呼吸が整うと繋がりを解く。その後すぐに離れるだろうというトキヤの予想通り、レンはそっとトキヤから離れる。
もう少し、事後の余韻というものがあっても良いのではないかと思うが、レンの方はそうでもないのかもしれない。
(だとしたら、少々惜しいですね)
無理をさせた後だし、労わりたい気持ちもあれば、愛しいと思う気持ちも当然ある。そういった気持ちが綯い交ぜになり、こういう時くらいは甘やかしたり他愛のない触れ合いをしたりしたいもの。それは意外かもしれないがトキヤも例外ではなかった。そそくさと離れる輩も多かろうが、それはトキヤの知ったことではない。
女性たちにもこんな素っ気無かったのだろうか。フェミニストなレンだから、少々考えづらい。だとすれば、トキヤだからか。
「……レン」
「なんだい?」
試しに名前を呼んでみたが、こちらを振り返ることはない。返事をしてくれただけマシだろうか。めげずにすぐ傍まで寄ると、背中をそっと抱きしめた。抵抗されなかったことにほっとする。
汗ばんだ肌。鼓動が少しだけ早いのは、行為の名残だろう。
「……どうしたの」
「理由が必要ですか?」
「……ますます、どうしたの」
言外に理由はないという返答がよほど驚いたのか、レンは腕の中でトキヤを振り返る。こめかみに口付けるとレンの蒼を見つめ返した。
「お互い素直ではないので……たまには、と」
「…………なるほど」
もぞもぞと腕の中で体を動かすと、こちらへ向き直ってくれる。思っていたより真摯な顔だ。
「じゃあ、そんなイッチーに免じてオレも」
そろりと伸びた腕が、トキヤの体に回された。お返しのように少し低い位置にある頭を抱きしめると、形の良い頭骨を確かめるように撫でた。さらさらとした長い髪が指に心地良い。
おとなしく撫でられているレンは、まるで借りてきた猫のよう。普段なら減らず口のひとつも寄越しそうなところなのに、されるがままになっている。
(……素直になってみたお蔭、でしょうか)
もちろん普段抱きしめさせてくれないというわけではない。その時とは違う満足感が、今はある。
「いつもこうなら嬉しいんですが」
「イッチーは意外と甘いのがお好みかい?」
「そうですね……ふたりきりの時くらいは、それくらいが良いかと」
「…………なんだ」
続いて何事か呟いていたようだが、もごもごとしていて聞き取れなかった。聞き返そうかと思ったが、ぎゅっと抱きついてくるレンが可愛かったので何も言えなくなった。