赤い髪の男に連れられて連れて行かれたレストランは、ゾロがヘタっていた公園から徒歩2分ほどのビルの1階にあった。銅板の看板にはシンプルに「Restaurante Baratie」と書いてある。
「ここ…」
「なんだ?知ってンのか?」
赤髪が振り返る。
「知ってるっていうか…」
この店を知っているわけではない。だが、知っているといえば知っている。この店の本店が大学の近くにあるのだが、サンジがその本店の料理長の息子なのだった。
「…友達が本店の方でバイトしてるんだよ」
「本店で?そりゃすごい友達を持ってるンだな」
この店のオーナーは自分の周りで働く人間を目茶目茶選ぶのになァ。
感心したように言う赤髪は、こちらに笑いかけながら店のドアを押した。その時に初めて気付いた。その男の左顔を走る、派手な三本傷に。
どんなことがあったらそんな傷がつくのかわからないが、いずれにせよまっとうな職業に就いている人間には見えない。
食欲に負けたとはいえ、まずい人間に着いて来てしまっただろうか。思ったが、引き返すことはできなかった。
赤髪が開けてくれたドアに続いて店に入った。カランコロンとカウベルのようなものがドアの上で鳴って客の来店を告げると、すぐにソムリエエプロン着用の従業員がやってきた。赤髪はその店員と二言三言話をすると、ぐるりと店内を見まわしていたゾロに、
「おい、案内してくれるってよ」
ぼーっとしてんじゃねえよ、ま、腹減ってるなら無理もねェか、などと笑って店員の後ろをすたすたとついて行ってしまう。赤い髪から目をそらせず、見惚れていると置いていかれそうになり、慌てて後を追った。
なんだか、場違いじゃねェか?
バラティエ本店にも何度か行ったことはあるし(サンジに連れられて)、他のレストランにだって行ったことはあるが(サンジに「偵察のカモフラージュ」と言われて連れて行かれた)、レストランと名がつく店自体に、自分はそぐわないと思う。
加えて、ゾロを連れて来たこの男。
人目を引かずには入られない紅の髪は、どう考えても、この落ち着いた雰囲気のレストランにはそぐわない。異分子だ。
だが異分子である当の本人はそんなことに微塵の頓着も見せず、さっさとメニューを開いて「やっぱメインは肉と魚一種類ずつだよな」だの「ワインもいいけどたまにはポン酒かな」だのブツブツと呟き、ひととおり目を通すとぱたんと音を立てて閉じ、ウェイターを呼んだ。
「オレが適当に選んだけど、いいだろ?」
奢ってもらう立場のゾロに、否やがあるはずもなかった。