rainy days

lemon yellow

 ナミがゾロに耳打ちを寄越したのは、久々に仲間が集まった日のことだ。未成年は外で飲酒できないという、それだけの理由でエースが大量の酒を買い込み、弟と住まう家で総勢八名が宴会の席に居る。
 そうすると食事を作るのは女性陣かと思えば、やはりコックを目指すサンジが一堂のために腕を振るうことになる。ナミがゾロの隣に座ったのは、サンジがキッチンに立っている間のことだ。他の連中はウソップの幾分誇張された近況に笑っており、二人の様子に気付かない。
「ね、サンジ君どうしたの?」
「あ? どうかって……」
「様子、変じゃない?」
 話を振っても上の空だったり、ぼうっとしていて煙草の灰を落とすタイミングを見誤ったり、表情がぎこちなかったり。普段気配り上手で卒のない男にしては珍しい失態が続いている。まさか、料理まで失敗をすることはないだろうが。
 ナミの指摘を聞くまでもなく、ゾロとてもそのことには気付いていた。原因についても、何となく心当たりはある。しかしそれを打ち明けるわけにもいくまい。
 コップに注がれた酒をまるで水のように口の中へ放り込んだ。
「……気のせいじゃねェの?」
「あんたじゃあるまいし、失礼なこと言わないで」
 その発言も充分に失礼だとゾロは思うが、発言は控えた。下手をすれば三倍の反論を浴びせられかねない。それを思えば腹に力をこめて堪えることくらい、わけがないことだ。
「サンジ君はあたしたちに弱音なんて吐かないでしょう。あんたが一番仲がいいんだから、相談くらい乗ってあげなさいよ。愚痴くらい聞けるでしょう?」
 ナミの言葉は語勢に反して柔らかく、母が子供に言い聞かせるような温かさを持っている。ゾロにしても、自分にできることがあればやぶさかではないと思ってはいるが、サンジが抱えている問題に対してできることはほとんどないとも思う。
 黙ったままでいると、ナミに肘で脇腹を小突かれた。
「なによ。まさかあんたたち、喧嘩してるの?」
「いや、それはない」
「だったら、なんとかなさい。いっつもご飯作ってもらってるんでしょ? それくらいしても、バチは当たらないわ」
 言いたい事だけ言うと、今度はビビと話し込み始めてしまう。なんとも返答をし損ね、ゾロは黙したままグラスの酒を飲み干した。
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