが何をするかわからないので、今のところは黙っておく。
どうにもトキヤは自分に対して過保護な部分がある、とまだ浅い付き合いではあるが、レンは自覚していた。彼から離れる気は毛頭ないのだが、レンという個人に対し極端なところはもう少し控えたほうがいいと思う。などと自分を棚に上げて思うのだった。
トキヤはレンの説明でどんな妖魔なのか理解したらしく、「なるほど」と呟いて頷いたらしかった。
「今回は、どんな妖魔なのかわかっているのかい?」
「ええ。すばしっこくて、声を真似るのだそうです」
「声を?」
「それもあって、私ひとりになった……という部分もありますね」
集団でいる時に、味方の声を真似られれば厄介だ、とはすぐわかる。
誤って同士討ちもしかねず、それでなくとも混乱して戦闘にはならないだろう。
「……着きましたね。ここで小休憩しましょう」
山に近い、小さな街に着くと、ひとまず腹ごしらえと決めて食堂を目指す。この街では近くを流れる川で獲れる魚や山菜、イノシシを使った料理が美味しいらしい。レンのために肉は多め、トキヤは魚と山菜を多めに食べるらしかった。
「……ついてこないほうが良かったかな……」
街に着く前の話を引きずり、弱気に呟けば、トキヤは眼を細めて優しく微笑む。
「ふ、……大丈夫ですよ。ですが、おまじないをしておきましょうか」
「おまじない?」
「ええ。間違えないおまじないです。気休め程度ですが、ないよりはマシでしょう」
レンの手を取ると、何かを呟いてから左手の小指に口付ける。触れられた部分が少し熱くなったが、傍目には何の変化もない。
「間違えそうになったら教えてくれますよ。さ、食べましょうか」
山菜と魚を香草で蒸したもの、塩と香辛料だけで味付けしたイノシシの骨付き肉、野菜やキノコたっぷりのスープなど、香りの良さで食欲を刺激される。
なお、討伐道中前後の食事は経費に入るからと、ここの代金はトキヤ持ちになった。
予定では、早めの昼食を食べた後に街を出て、十四時前には現地に到着し、夕暮れになる前に街へ戻る算段だ。
「それにしても、よく発見したね」
「あの場所は昔から陰の気が溜まりやすいので、定期的に見回りに来ているそうです」
「それが功を奏したわけか。龍神族のそういうところ、すごいと思うよ」
「……虎神族は違うのですか?」
トキヤが不思議そうに首を傾げる。
そういえば、お互い自分の一族のやり方しかわからないのだ。
「虎神だと、基本的に各街や村に自警団みたいなのがいて……妖魔が出たら、近隣の街や村が対処してる。中央に来るのは、彼らだけじゃ対処しきれない案件だね。見回りとかは……どうだろう。各地によるんじゃないかな。少なくとも、それを中央が把握してるってことはないと思う」
中央の対応を待つ前に対処を終えてしまえるなら、それはそれでいい。できなかった時は、被害が広がってしまうことも考えられる。
龍神族が情報をひとまず中央へ集めてしまうのは、伝達手段の疾さが挙げられるだろう。伝達用の龍も騎乗用の駆龍や飛龍も、疾風と呼ばれる鳥神族と双璧だと言われる。
「中央が把握していないのは問題ですが……今まで大きな問題が起きていないなら、それもアリということでしょうか」
「そういうことじゃないかな……」
肩を竦めると、じっとレンを見つめていたトキヤが、ふと微笑む。
「……他のお肉も頼んでもいいですよ」
反射的に自分の頬に手を当てる。
「……顔に出てた?」
「いえ、最後のお肉を食べた時、食べ足りなさそうだったので」
「恥ずかしいな……こっちの、パイ包みっていうのを食べたい」
虎神族では肉は焼くか炒めるか、味付けは塩胡椒がベースで各自好きなように味付けをする、というのが基本だ。だから基本的には塩胡椒で焼いた肉が好きだが、それ以外の調理法の肉料理も興味がある。
煮込んだり蒸したりする料理はトキヤの家でもよく食べるが、外でしか食べないようなメニューは純粋に好奇心が刺激される。
