強がりを言った!絶対、そうだ。
船首の上に胡座をかいて座りこみ、まっすぐ前を睨む。紅い髪を潮風になびかせているのがその船の船長・シャンクスだった。
さっきの言葉は強がりだったと、強がりを言ったと、きっとわかっているのに違いないのだ。
…悔やんでる。
―――誰が?
アイツが?
―――オレが!
こんなことなら鳩尾に一撃食らわせてでも休ませればよかった。いくら頑丈で人間離れした体力をしているとはいえ、ベンとて人間なのだから限界はある。ろくろく睡眠や休憩を取らないまま動きつづけていれば、いつか倒れる。ゼンマイ人形が止まるように。
そっちの方がよっぽど心配かけるってわかっているのかね?
小さく溜息をつくと、後ろから「お頭――!」と声がかけられた。振り返ってなんだ、と返すとヤソップが苦笑している。
「報告!部屋に戻ったはずの副船長、ドアを何度叩いても応答ナシ!」
「………」
あまりに予想通り過ぎて、天を仰いで溜息を吐き出す気にもならない。
「…ったく、しょうがねェなァ…」
さっきの今じゃねェかよと苦笑して立ちあがる。その身軽な動作からは、副船長同様、嵐の中先頭立って船員達に指示を飛ばし続けたとは窺い知れない。
「ドクに、睡眠薬五倍注射しとくように言っとけ! しばらく寝かせてやるぞ!
だからてめえら、副がいねェ分もキリキリ働け!」
あと3日で港だ!の声に、歓声が上がる。
そう、あと3日。それくらいならアイツがいなくてもまぁなんとかなるかな…多分。
大雑把な事を考えながら、さてキリキリ働くとするかね、と指の関節を鳴らした。