日曜の朝は、コーヒーと紅茶の香りに満ちて穏やかにふたりだけで始まるのが毎週のこと。それはこの日も変わらない。
…はずだった。
「相変わらず、アンタの淹れる紅茶は絶品だねェ」
ダージリンで淹れた手製のアップルティを一口味わって、満足そうに笑むのは絶世の美女。チャコールグレーのパンツスーツの上下は某海外有名ブランドのものだが、それすら彼女の美しさを演出する道具でしかない。そして彼女は服に負けないナイスバディをしていた。
対してダイニングテーブルを挟んで向かいに座っているのは超不機嫌な顔を隠そうともしない赤い髪。こちらはアディダスのジャージの上下だ。ラフこの上ない。
「…で?何の用?」
声にも表れた不機嫌から察するに、紅茶も進んで淹れたものではなく要求されて淹れたものなのだろう。美女はうるさそうにカップをソーサーに置きながら、
「なんだっていいじゃないのさ。それよりお茶請けはないのかい?アンタが作ったクッキーとか、あるだろう?」
「いいからその前に用件言えよ!何の用もなく朝っぱらから叩き起こされるこっちの身にもなれ!」
ベックより先に目が覚めて、シャワーを浴びて朝食の仕度でもしようかとキッチンに立った所で、嵐のような玄関チャイム。あまりのうるささに即行玄関に出てみれば。…できればしょっちゅうは会いたくない、済ました顔をした美女。
開けたドアを即、閉じようとしたら、女とは思えない力でそれを阻まれ、結局室内への侵入を許してしまった。ばかりか、茶まで要求されてしまったという次第だった。
「…うるっさいねェ…女みたいにギャアギャア騒ぐんじゃないよ。ベックが起きるんじゃないのかい?」
弟とはまったく似ていない黒い長い艶やかな髪をかきあげる。
「いーんだよ、どうせそろそろ起きる時間なんだから。それよか話せよ。でなきゃとっとと帰れ。これからウチは朝飯なんだから、邪魔」
「何言ってんのさ。朝飯も頂くに決まってるだろう」
「どこまで図々しいんだよこの女ァッ!!!」
「たったひとりの姉なんだから、それくらいしてくれたっていいでしょ!男がゴチャゴチャぬかすんじゃないよ!!小さい男になるよッ」
「小さくったっていいんだよッ誰に迷惑かけるわけじゃねェだろ!!!」
「アタシに今迷惑かけてるだろ!お腹空いたって言ってんだから、さっさと食事出しな!」
「どこまでムカつくんだこのクソ女ッますますババアにそっくりになってきやがって!!!」
「アンタにもそのムカつく女の血が流れてるんだよ!」
「流れて欲しくて流れたわけじゃねェッ!ああもう、なんでこんな女がオレのキョーダイなんだよッ!!」
「死んだ父さんと母さんに文句言いな」
不毛な姉弟喧嘩にピリオドを打ったのは、リビングに入ってきたベックだった。
「…何やってんだ、あんたら…」
シャワーでも浴びたのだろう。頭にタオルを載せて、無印良品の白い綿シャツとプーマのジャージを穿いて、呆れた表情でふたりを眺めていた。
「ベックっ!この女になんか言ってやれ!」
この女と言われた美女はベックの姿を見るや、椅子から立ち上がってベックに寄ってにこやかに、
「あ〜〜〜ら、ベック、久しぶりねぇv相変わらずイイ男だねv」
そう言うと首に細腕を巻きつけて、わざわざ弟に見せつける角度でベックの口にキスをした。…無論、ディープキスだ。
ベックは声もなく怒りが頂点に達したシャンクスを視界の端に見止めながら、美女を引き剥がす。この兄弟が喧嘩をして、碌な目にあったことがない。深い溜息を吐き出しながら、
「それで…一体、どんな御用でこんな時間にうちにいらしたんですか、アルビダさん」
シャンクスの横に腰掛けた。