「今日は2月22日でにゃんにゃんにゃん、猫の日だっていうだろう?」
「そうですね」
「オレもイッチーもどちらかといえば猫派だし、猫のグッズとかプレゼントするのもいいかなって思ったんだ。ほら、先週はオレのバースディでプレゼントもらっただろう? そのお返しの意味を兼ねてさ」
「ええ」
「そう思ったのが昨日の夜で、午前中にプレゼントを買いに行こうって思ったんだ」
「そうですか。それで?」
「だから、別にコレはオレの意志に添ってるわけじゃなくて! なんでこうなったのかオレにだってわからないんだよ!」
トキヤの視線はずっと、レンの頭、正確には頭についている、普通の人間であればつかないモノに注がれていた。
平たくいえば、猫耳である。
意に添っているわけではないというが、生えた理由はそうなのだとしても、今は生やしている当人の意志に添っているようにトキヤには見えた。耳がぱたぱたと動くからだ。
「……つまり、今のあなたは耳が4つもある状態であるということですね」
「そうだけど、そこかい?」
がくりと肩を落としたレンに、トキヤは肩を竦める。
「他に何があるっていうんですか。生えた原因だってわからないんでしょう?」
「うん……」
「拾い食いしたわけでも、妙なモノを食べたわけでもないのでしょう?」
「まあ……そうだけど」
「心当たりがないなら、せいぜい耳が取れるように模索するしか選択肢はありませんよ。引っ張って取れるものでもないでしょうし……原因がわかれば多少は救いになるかもしれませんが」
「原因ねえ……」
うーん、とレンは首を捻る。
まあ無理だろうなとトキヤは冷静に、しかしまったく平静にではなく考えていた。
身体的に外傷を負った、というのはまずひとつの考えだろう。だがトキヤが見る範囲でレンが外傷を損なったようには見えない。痣や切り傷、擦り傷なども含めてそんなことはまったくなかった。
何故言い切れるのかといえば、互いに裸だからなのだが。
疑問はさておきすることはした後で、いわゆるピロートークの部類に入るのだろうが、これがまったく甘くならないのはひとえにレンの猫耳のせいだ。
髪の色より明るく、長めの毛に形のよいピンと立った大きめの耳。触れてみたが、やわらかく毛はふかふかしていて髪とはまた違った、けれど良い手触りだった。
触っているうちにエスカレートしてこうなったわけだが(その点に関してはまったく反省するつもりはない)。
はぁ、とトキヤは溜息を吐く。
どうにも理性だけで解決できる問題ではない気がする。
「……猫の日だけに、今日だけなのかもしれませんし……明日もまだ残っているようでしたら、解決方法の相談に行かねばなりませんね」
「解決方法の相談……って、誰に?」
「早乙女さんですよ」
「ボス? なんでまた……」
「学園時代のことを忘れたんですか。早乙女さんこそ非現実的の塊のようなものでしょう。なにかわかるかもしれません」
「……おまえ、ときどきひどいよね」
「何か言いましたか?」
「頼もしい恋人を持って良かったなって思ったところ」
「そうですか。……ところで」
「ん?」
「しっぽはないんですか?」
「…………………」
ばしん、と乾いた小気味の良い音が寝室に響いた。