「イッチー、ライブ以外でもこんなカワイイ顔ができるようになったんだね」
これ、と先日撮影されたバレンタインデイ・バンケットのビジュアルを見せられる。
レンが示したのは、照れた表情をしたカットだ。
「HAYATOの頃には、そういうものを求められていたこともありましたから」
「得意を増やしたわけじゃなく、隠し持っていたものを見せてくれるようになった……ってことかい?」
レンの言葉に、ふと笑む。
「あなたも散々私にかわいいかわいいと言ってくれていましたからね。かわいいでしょう? もっと言ってくれていいんですよ?」
「……このイッチーはかわいいけど……今のおまえはかわいくないね……」
「かわいいと言ったりかわいくないと言ったり……大忙しですね」
くくく、と喉の奥で笑うと、マグカップに淹れたコーヒーを渡す。あつあつのコーヒーを受け取ったレンは、そのまま窓の外へ視線を移した。
ひらり、はらりと舞うのは花弁ではなく、雪。
「……いつだったかも、あなたの誕生日が大雪だったことがありましたね」
「……おじいちゃん、その話は前にも聞いたよ」
「恋人を捕まえておじいちゃん呼ばわりとはいい度胸ですね……?」
「恋人に対する顔じゃないよ!?」
「誰のせいですか、……まったく」
ふん、と鼻を鳴らすとマグに口を付ける。熱いが、飲めないほどではない。ほどよい熱さになっていると思う。ちらりとレンを見れば、目を細めてコーヒーをすするところだった。雪が降る様子と合わさって、絵画のようだなと思う。
自分の目がいくぶんか欲目に寄っていることは承知しているが、よく肌を見せる撮影があるこの人が、肌を見せることを躊躇う季節に産まれたのは、かえってお似合いではないか。いつか見せてもらった幼い頃の彼の写真は、どんな控えめな言葉を選んでも天使のようだった。無事に成長できたことを彼の執事に感謝しなければならない。いつか必ず御礼をしなければ、と心に決めている。
「……窓辺は冷えます。それに、いつまでも立ってないで、座ったらどうですか?」
「うん、……もう少し……」
「…………都内で雪が降り、積もるのは珍しいですが」
マグをローテーブルに置くと、大股でレンに近付き、腕を取る。
「雪にあなたを取られるのは面白くありません」
「……雪にヤキモチかい?」
「そうですが」
「かわいいね、イッチー」
「なんとでも」
くすくすと笑うレンの腕を引っ張り、ソファに座らせる。トキヤもその隣に座った。
「ふふ、……このままベッドルームに連れ込まれるかと思ったよ」
「連れ込まれたかったですか? ですが、コーヒーを飲んでからですね」
せっかく淹れましたし、熱いうちにゆっくり飲みましょう? と微笑んでから「ああ、」と言葉を付け足す。
「飲み終われば寝室に行くことは確定していますから、どんな風に抱かれたいか考えておいてくださいね」
「は!?」
コーヒーを噴き出しかけたレンがものすごい顔でトキヤを見てくる。
「誕生日でしょう? あなたの喜ぶことがしたいんです。なので……教えてくれますよね、お兄ちゃん?」
「おまえ……卑怯だね……」
「半年の差でもお兄ちゃんでいたいのはあなたのほうでしょう。ワガママを聞きますよといっているのですから、ワガママを言ってください」
「…………」
「飲み終わるまでに考えておいてくださいね」
親の敵でも見るかのようにマグの底を難しい顔で睨むレンに、笑ってしまいそうになるがそこは堪えておく。
さてこの人は本当に答えてくれるだろうか。
答えてくれなくても、レンが好きそうなことをするつもりはあるのだけれど。
今は素知らぬ顔をして、マグに口を付けるのだった。
――20分後。
「リクエストを復唱しますね。『いつも優しくしてくれるから、たまには激しくされたい』」
「言わなくていい!!!!!!!!」
「今さら照れなくてもいいでしょう? 今はあなたのほうがずっとカワイイですよ、レン」