「イッチー、巧くなったんじゃない？」
枕にうつ伏せ、悪戯っぽく笑いながら見上げれば、トキヤは面白くなさそうな表情をする。言った直後に思った通りの表情に、レンは喉の奥でくつくつと笑った。
何を、とは言わなかったが、伝わったようだ。
「……褒めてるんだけど？」
「とてもそうは思えません」
「刺々しいなあ。オレ、何かイッチーの気に食わないことでも言ったかな」
わざとらしくならない程度に言うと、トキヤはぼそりと何か呟く。
「…………」
「聞こえない」
再度促すと、トキヤは顔を逸らして溜息を吐いた。
「……他の誰かと比べられているようで、嫌です」
「…………」
めんどくさい。
身も蓋もない言葉が唇の裏まで出かかったが、なんとか飲み込む。思い返すまでもなく、そういえばトキヤは面倒な男だった。予想通りだったとはいえ、本当にそのまま返されるとは。
自分をかなり高い棚に上げてレンは内心で憮然とする。
誰がいつ誰と比べたというのか。最初の発言は本当に思ったことを言っただけなのだが。
ふぅと溜息を吐いて、一言。
「もうオレとはしたくないってことでいいのかな」
「誰もそんなことは言ってません」
慌てて否定を寄越す。妙なところが正直だ。
正直者は嫌いではない。自分がひねくれている──自覚はある──せいかもしれないが、自分と同じくらいトキヤがひねくれ者だから、たまに見せてくれる素直さが好ましいと思うのだろう。
レンはやれやれと肩を竦めた。腕を伸ばしトキヤを引き寄せる。複雑そうな顔が間近にあった。
「あのねえ……男はイッチーが初めてだったって、知ってるだろう？ 殴るよ？」
「…………」
この沈黙は殴ってもいいということか。額を軽くくっつき合わせると、レンを見ようとしない目をじっと見つめた。
「一体オレと誰との仲を疑っているのか問い質したいところだけど……イッチーにはもうちょっと余裕を持ってもらいたいな」
「……余裕、ですか」
途方に暮れたような表情をすると、途端に子供っぽくなる。その表情があまりにも可愛くて、レンは表情を緩める。
「いきなりは無理だろうけど、少しずつお願いしたいね」
「たとえば？」
「そうだな……さっきみたいな言葉で揺らがない、とか」
「先程の……ですか……」
トキヤの表情が曇る。
そんなにも気にするところなのか。口に出しかけて止めた。
ようは、気にしなくなるようにさせればいいのだ。──逆転の発想。
「……オレが好きなのは、イッチーだよ」
唇に軽く口付けると、ぎゅっと抱きしめた。
目の端に驚いたトキヤが見えたが、気にしてなどやらない。