rainy days

white

 ドアの外で看護婦が誰かを注意した声が聞こえた。当り前だ。病院内で走り回れば注意の一つや二つくらいはされる。ここは病院ですよ、とかいう声にかぶさるようにすいません、と謝る声と、それ以上にバタバタと走る足音が聞こえる。
 ったく誰だよすげェヤツだなオイと思っていると、病室のドアが勢いよく開いた。驚いてそちらの方を振り返る。息を切らした若い男が、ぜえぜえと肩で息をしている。そうしてものすごい形相で病室をきょろきょろと見回した。その男が誰だかすぐに気付いて、ゾロは唖然とした。
 サンジだ。
 ゾロが気付いたのとほぼ同時に、サンジの方もゾロに気付いた。仁王のような形相をすぐに緩め、あからさまにほっとした顔で呼吸を整えて今度は落ち着いた足取りでゾロが寝ているベッドまでやってくる。
 ゾロは彼に小さく手を上げた。その手の上げ方が半端だったのはいつもの元気がないわけではなく、サンジに対して後ろめたい気持ちが多少なりとあったからだった。ただし、入院した事についてではない。
「…よぉ」
「よぉじゃねェよお前…」
 救急車で運ばれたって聞いてどれだけ俺が驚いたかわかるかよ?しかもお前、さっき看護婦さんに聞いたら肺炎なりかけた上に栄養失調だって?なんだよそれ?お前な、俺がいなくてもちゃんと暖房つけろ、飯は喰えって言っただろうが!人の話聞いてんのかマジで。
 まくしたてるように一気にそれだけ一方的に言うと、サンジはぽかんとしたゾロの顔を見下ろして、大きく溜息を吐いた。
 実際、本当にサンジはゾロを心配して駆けつけたのだろう。
 いつもピシッと決めている彼にしては珍しく、髪はぼさぼさだし(走っている間に乱れたのかもしれないが)、ジャケットとスラックスの色は合ってないし(チャコールグレイのジャケットに対して紺色のスラックス)、服に対してマフラーの色も浮いている。普段のサンジを知っている者なら、彼がいかに慌て、あるいは動揺して取るものもとりあえずここにやってきたかがわかるというものだ。
 そしてなにより、冬だというのに汗をかいている。
 病院内でも走っていたみたいだが、まさか自宅から走ってきたのだろうか。いや、ここまでどれくらいの距離がある?いやいや、この男ならやりかねない。
 ゾロはサンジにかけるべき言葉を探して沈黙していたが、どれだけ探しても見つかりそうになかった。点滴針の刺されていない左手を伸ばして、汗で少しべたつく手に触れてやる。思ったより、冷たくない。
「おい」
「何」
「…悪かったよ」
「おお。わかりゃいいんだよ、わかりゃあ」
 満足そうに笑って、今頃気付いたのか、乱れた髪を指で梳かした。おそらく、その病室が大部屋だということに気付いたのも今だろう。他の患者の好奇の目が少し、痛かった。
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