起きた時、隣に自分とは別の体温があるというのは、久しぶりのことで。初めこそ戸惑いはしたが、数日も経てばそれが当り前になっていた。
腕の中で眠る赤髪に口付け、抱き寄せる。寝呆けた声があがるが、まだ起きてはいない。嬌声より力の抜けた声は、夜とは違った誘惑の響きがある――とは、言い訳か。
朝方は寒いと言いながらシャツを着るのさえ面倒がったシャンクスの、なだらかな背や腰を撫でる。上向かせて口付けたが、それでも目覚めない。
起きろと囁き耳を噛んだ。もう一度、今度は歯列を無理矢理割って深く唇を貪る。肌を弄りながら長く続けていると、息苦しくなったのだろう。シャンクスが身動いだ。抵抗の素振りを見せるが、力は抜けきっている。
「ん……や、……」
逃げをうった躯をそのままにし、ベックマンは上体を起こした。サイドテーブルに置いたままの小瓶から少量のオイルを手に取り、指に絡める。眠りの淵へまた落ちていきそうなシャンクスを腰を抱いて背中から引き寄せると、昨夜躯を繋げた場所を弄った。
「……ッあ……?!」
刺激に驚き、躯が跳ねる。腰に回された腕に捕われ逃げることもできない。
ベッドへ左半身を埋もれさせたまま、力の入らぬ躯は覚えた快楽に流されてゆく。
シーツを掻き、増やされた指を堪える。腰を捉えていた腕はいつの間にか前半身を撫でている。
「……ッ、ン……ぁあ……っ」
漏れる声に艶が混ざったのを聞き取ると、指を抜き、熱を帯びていた自身を殊更緩やかに押し込む。仰け反った背に歯を立てて跡を残し、腰を引き寄せいっそう深く繋がる。
絶え間なくあがる嬌声は昨夜より甘い。
彼自身を掌で包み込み、律動に合わせて擦ってやる。いっそう切なく喘ぐと、間をおかず掌に白濁を撒かれる。何度か深く抜き挿しし、ベックマン自身も吐精した。
繋がったまま、彼を背から抱きしめる。
「起き抜けに……」
不意打ちもいい所だと苦笑するシャンクスの項を吸い、「すまない」と笑った。
抜かないのかと訊かれ、躊躇した。カーテンの隙間から漏れる日差しで午後までの時間を知ると、形の良い耳に唇を寄せた。
「もう一度……」
要求は口付けとともに受け入れられた。
「今日用事があって、夜には出なきゃならないんだ」
そう言ってシャンクスが出かけて行ったのは、その日の夕食前のこと。
どこへ行くのかと形式的に訊くと「……逢い引き」と微笑された。一瞬固まった顔を爆笑され「嘘だよ」と言われたが、結局何が目的で出かけるのかは聞けなかった。
町までは車で送り届けたが、帰りはどうするつもりなのかと問うと、
「送って貰うから大丈夫」
今日は帰れるかわからないけど締め出したりしないでくれよと笑う。ああ、と返事を返したが、どこか上の空だと自分で気付いていた。
いつもより味気無い夕食を黒猫と囲む。食事前の祈りをしながら、ふと自分は神に祈れた立場ではないことに気付き、苦笑が漏れた。ばれれば誰にも申し開きは出来ないが、選んだのは誰でもない自分自身。後悔することだけは止めておこう、と言い聞かせる。己に対してばかりでなく、シャンクスへも失礼だ。
そのシャンクスがいないだけで、こんなにも家が静かになるとは思わなかった。彼は一人で賑やかな男だったらしい。
そして仮に逢い引きが事実だとしても、彼を拘束できるようなものが何もないことに気付いた。そして、存外己が彼を深く欲していることにも。
「……お前の親友は、今頃何をしているんだろうな」
呟き、食後の毛繕いをしている猫の背を撫でる。
今日帰らないかもしれない、その意味は考えないでおこうと溜息をついた。