indulge

 撓らせた腰が、穿つ腰の動きにつられて揺れる。動きに合わせるように唇からは押し殺せなかった短い声が漏れた。
「っは、ァ……アッ、ああ……ッ」
 焦らすように抜かれると同時に、性器の先端をぐりぐりと弄られる。レンがそうされるのを好きだと知っている攻め手には容赦がない。こうなるとすっかり頭の中は馬鹿になっていて、気持ち良くなりたいことしか考えられなくなっている。
 そういう状態にレンを持っていくことが、トキヤの思惑だとわかっていた。
「レン……、」
 呼ばれるがまま振り返る。きっと熱と悦に浮かされたひどい顔をしているに違いない。けれどそのひどい顔にトキヤが昂ぶることを知っていた。
 案の定トキヤは数瞬息を呑み、わずかばかり引っかかっていた性器を抜いてレンの肩を掴むと体を返した。そうして脚を割り開いてしまうと、今度は性急に埋め込んでくる。
「ッ、ん……」
 しがみついて身の内の衝動を堪えようとしたが、トキヤに手を絡め取られてシーツに押さえ付けられてしまったから、それもできない。ぎゅっと手を掴んでも足りやしない。
 腰の動きが更に熱を煽る。どうしようもなくて身悶えるしかない。
 汗に濡れた髪が、シーツにぱらぱらと広がる。トキヤがふっと息を吐き、笑った気がした。
「キレイ、ですね」
 汗に塗れてぐちゃぐちゃのどろどろになっているのに、何を言っているのだろう。
 息を荒くし始めたトキヤが突き上げてくるたび、レンの腰や脚が跳ねる。
「も……、さわ、って……」
 さすがにそろそろつらくなってきた。達せないギリギリのラインの快感は、拷問のよう。
 ねだるも、トキヤは小さく首を振って誤魔化すように額や頬に口付けてくるだけだ。口付けの優しさとは裏腹に、レンの中に入った性器は悪戯な動きを繰り返す。
 まるで何かを探るみたいに。
「イッチー、……は、やく……ッ」
「まだ、ですよ」
 中を擦る性器が、ある場所を突いた。
「アッ!?」
 反射的に腰が跳ね、中を締め付ける。トキヤが一瞬顔を歪め、動きを止めた。が、次にはまたゆるりと同じ場所を突き上げられた。
「ンッ、あ……やめ……ッ、ア、アッ」
「レン……、気持ち、いいでしょう……?」
「い、けど……それっ、以上、は……ッ」
 逃げたいのに逃げられず、腰をよがらせるしかない。だがその動きはかえってトキヤを煽るのか、突き上げる動きはより強くなっていった。



「……甘やかしすぎたかなぁ……」
 俯せで枕を抱きかかえると、隣でペットボトルの水を呷るトキヤを見上げた。当の本人はレンの視線に気付くと、
「何の話ですか?」
 首を傾げる。
 わかってやっているのならタチが悪い。
「イッチーのこと。甘やかし過ぎたなぁって反省しているのさ」
「反省するほどですか?」
「まあね」
「…………」
 不本意そうなトキヤがペットボトルに口を付け――飲み下さず、レンに顔を寄せた。意図を悟ると大人しく体を返して口を開いてやる。冷えているはずの水がほんのりぬるんでいて、けれどそれが嫌とは思わなかった。
 二度、三度。
「……普通に飲ませてくれればいいのに」
 苦笑すれば、トキヤは真顔で「そうですね」と返してくる。
「でも、キスもしたかったので」
「一石二鳥ってワケ?」
「そう、ですね」
 吐息のかかる距離をほんの少し縮めて、額を触れ合わせる。
 以前は、ここでトキヤの腰が引けていた。事後の余韻を孕んだ時間が苦手そうでもあったし、触れ合うことにそもそも慣れていなかったようにも感じられた。
 今は。
 鼻柱を摺り合わせ、頬に口付けてくる程度には慣れてしまっている。成長といえば成長なのだろうし、慣れたといえば慣れたのだろうけれど、最初の頃の初々しさが懐かしいとも思う。
 水だって、以前ならペットボトルをそのまま渡してくれたに違いない。その時にはもしかしたら「色気がない」とレンが揶揄したかもしれないが。
 まったく、いいように成長してくれたものだ。
 お返しとばかり、トキヤの鼻柱に軽く噛みつく。
「……何をするんですか、貴方は」
「ん? スキンシップだよ?」
 不満げな唇に音を立てて口付けると、トキヤの首へ腕を絡めて抱きつく。首許へ頬を擦り付けると、ふぅと息を吐いた。トキヤの腕はするりと腰に回される。
 本当は、こんな風に抱き合うだけでも良いのかもしれない。体温を、互いの存在を感じられるならこれだけで構わないはずだ。けれどどうしたってそれ以上の熱を、肌を、肉を求め合う本能に歯止めがかけられない。
 夢中になって――相手のことしか考えられないと錯覚できるような。そんな瞬間がどうしたって欲しくなる。
 トキヤの手がレンの背を撫ぜる。優しい手の動きは、子をあやすものに似ているような気がした。そんな風にあやされたことなど記憶にないから、想像だけれど。
「イッチーの手は、優しいね」
「そう、ですか?」
「うん。だから……、……」
 何をされても結局は許してしまうのだろう。
 言いかけて止めた。
「……貴方が本当には嫌がらないからでしょう」
「本気で嫌がることをしないからだろう?」
「理由は同じでしょう」
 ぴたりと互いに動きを止める。レンは息を飲んだ。
 たしかに、トキヤの言うことは当たっている。同じ理由だとも知っている。
 ――嫌われたくはないからだ。
 詰めた息を吐き出すと、トキヤの背を手のひらで撫でた。
「……よっぽどイッチーはオレのこと、好きみたいだね?」
「貴方もでしょう」
「同じだね」
「……そうですね」
 小さく笑ってキスをひとつ。
 そうしてまたぎゅっと抱きしめ合って。
 この温かさがいつまで自分だけのものなのかと掠めた考えを隅に追いやり、またベッドへと二人して転がった。
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