トキヤはそれを知っているのかどうかはわからないが、レンが興味を示したものはなんでも与えてくれようとするところがあった。食事くらいなら構わないと思うが、その他のことはさすがにどうかと思う。服、装身具、沓、履、帯、家具。龍神族ではそれがベーシックなのかと思って翔や音也、ハヤトに聞いてみたが、どうもそうではなさそうだ。
ハーフアップにした髪を括った細い組紐も、トキヤが贈ってくれたものだ。
翔や音也に至っては、「トキヤが他人にそんなことをするなんて」と驚きを禁じ得なかった様子。
互いに離れがたいと思っていることも含めて、なんだか本当にトクベツみたいだなぁと思ってしまう。もっとも、自分が彼と離れたくないと思うのが、彼と同じなのかはわからない、とも思ってしまう面倒くささは持ち合わせていた。
イノシシ一頭食べたのではないかと思われるほどたくさん食べたレンに、食堂の女将さんや料理長である旦那さんはとても驚いていたが「夜もまた食べに来るよ」と言うと、最早笑い出してしまった。
「とっておきのお肉を用意しておくよ」
と笑って見送ってくれたふたりに手を振り、駆龍に乗って間近に迫った山へ急ぐ。
駆龍は下等龍の一種を龍神族が飼い慣らした種だ。だから主人と定めた者の言うことはよく聞くし、喋れなくても感情表現は行える。トキヤの駆龍は大人しいが頭の良い駆龍だった。
山道に入ると、トキヤが手綱を操らなくても目的のほうへと進んでくれる。そうして、これ以上は駆龍に乗っているほうが危ないかと思われるところで止まった。
「いつも通り、危険を察知したら、おまえも逃げるんですよ。それで、もし余裕があれば街へ戻り、助けを呼ぶんです。いいですね?」
クゥ、と小さく鳴いた駆龍を撫でると、降りてから彼用の食事を与える。駆龍の食事の好みはさまざまだが、トキヤの駆龍の好物は果物だった。林檎と梨と柿を与えると、駆龍はその場で伏せる姿勢を取った。
「では、行きましょうか」
「ん」
今日のレンの出で立ちは、トキヤが決闘をした時の衣装によく似ている。動きやすさ重視の衣服だ。対してトキヤは、袖こそ短めだが、刺繍のなされた上衣も裳裙も蔽膝も着けていた。ようは出勤する時と同じ格好だ。そんな格好で立ち回れるのかと思ったが「袴は邪魔なので脚絆を巻いてますから大丈夫ですよ」と言われたが、正直何が大丈夫なのかレンにはわからない。どのみち袴の上に纏った裳裙があるではないか。
略装なのはおそらく公務だからなのだと思うが、そんなに堅苦しく考えなくても、どうせひとりで行くつもりだったのだから。思ってしまうのは、レンが龍神族ではないからなのだろうか。
「……暗くなってきましたね」
気を辿るのは、レンもできる。半分くらいは直感もあるが、今までに外れたことはなかった。トキヤと進み、徐々に周囲が陰鬱になってくるのに気が付く。
「陰の気が澱んでいるのは、オレでもわかるな」
陽の光を厭うように生い茂る木々や草たち。鳥の声も遠い、鳥だけでなく、生き物自体の気配が遠かった。足許から冷気が立ち上っている錯覚すらある。
「奥に行くほど濃い。街や村に被害が出る前で良かった」
もう少し濃く、強く固まれば、強力な妖魔が出現してもおかしくはない。そうなっていたら、先ほどの街に被害が出たかもしれない。レンは溜息を吐き、剣の柄に手をかけた。
ここからは無言で行く。
街から山に着くまでの間に打ち合わせた通り、レンが妖魔の気を引いて誘き寄せ、トキヤが叩く。陰である妖魔は陽に惹かれる習性があるが、レンは陽の気がトキヤよりは強いからだ。
タダ飯を食べてばかりいるわけではないところを多少は見せたかったのと、トキヤが戦うところを見たかったところと。半々の理由でついてきた。足手まといになるわけにはいかない。
「……っ、……」
足下から三日月に斬り上げ、そのまま振り下ろす。音もなく影が増え、少しだけ陰鬱が晴れる。
