猫が思うに、赤毛は少々――いや、たいそう変わった人間のようだった。
不吉だと忌み嫌われる黒猫をわざわざ家に置くあたりで充分変わり者だが、不吉な猫を好んで被写体に選ぶ。そしてさも楽しそうに写真を撮ったり絵を描いたりするのだ。猫に赤毛の技量はわからなかったが、
「おまえだよ、B。よくできただろう?」
微笑んで作品を見せてくれる表情は大好きだと思った。
他人事ながら、はたしてこの男はその仕事で食べていけるのだろうかと不思議だったのだが、一応は売れているらしい。
以前見た長い黒髪の男とは別の、目つきの悪い黒髪の男が、ごくごくたまに赤毛の狭いアパートを訪れた。
「相変わらず猫か」
「おうよっ。こいつおっもしれぇんだもんよー」
「売れぬとわかっている絵を描くのが楽しいか?」
「逆だ、鷹の目。楽しいから描いてんだよ。風景ならたまぁに撮ってるけどね」
「最近は遠出しないのか」
「金ねーもん。自分とBで手一杯さ」
「……バイトは?」
「人に使われるのが性に合うと思うか?」
「ふむ……」
目つきの悪い男は鷹の目と言うらしい。名前を覚えると猫は物陰から男を観察した。
雰囲気と琥珀色の眼は鋭いが、赤毛を見る眼差しはさほど恐しいものではない。どこかベックという黒毛と似た印象を受けるのは、そのせいだろうか?もっとも赤毛の方は、この黒毛には擦り寄ったり甘えたり交尾したりはしないようだが。
仕事の話が終わると、二人は互いの頬に口を付ける。この男との帰り際の挨拶はそのように決めているらしい。
玄関のドアが閉まると、赤毛は小さく溜息をついてからこちらを振り返る。夕暮れ刻になっていれば、それから二人きりの夕食(の準備)の始まりだ。
貧しかったが、気にしたことはなかった。
時に赤毛の話を聞き、時に全力で遊び、時に被写体になり。
春も夏も秋も冬も、楽しい時間が続いた。
孤独は忘れた。諦めは捨てた。赤毛が取り去ってくれたのだ。赤毛といられればそれで良かった。
だから、この暖かい時間はずっと続くと思っていた。