rainy days

gray

 サンジが見舞いに来た後、検査を済ましてから退院した。すっかり日も暮れた道を、ふたりは並んで歩いていた。病院から近いサンジのマンションに帰るつもりだ。――とはいえ、ふたりの家は5分と離れていないのだが。サンジのマンションに帰るのは、冷蔵庫事情による所が大きい。
「だっから俺が言っただろうが。ちゃんと飯食っておけよって」
 栄養失調と肺炎なりかけなんて、どんな組み合わせで入院なんてしてんだよ恥かしい。しかも駅で倒れるってなんだよ。倒れる前に気付けよ。鈍いとは思ってたけど鈍すぎなんだよお前。
 病院を出てからずっと、ブツブツとサンジは文句――多分それは心配の裏返しなのだが――を言い続けていた。ゾロは自分が悪いとわかっているだけに最初は大人しく拝聴していたのだが、15分以上もブツブツと言われるとさすがにイライラしてきた。これは果たしてゾロの気が短いのか、サンジがしつこいのか。
「悪かったって言ってるだろ。もういい加減にしろ」
「お前の"悪かった"ほど信用できねェもんはねェ。俺がいなくなって、全然まったくまともに飯食ってねェだろ?!」
 目の前に人差し指を突きつけられて断定されるのにムッとして、脊髄反射で反論した。
「ンな事ァねェよ。何日かはマトモな飯食った」
「…カップ麺とかは"マトモな"飯の範疇に入らないからな?」
「食ったよ!」
「外食だろ」
「…じゃねェのもある!」
 断言してから、しまったと思った。が、
「…ま、テメエでも、カレーくらいは作れるか…」
 鼻で笑われて終わっただけだった。
 助かった、と気付かれないように溜息する。これで「テメエがそんなことするか。誰に作ってもらったんだよ」などとツッコミを入れられでもしたら、答えようがない。ナミに作ってもらったなどと適当な嘘をつけばいいのだろうが、生憎そこまで気が回らなかったし、言ってもすぐにバレるからダメだ。なにより方便でも嘘をつくのは嫌いだった。

 アレは、やっぱり浮気ってことに…なる、んだろう……な…。

 少し前を歩く少しくすんだ色の金髪を見つめ、また溜息をつきかけた所でサンジがこちらを振り向いたので焦った。
「今晩、何食いたい?」
 ああでも病み上がりに腹に重いものは食わせられねぇな。じゃ、サンジ様特製栄養満点オジヤにでもするか!
 聞いておきながら自分で言ったメニューに納得して、コートのポケットからセブンスターを取り出して吸う。煙が風に乗って、ゾロの鼻腔をくすぐった。わけもなく、ああコイツの匂いだと思った。
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