背後ではトキヤが太刀を横薙ぎに振るっていた。重いものが断絶する音。
細かい雑魚が多い。手数が増えて面倒だ。まとめて片付けられればラクなのに。
「…………」
ひとりでもできなくはない。虎神にいる時だって、孤立した時はひとりで何とかしてきた。妖魔自体は虎神にいる妖魔も目の前にいる妖魔も大差ない、はずだ。それならできる。
一の術と二の術。
眉間に力を溜めるように数秒集中し、手のひらを妖魔たちに向け、放つ。
「っ?!」
驚いたのは妖魔だけではなく、トキヤもだ。事前に打ち合わせていないことだったので、驚かしてしまった。けれど喋らないでいる以上、仕方がなかったと言い訳をしたい。
炎を風で増幅させて勢いと力を増させる。そうすることでただ火の術を使うより、ずっと威力が上がったし、単体より多くの敵を殲滅するのに向いていた。
驚いている暇はない。
今の術に惹かれたのか、奥深いところから、何かが来る気配がある。
「っ、ぅ……」
激しい、黒い旋風。飲み込まれるように、体中に纏わり付く嫌な気配。周囲が暗くなっていくのは、陰の気だけのせいか。
まずい。
ぶわ、と闇が広がる。
「ぅわ……ッ」
質量のある闇にのしかかられるような錯覚。トキヤと少しばかり距離が空いていたせいか、彼の姿も見えない。
「……、……」
呼ばないようにするというのは、こんな時に不便だ。今できるのは、この妖魔の闇から抜け出すことを考えること。剣で周囲を払っても、少しも闇が晴れやしない。
舌打ちのひとつもしたくなる。
「……、……?」
不意に、何か聞こえた気がした。
なんだろう。
何かを呼んでいるようにも、助けを求めているようにも聞こえる。
「…………、ン……! ……レン……!」
「?! トキヤ……!?」
何故、と疑問が先に来る。
けれど声はたしかにトキヤ――のように聞こえる。
「レン? そこにいるのですか?」
「……いるよ」
剣の柄には手をかけたまま、声のするほうを向く。ちりりとした痛み。
声は変わらず、闇の中からする。
「ここは暗くて……あなたがよく見えない」
「そう、だね」
す、と意識を集中させる。ぐっと剣の柄を握りしめた。左の小指が痺れるような痛みを寄越す。
「じゃあ、明るくしてみようか」
「え? そんなことが……」
「やってみなきゃわからない、ってね!」
手のひらから紅の炎を生じさせる――声のほうへ。
「っ、ああああ?!」
二階建ての建物を丸ごと包み込めるような炎で、声を焼き尽くす激しさの業火を叩き込んだ。
これでダメならどうすればいいんだ。
ちらりと脳裏を掠めるが、振り払うように術に集中した。
「……っは、……はー……」
断末魔のような声が止むと、レンはその場にへたり込んだ。出力の大きい術を長い時間放ち続けたなど、どれくらいぶりだろう。
「……あ」
真っ暗な世界が、徐々に晴れていく。少しずつ少しずつ、色を取り戻していくように、あるいは世界が黒を取り込むように、世界の色が戻ってきた。
「よかったぁ……」
これでダメだったら何をしてもダメだったのではないか。そんな気すら起きた。
「レン?」
かけられた声に、咄嗟に跳ね起きて刀の柄に手を置く。小指が痛い。
「よかった。あなたも出られたの」
「…………」
言葉は最後まで言わせず、ひと飛びに間合いを詰めると胴を薙ぎ払う。空気に溶けるように、トキヤの姿をした何かは消えた。
姿まで模倣されると、さすがに胸糞が悪い。誰が好んで好きな相手を斬りたいものか。
「……さすがに山ひとつ焼けるほどの術力は持ってないんだよね……」
トキヤとなら、妙手を考えることもできるだろうか。
「あ。……探さないと」
妖魔にどれほど離されたのかわからない。かといって大声を上げて探すのも馬鹿馬鹿しいし、妖魔の的になりかねない。さすがにそれはトキヤも避けたいだろう。
だとするなら、術を使うしかないが。
「……失せ物探しとかそういうの、あんまり得意じゃないんだけどな……」
