結局、サンジが作ってくれたのはおじやというよりはリゾットだった。チーズベースで、海老・烏賊・浅蜊・蛸・帆立の入った海鮮リゾット。スープはコンソメ、サラダにはバンバンジーとマヨネーズがかかっている。
スプーンを受け取りながら、水を一口飲む。
「…おじやじゃなかったのかよ?」
「"特製"おじやだって言っただろ。洋風おじやだと思って食え」
自分の分のグラスをコタツの上に置き、ゾロの隣に座る。口が減らねぇヤツだと思ったが、口に出しては言わなかった。
そうしてふたりは手を合わせて「頂きます」と言ってから食べ始めた。
(リゾットか…)
スプーンで浅蜊も米と一緒に掬い、口へと運ぶ。
(………あの時最初に食ったのも、こんなリゾットだったな…)
たしか「しょっぱなからガツガツ食ったんじゃあ胃に負担がかかるからな」とか言われて、リゾットから食べたんだった。ただ、あの時のリゾットよりこっちのが美味しいような気がするのは…身贔屓というヤツだろうか。
食事中だって、ちっとも黙っちゃいなかった。
これ美味いから食ってみろよ、そっち旨そうだなちょっと寄越せ、それ取ってくれ届かねェ、足りねェから追加だ、お前食ったことないヤツ頼めよ。
左腕が不自由だという代わりのように、よくもまああれだけこき使ってくれたものだ。
「…ゾロ。ついてる」
「…は?」
不意に話しかけられて、間抜けた顔をしたゾロにサンジが手を伸ばした。
「ったく…」
ガキかオマエは、と苦笑して、右頬についた米粒をとって、そのまま食べる。一連の動作は当然のごとく行われ、ためらいの欠片もなかった。
それがまたあの男を思い出させた。
笑いながらあの男も「ガキみてェだな」と言って、頬についた米かソースを取ってくれた上に自分で食べた。
(う、わ…!)
思い出したら猛烈に恥かしくなってきた。なんでおれは、同じことを違う人間(しかも両方ともが男だ!)にされてるんだ!自覚するとますます恥かしくなり、かあああっと頭に血が上って、無意識に口許を手で覆った。
「ゾロ?」
「…え?!」
顔を覗き込んでいたサンジと目が合った。
「大丈夫か?飯が口に合わねェってことはねェにしても…熱あるならもう寝ちまってもいいぜ?」
気遣わしそうに見つめる眼に、ゾロはサンジに対して初めて罪悪感を覚えた。
そうして、あの男とこいつは濃さは違うけれど目の色が同じなんだなと思った自分に対して、猛烈に腹が立った。忘れると思ったのに、忘れられると思っていたのに!
「…大丈夫だよ。心配すんな」
欠伸我慢しただけだから、と嘘をつくと、サンジは呆れ顔をした。
「心配させんじゃねェよ。つーか、あんだけ病院で寝といてまだ寝たりねェのかてめえは」
心配して損した、と笑われたが、困った顔や悲しい顔をされるより数倍ましだとゾロは思った。