不良騎士04/見ていられない

お題配布→Missign Child様 http://melt.lix.jp/odaihaifu/

 滅多に深酔いしない男らしい。
 そもそも酔っ払ってしまっては有事の際に役に立たない。ここしばらくファレナは平和だという話を聞いたが、つい二年前には暴動が起きたと聞いた。王都のすぐそばまで暴徒が来たのだと。またいつどこでそんなことが起きるとも知れず、だとすれば女王家の親衛隊とも言える女王騎士が泥酔するのはいかがなものか。それとも、想像しにくいことだが、危急の時にはまともに戻るのか。
 そんな、いたって真面目なことを考えてしまうのも、共に飲んでいた男がすっかり酔っ払ってしまったからだ。椅子の背に腕をかけてだらしなく座り、傍を通る女を片っ端から口説いている。普段も口説いているが、酔うといっそう舌が滑らかになるようだった。
 成果に関係なく女性に声をかけまくるような紋章でも宿しているのか。そんな馬鹿な疑問が浮かぶほど、カイルは上機嫌だった。特殊な絡み酒、と言えなくもないかもしれない。
「ゲオルグ殿ー、飲んでますかあ?」
「ああ。……おまえはもう飲むな」
「えー。やですよー。こんな気分いいのに、飲まないわけいかないでしょー」
 実際飲み過ぎなのだ。テーブルの上には空の瓶が林立しているし、ツマミは一通り食べ尽くした。夕食時から飲み始めたと記憶しているが、今はもう深夜だ。
「まだいーじゃないですかぁー」
「そういうことは一人で帰ることを前提に言え」
「ちぇー。ゲオルグ殿のけちー」
「……そういう問題じゃない」
 先に支払いを済ませると、カイルの腕を取って立ち上がった。ふらつく体はまるで力が入っていない。しっかり立て、と言っても酔っ払いが聞くはずもなく、苦笑しながら引きずるように歩く。
 ゲオルグより幾分薄い体のカイルだが、やはり王家に仕える騎士ともなればしっかり鍛えているらしく、想定していたより多少重かった。カイルが自分自身で歩く気がなさそうなのも一因だが。
 足元が覚束ない男を支えながら歩くのは一苦労だが、覚束ない上に好き勝手なところへ行こうとするのを引き止めるのがさらに苦労だった。夜更けのため、道を行く人はほとんどいないが、こんなに酔っ払っていても女性がいればすぐに声を掛けようとするのだろう。呆れを通り越して感心すらしてしまうマメさだ。
 ようやく部屋に辿り着き、ベッドに転がしてやると「扱い悪いですよゲオルグ殿ー」と抗議を寄越してきたが、酔っ払いをまともに相手する気はない。「それはすまなかった」と口先ばかりの謝罪をし、ベッドに腰掛けると頭を撫でてやった。
 にこりと満足げに笑むと、やおらに服を脱ぎだす。
「あついー……」
「……俺は帰るぞ」
「だめですー! ゲオルグ殿も一緒!」
「……何がだ?」
「一緒に寝ましょー?」
 服の胸元をはだけたまま、立ち上がりかけたゲオルグの袖を掴み、酔ったせいで上気した顔で見上げてくるのは反則だと思う。一体これは何の試練か。
 ゲオルグは溜息を吐くとカイルの頭を撫でた。
「蹴飛ばしてくれるなよ」
「もちろんですよー。オレそんな寝相悪くないですもん」
 カイルに倣い、服の上着を脱ぐと簡単に畳んで椅子の上に置く。観念すると、思い切ってカイルを抱きしめ、寝転がった。
「大人しく寝ろよ」
「はーい。おやすみなさーい」
 返事を寄越すと、ゲオルグの背に腕を回してくる。心底嬉しそうに胸に頬を擦り寄せてくる様は、いっそ無邪気だった。
 明日の朝このまま目覚めれば、きっと困惑するのだろう。その様子を楽しみにしておくか。溜息を吐くと、ゲオルグは目を閉じた。
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