朝食はご飯派のシャンクスは自分の気分に合わせて、麦入りのご飯と時間をかけてだしをとった豆腐とワカメと揚げの入った味噌汁、シャンクスたちの後輩の祖母が漬けたという漬物、よく味の染み込んだ煮魚、春菊のおひたし、大根の煮物という和食メニューを作ってテーブルに並べた。
黙々と食事を食べ終え、食器の片付けはベンに任せて食後の緑茶を淹れる。淹れてやらねェとやっぱりガタガタうるさく言うんだろうな、と思いながら姉の分も淹れてやる。
「…で?何があったんだよ」
赤茶のテーブルの下で脚をパタパタとさせ、つまんねー用事だったら殴るぞと思いながら、すまし顔で湯飲みに口をつけるアルビダを見る。
「また男にでも振られたか?…痛ッ!」
「"また"は余計なんだよ!」
ホントのことじゃねェかよ、とは蹴られた足をさすりながら口の中で反論するに留めた。
「…結局、ホントに男にフラれただけ、とか言うんじゃねェだろうな?」
「違うに決まってるだろ。ホンッとに可愛げのない弟だよ。ちょっとはベックを見習ったらどうだい」
「………オレより20cmはデカイ男の可愛げって、なんだよ」
「アンタみたな憎まれ口を叩かず、黙って愚痴を聞いてくれるようなところさ」
「……………」
それはツッコミ入れると余計にうるさいのが煩わしいって思ってるからだけなんじゃねェのか、とは洗物を片し終えて隣に腰掛けるベンの、長い指を見ながら思ったこと。「沈黙は金」という言葉を実践してみたシャンクスだった。
「それで結局、何があったんですか」
「………」
黙って緑茶をすするアルビダに、ここまで来て、だんまりはナシだぜ、と駄目押しをする。わかってるよ、と答えて常滑焼きの湯飲みを握り締めた。
「…朝からババアから電話がきたのよ」
「バーさんから?朝っぱらに?さすが年寄りは」
朝が早いな、と言いかけた口を横から無理矢理ふさいで、続きを促す。
「なんて言ってきたんですか」
「…下半期、業績下がったら結婚決定」
「げ」
「…それはまた…」
「上半期だって大して下がってなかったと思うけどなァ…新聞で見る限りは。バーさんも懲りねェよなァ…でさ、結婚相手のことは?誰だって?」
「…………」
「なんでそこで黙るんだよ?…え?まさか」
「…そのまさかさ」
「マジで?!また?!」
「絶対本気だよ、あのババア…」
「…でもまあ、いいんじゃねェの?案外。姉貴今フリーなんだろ?」
「そういう問題じゃないよッ」
「そお?けっこうイイと思うけど…まあ、アイツがまた義理とはいえまた兄貴になるのかと思うと複雑だけどさ。悪いやつじゃねェじゃん」
「そういう問題じゃないって言ってるでしょ!」
「いいじゃん。派手好きなトコだって一緒じゃねェか。体の相性もバッチリだったんだろー?」
「アイツの派手とアタシの派手を一緒にしないで欲しいね!それにいくら体の相性が良くたって、性格の相性が合わないんだよッ」
「でもさ、姉貴みたいな女と一緒にやってけるのって、絶対アイツだけだって」
「アタシは認めないよ!」
趣味じゃないんだからッと湯飲みを乱暴に置く。
「アンタからもクソババアに言っておいて頂戴。他の男もイヤだけど、ミホークとは絶対にお断りだって!」
残った茶を一気に飲み干すと、「じゃあアタシは約束があるから」と言って、さっさと出て行ってしまった。
肩を怒らせて出て行くアルビダを見送ったシャンクスとベンは、顔を見合わせて溜息をついた。