「なんですかこの醜い腹は」
凍てつく視線は彼、一ノ瀬トキヤの先輩である寿嶺二に注がれていた。より正確を期すなら嶺二の腹に、である。
「なんですか、って言われてもー……?」
「寿さん、あなた本当に大学生の役がやれると思っているんですか? この腹で?」
「ギックー! トッキー鋭い! そして痛い! お腹掴まないで!」
「掴めるほどあるんですから誰でもわかるでしょう!」
「ランランもミューちゃんも、いつも気が付くアイアイもそんなこと言わなかったもーん!」
「美風さんとは最近顔を合わせる機会がなかったと聞いてますよ?」
「うっ……」
こんなふたりのやりとりを近くで見ているのはトキヤ同様、嶺二の後輩である一十木音也と、たまたまトキヤと約束があって待ち合わせていた神宮寺レンだ。
「トキヤとれいちゃんって、どっちが先輩なのか時々わからないよね」
「イッチーの芸歴を考えれば、同じくらいじゃないかな?」
「芸歴って……あ、そうか」
トキヤはトキヤとして活動するより以前にデビューしていたことを思い出す。子役の時から考えれば、ST☆RISHの中ではレンに次いで長いのではないか。レンが長いのは赤ん坊の頃からをカウントすればの話だが。
「いいですか、あなたはレンと一緒に出演するんですよ、大学生として。レンはそもそも大学生に歳が近いということもありますが、肌や髪のツヤなど持って生まれた天性の資質もあって一般人の誰より美しい。そもそもあんな美形の大学生はそのへんを歩いていませんが、そこは目を瞑ります、ドラマが成り立ちませんから」
「……トキヤ、めんどくさいモードに入っちゃったね?」
「さっきからブッキーがこっちをちらちら見ているね」
「髪や肌だけならともかく、体型や骨格すら神に愛されているといっても過言ではないほどスタイルか良い男と並んだ時、あなたはそんな醜い体型を晒して許されると思っているんですか」
「トッキーさっきから酷すぎじゃない……?」
「酷いと思うならその腹をなんとかしなさい。美風さんに連絡しましたから、すぐにトレーニングメニューが送られてきますよ」
「えええー?!」
「仲間想いの仲間を持って、幸せですね?」
にこりと笑むトキヤを横から見ていた音也が「俺知ってる、あれ悪魔の笑顔ってやつだ……」と呟く。なおこの後で彼も多少(この「多少」はトキヤの感覚だということを添えておく)説教を食らう羽目になる。
「なんだかんだ、イッチーはブッキーのこともイッキのことも大好きってことだね」
この場で説教も何もなかったのはレンだけだった。