強がりを言った。
あの人の言う通り休むべきだったのだと今更後悔して、短くなった煙草を海原へと投げ捨てる。新しいものを取り出そうとしてケースがカラなのに気付き、舌打ちする気力もなく溜息を吐いて自室へと向かう。
体中を蝕む疲労に、足元から呑まれそうにな錯覚すら覚える。
ベタ凪ぎと言ってもいいほど凪いでいた海が突如として荒れたのは、5日前のこと。半生以上を海上で生きてきた船長に「オレの人生の中でも5本の指に入る嵐だ」と言わしめたほどの嵐は完全に不意打ちではあったのだが、こういう時にばかり勘の鋭い船長のおかげでマストは折れもせず、帆も破けもせず、船自体に対した損傷もなく、死者も出ずであったのは僥倖と言っていい。
それ以上に狂った航路を修正するのも一苦労だった。今現在も修正中だ。かなり流されてしまったらしい。
休んではいられないのだ。
疲れているのは自分だけではない。この船の誰もが疲れ果てている。そんな時に上に立つ人間がヘバっているのは士気にかかわるだろう。だから休んでなどいられない。
少しふらつく足取りで部屋に戻り、煙草を補充する。いつも保管している棚を見て、そこがカラになっているのに気付き、また溜息してサイドテーブルの方へいく。
たしかまだこっちの引き出しには何箱かあったはず。どちらにしても後で倉庫に行かないとダメか。
ベッドに腰掛け、深い溜息をひとつ。
天井の木目が、やけに掠れて見える。
ああ、本当に疲れている。
でも港はきっと近いから、
意識は唐突にそこで途切れた。