龍神族の花街ではたまにそういったことも請け負ったりはした。物なら滅多に物自身のの意志で動くことはないだろうが、相手はトキヤだ。何か考えがあって移動することはありえる。
ヘタに探すより、待ったほうがいいだろうか。元々トキヤひとりの仕事ではあるのだ。
「でも……」
近くにいるのに、何もできないのは嫌だ。それに、彼の手助けをしたくて着いてきたのだと思い出す。
「……気配を探れるかな……」
虎の耳や鼻は敏感に気配を察知する。最大限に集中してみたら、何かわかるのではないか。
思いつきではあるが、その場に座り込むと呼吸を少しずつ深め、目を閉じてあたりの気配を探る。
風の音。木々や葉の擦れる音。
軽い足音は、聞き覚えがある。おそらくウサギの足音。
それらとは別に、もっと遠くから不規則な軽い音が聞こえる。知らなければ小さな太鼓でも叩いているような音だ。鳴っては止まり、止まっては鳴る。それから何か鋭いものが風を切る音。
「……!」
いた、と思ったと同時に、音のほうへ駆けていた。
山や森の中であろうと、そこにあるものたちは決してレンの邪魔にはならない。駆ける足を止めることなく、緩めることもなく、トキヤを感じたほうへと走り抜ける。
無事でいるのはわかっていても、無事の程度が問題だ。
「く……ッ!」
駆け抜けた先には、少し開けた場所があった。
膝をついている男と、刀を突きつけているのはトキヤだ。
「トキヤ……!」
傍に寄ろうとするが、いま間合いに入るのは躊躇われた。少し離れた位置から見守る。
それで気付いたが、トキヤが刃を突きつけている相手は、レンと同じ顔や姿をしていた。
「……私のかわいいレンは、ただ表面を写し取れば済むわけではないんです」
ノーモーションで間合いを詰めると、レンの姿をした何か――おそらくは妖魔――の首を斬り落とす。
ぼそりとした声は虎の耳には聞こえたが、あえて無反応にしておく。
塵のように消えた妖魔を顧みることなく、トキヤがレンを振り返る。どこかホッとしたような表情をしていた。
「レン。無事だったんですね。よかった」
「まあなんとかね。トキヤのおまじないが効いたよ」
「……似ていましたか」
「見た目と声はね。でも、全然違った」
トキヤがレンへ話しかける時の話し方。雰囲気。そういったものまでは模倣できないものらしい。逆に言えば、それらが伴っていれば、完全におまじないがなければわからなかったかもしれない。
「さっきトキヤが消したのだって、見た目と声はオレに似てただろう?」
「ええ……あれで三体目です。だから余計に腹が立ちましたが」
それであんなに殺気立っていたのか、と納得する。どうにも彼はレンへの愛情が深すぎて怖いところがある。
「過激だなあ……。それで、今回の任務は終了かい?」
「そうですね。まさか何体もいるとは思いませんでしたが……充分でしょう。気配もありませんし。結果は偵察の方が見極めてくれるでしょうし、細かいのを滅するだけなら、討伐隊が編成されるので任せます」
そこは私の仕事ではありません、と肩を竦める。
「なるほど? じゃあ、駆龍のところに戻るかい?」
「ええ。街に戻って食事にしましょう。ゆっくりするなら、一泊しても構いませんが」
トキヤの選択肢に、少しの間考える。
トキヤと一緒に出かける機会はそう多くはない。だいたいは街中だから、街の外でゆっくりできる機会があるなら、逃す手はないのではないか。
「……そうだね。一泊できるなら、したいかも。他の街の朝ご飯というのも、魅力的だ」
「では、戻ったら宿を取りましょう。同僚が勧めてくれた宿も見て、良さそうならそこにしましょうか」
「そうだね。知ってる龍のオススメなら、そんなにハズレはないだろうし」
おとなしく待っていた駆龍に跨がると、彼に先ほどの街へ戻るように伝える。キュ、と一声短く鳴いた駆龍は、森の中ではゆっくりと、森を出てからはそれなりのスピードで走り出した。