行儀の悪い咀嚼のような音と、断続的に漏れる苦しげな声。
「…ベッ、ク…っ」
黒髪の少年の体の下で、赤い髪の少年の体が跳ねた。背中に立てられた爪が、いっそう深く抉る。薄明かりの中見える赤髪の少年の体のラインは酷く煽情的で、彼を組み敷いている少年は強くある一点を突き上げた。
「ァッ…そんな、したら…っ」
「イきそう…?」
ぎゅっとかたく閉ざされた目蓋に唇で触れ、赤髪の少年の内部を抉る動きを少しだけ緩めた。
「イッて、かまわねェよ?」
俺もそろそろだから。
それだけ言って、追い込みをかけるように激しく突き上げ、彼の限界を間近に迎えたモノを握ってやるとひときわ高い声をあげて背中と喉をのけぞらせる。彼が手を汚すと間を空けず、黒髪の少年も埒をあけた。
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ああもう、何やってんだ俺は。そう自己嫌悪に陥る朝は、決まって曇天。気持ちに見合った暗い空は、気分をいっそう憂鬱にさせた。だがいつまでも布団の中ぐずぐずしていても仕方が無いし遅刻するので、溜息をひとつついて小さく掛け声をかけて起き上がる。
汚れた下着を忌々しく洗濯機に投げ入れ、冷たいシャワーを浴びて体をスッキリさせた。
ここ最近、しょっちゅうあんな夢を見る。妄想を映像化したような、思いが先走りしまくった夢。
だが現実ではないだけに目が覚めた後には空しさが去来する。これも若いから、思春期だからなのか。嬉しくねェなあと高校生らしくない溜息のつき方をして手早く体を拭いた。
歯を磨いてドライヤーで濡れた髪を乾かし、学生服を着たらワックスで前髪ごと後ろに流しただけで髪のセットはオワリ。
ガクランの詰襟はキッチリ留めるのがクセ。コートは少しくたくたになってきた黒のダッフル。
首には去年クリスマスプレゼントに幼馴染みがプレゼントしてくれたディープオレンジのカシミアのマフラー。
「オマエは格好が真っ黒いんだから、マフラーくらいあったかそうな色にしろよ」
などといって笑いながら首に巻いてくれたのが昨日の事のように思い出される。
眼鏡をかけて潰して薄くした皮製の学生カバンを脇にはさみ、玄関へ行って黒いローファーをはく。朝食代わりのカロリーメイトを咥えて玄関の鍵をかける。
傘はたしか学校のロッカーに置きっぱなしだった、と濃い灰色の空を見上げて思い出す。
学校までの徒歩10分はゆっくり歩いても充分間に合うなと左手首に巻いた時計で時間を確認した。