できたぞ、と言ってシャンクスがコタツの上に温かな料理を盛り付けた皿を並べてくれる。
デミグラスソースのかかったハンバーグに千切りキャベツ、ポテトサラダ、ポタージュスープ。
できたての料理は、どれもが食欲をくすぐる。
思いもよらぬ豪華な食卓は、ここ数年ほどお目にかかったことがない。感動のあまり、呆けたように見つめてしまった。
「……全部アンタの手作りなのか?」
「勿論。……と言いたい所だけど、スープだけは知り合いの料理長が作ったヤツをかっぱらってきた。ハンバーグはタネだけ作って、今焼いて、作ったソースと混ぜたけど」
はぁ、と感心の溜息をついてから、ふと苦笑した。このマメさが、他にも発揮されてくれれば、言うことはないのだが。
呟きはしっかり聞き取られたらしい。「なんだと!」と食ってかかりかけるが、食事を前にして言い争うのは止めたらしい。聞かなかったことにしてやる、と鼻を鳴らしてベンの隣に座る。
「食お? 腹減ったよ、さすがに」
「ああ」
ふたりして手を合わせてイタダキマスと声をそろえる。
食事時はやっぱり水だよねと大きなグラスにペットボトルから水を注いで、食事の合間に飲む。
食事の間無言だったのはおそらく、ふたりとも空腹だったからに違いない。
ふたりとも、掌ほどもある大きさのハンバーグをおかわりして、ようやく胃が落ち着いた。
「ご馳走様でした」
「どういたしまして」
箸を置いて手を合わせるベンに微笑んで、ソースまで綺麗になくなった皿を台所へと持っていく。それに慌ててベンが立ち上がって「洗うのは俺がやるから」というと、シャンクスは小さく首を傾げて「そう?」と返した。
「飯作ってもらったんだから、それくらいはする」
んじゃ任せた、と大人しくシンク前を譲って、コタツへともぐりこむ。
ベンは蛇口をひねって湯で食器を洗いながら、この雰囲気は壊したくないけれどやはり気になることは聞いておこうと口を開きかけて、やっぱりそれは洗い物を終わらせてからにしようと口を閉じた。
「……あのさ」
こたつに戻ってきて、話し出しのきっかけを窺った微妙な沈黙を破ったのはやはり、シャンクスだった。
跳ね上がりそうな心臓を押さえて、彼の方を向く。が、視線は顔から少しだけそらしていた。今はまだ、マトモに顔を見る余裕がない。
意気地なしだと思う。だが訊いて、返ってくる答えがまったくわからないから――余計に怖かったのだ。
「あのさ……今も、そうだけど……オレ、オマエになんかしたか?」
「……何?」
予想外の問いに、ベックマンは首を傾げた。聞き間違いかと思ったが、そうではないらしい。
話にくそうに、シャンクスは言葉を継いだ。
「だってさ……おまえ、ここんとこずーっと、オレの顔見ようとしないし……たまに目が合うと、なんか怖いし、すぐ目ェそらすし。態度もなーんかそっけないしさ……オレがなんかしたのかと思うのが自然だろ? でもおまえ、なんも言わないしさ……わかんねェから、聞いてみた」
コタツの天板に顎を乗せて、上目で心細そうに見つめてくるのはやめて欲しい。胸が、体の奥がざわつくから。
だがシャンクスがそんなベンの内心を知るわけがなく、ベンのセーターの肘のあたりを引っ張った。
「なぁ……オレが何かしたなら、謝りたいからさ。教えてくれよ」
「…………」
煙草に伸ばしかけた手を止める。
触れられているあたりが、熱い。
ごくりと喉が鳴ったのに、気付かれただろうか。
深く息を吸い込んでせわしない鼓動を押さえようとしても、効果は薄い。
頭の中まで熱くなって、指先が湯に入ったように熱くて痺れた。
「俺は……俺の方こそ、アンタに嫌われでもしたと思ってた」
自分の言葉のはずなのに、どこか違って聞こえる。何を喋っているのかわからなくなる。
「オレが? おまえを?……なんで?」
「それは俺が聞きたい」
首を子犬のように傾げるシャンクスに、少し苛立つ。
「この数週間、アンタ俺のことを避けてただろ。なんでだ?」
ずばりと訊かれ、シャンクスは言葉を詰まらせた。
ちらりと時計に目をやる。まだ日付は変わっていない。ならば、まだ言えない。
そんなことはない、と誤魔化したが、「目が泳いでる」と突っ込まれた。
「うっ……き、気のせいだって! だ、大体それ言ったら、おまえだってオレの目ェ見てないだろ! いっつも人の顔見て話してるくせして」
「それは……」
口篭もったベンに畳み掛ける。
「いっつも何か言いたそうな顔してるくせに、何にも言わねぇで……気になるんだよ! 言えよ! 男だろ!」
両腕を掴み、取っ組み合わんばかりの勢いで引き寄せ、間近に顔を覗き込む。
深い青の双眸に視界を占領される。
何かが―――ベンの中ではじけたような気がした。