彼があまりにも嬉しげに笑うものだから、トキヤは少々不安になる。
そんな無防備な顔を、他の者たちにも晒しているのかと。そうして、トキヤの知らないところでトキヤ以外の人間を夢中にしているのではないかと(ファンの子たちはともかくとして、だ)。
そんな不安に駆られるのも、トキヤがレンに惚れているからに他ならない。あばたもえくぼとはよく言うが、レンの場合はどこを取っても美しく、マイナス要素が見当たらない――と本気で思っているくらいには盲目だ。だからレンに言わせると「余計な心配」をしてしまう。
けれどそれは、
(私がまんまと引っかかったのですから)
他の人間、どこの馬の骨とも知れぬ者が引っかかっても不思議ではないではないか。女性たちを魅了するのと同様、自分のような男が引っかからないなんて保障はどこにもない。
「本当にイッチーは心配性だねえ」
溜息交じりにそんなことを言う。この声音は若干の呆れを含んでいるようだとトキヤは読み取った。
「第三者の目から見ても、貴方は充分に魅力的だと思います。評価として低すぎることも高すぎることもないと思いますが」
「いや、その時点で充分欲目が入ってると思うよ? 嬉しいけどね」
口角を上げて、目を少しだけ細める。珍しい微笑み方。テレが混じっていると気付くのは、自分だけで構わない。
「貴方がそういう表情をするから……」
「そういうって、どういう?」
「かわいい表情です」
言い切ると「ふはっ」とおかしな音を出したレンが横を向く。
「……そんなことを言い切るのはイッチーくらいだよ」
「私が思うのですから、他の人が思わないとも限らないではありませんか」
「そうくるか」
レンは苦笑するとひとつ息を吐き、トキヤをじっと見つめる。澄んだ蒼の瞳に見つめられるのは嫌いではない。そこに映るのが自分だけだからだ。今、彼を占領しているのは自分だけだ。
浸っていると、レンが距離を詰めてきた。
「……あのね、……オレも同じ気持ちだからね?」
「? 何がですか」
「イッチーがオレにしか見せない表情を、他の誰かにも見せてるんじゃないかって心配。……一緒だよ」
「…………」
虚を突かれた。
自分ばかりが心配して、レンはそうではないのだと――思っていた。
けれどそれは勝手な思い込みだったということか。言葉が嘘ではないとトキヤに言い聞かせるように、レンはトキヤの手を取ると指先に口付けてくれる。
それが合図になったのか、レンへ顔を近付けてそっと形の良いくちびるへ自分のそれを合わせた。