誰かから『頂く』ものでは意味がない。
『与えられる』のも、少し違う。
ただ、こればかりは相手が受け容れて、応えてくれて初めてどうにかなるもの。いや、受け容れてくれないまでも、告げねば変わらぬもの。
かつて様々な街や村で、色々な女たちに秋波を流されたり同衾した経験は、数多くとは言わないまでもそれなりにある。睦言も、その数の分だけ言ったし言われた。
しかし、これは。
一夜の、仮初のものと済ませてしまうには、彼の――カイルの想いも眼差しも、あまりに真っ直ぐすぎる。
このまま目を覚ませば、おそらくカイルは何も言わぬまま部屋を出て行く。もしかしたら強引に事に及んだことについて、何か謝罪めいたことを口にするかもしれない。だがその後は。きっと、今まで通りに接してくるのだろう。それまでよりほんの少しだけ、不自然にならない程度に距離をおいて。
ゲオルグは、傍らで束の間の眠りに落ちているカイルに視線を落とした。
言うタイミングを失したというのは、逃げか。言い訳か。
必要とあれば他人も自分も欺くことは出来る。だが、そんな誤魔化しをして良いのか。己の胸の痛みと、この男の胸の痛みに耐えられるのか。
いずれこの国を去るとゲオルグは決めている。太陽宮から脱出して、ルナスでわずかな休息を得た時、そう決めた。いずれにせよ長居するつもりはなく、フェリドの用とやらが無事に済めば、それを見届けてから去るつもりだったのだ。
今は、親友と、その妻の願いを叶えるためと、ゲオルグ自身がそうしたいと決めたからここにいる。遠くない未来、叶えられるだろう。あの少年――王子は強い。強くなった。良い仲間も大勢いる。戦乱の世にあってこそ活躍できるゲオルグのような人間は、治世の世となれば不要となる。だから、それまでの間だ。
「……相手はもっと他にいるだろうに」
どちらに向けた言い訳か。呟いた後、自嘲の笑みが浮かぶのは仕方ない。
太陽のように屈託なく笑う彼は、女性に対して節操のない部分を差し引いても、充分な魅力がある。ゲオルグにしてみれば、様々な魅力ある女性やもっと傍にいられる連中など、いくらでもいるだろうと思う。
だが、立場を逆にしてみれば――逆になどしなくとも、カイルのことを言えた義理はない。
体を再びベッドに横たえ、傍らの男へ手を伸ばした。抱き込み、額に口付ける。
目が覚めた時に告げよう。
告げて後悔するかもしれないが、告げずに後悔するよりは良い。何より、カイルを想いが独り善がりでないことだけは、彼に知らせてやりたかった。
こんなことになった後で、彼が信じてくれるかどうかはわからないが、信じてくれないのであれば、信じてくれるまで言うつもりだ。これはきっと、カイルの気持ちに気付いていて見ぬ振りをしていた自分に回ってきたツケだ。それは払わねばならない。
ゲオルグは深く息を吐いて心を決め、乱れた金髪を梳いてやった。
「……ゲオルグ、どの……?」
半分眠った、くぐもった声が胸元から聞こえた。目を覚ましたのだろう、戸惑った様子が抱きしめた腕を通して伝わる。身を離そうとしたのか、身動ぎしたようだったが、腕に力をこめて許さなかった。
カイルが何かを言うより早く、彼の耳元で低く囁いた。
吉と出るか凶と出るか。
それはゲオルグにもわからなかった。