不良騎士03/いい加減許してくださいよー

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 夕食が終わった時間。ゲオルグは本拠地の自室にひとりでいた。
 本拠地に戻ることが稀なゲオルグが、自室にいる時間はさらに稀だ。たいていの場合、戻ってきたのを幸いとばかりに、本拠地である湖の城を見付けた王子によって、仲間の武術指南を依頼されるからだ。
 さすがに夕食まで、と時間は限定されているが、各地を無頼の戦士として渡り歩いてきたゲオルグへ興味を抱く者は、ゲオルグ本人が思っているより多い。
 その最たる人間は、よく部屋を訪れていた。「おかえりなさい」と迎えてくれたのは、一度や二度ではない。
 だが今回ばかりは、それはない。
「……まったく……」
 何をしているのか、と己を嘲る。
 これではまるで子供ではないか。とうにそんな年齢は過ぎたというのに。
 避け通せるわけはない。このまましばらく本拠地にいれば、いずれ顔を突き合わせるに違いない。次の作戦の時か、王子の同行者として。
 溜息を吐き、マントも取らずにベッドへ仰向きに寝転がる。少ない休息の時間であるはずだったが、心はそんな状態には程遠い。
 いずれ話はしなければならないだろう。だが、それは今でなくとも良いはずだ。
 自分に言い訳すると、目を閉じた。心地良い疲労が全身を包み、やがてそれは眠りへとすり替わっていった。
 
 
 
 目を覚ました時、至近距離に見知った顔があった。誰でもそうだろうが、ゲオルグも例外なく驚かされた。
「あ。起こしちゃいましたねー」
 すみませんと悪びれずに謝るのは、五つ年下の女王騎士である。
「…………何で、いるんだ?」
「ドア、開いてましたよー」
 ゲオルグ殿にしては無用心ですよねー、と笑う顔に頭痛すら覚える。そんな話をしているのではない。
「勝手に入ったことは、謝ります」
 殊勝にも頭を下げる。暗闇でよく見えないが、気配でそうと知った。
 だが、謝るなら謝るで、それなりの態度があるというもの。闇雲に頭を下げればいいわけではない。
「まずは下りろ」
 体を起こそうにも、カイルが腰のあたりに跨がっているため、容易ではない。非常事態ならば可能であっても、単に起こされただけの状態では無駄に体力を使う気は起きなかった。
 ゲオルグの態度をどう受け取ったのか、カイルはゲオルグの顔を覗き込むように覆いかぶさってきた。
「……まだ怒ってます?」
「…………」
 窓の外は月明かりすら奪われた闇夜。鼻先が触れそうなほど近付いて、ようやく相手の顔の判別がつく。
 声の軽さとは打って変わって、カイルは真顔でゲオルグを見つめていた。片目で見つめ返せば、しばらく無言が続く。
 痺れを切らしたのは、カイルだった。
「……何か言って下さいよー……」
 道に迷った子供のような声。時々、この男はこうだ。いい大人のくせに、不安定な様をちらつかせる。
 ゲオルグは手を伸ばし、カイルの後ろ頭を撫でた。触れられるとは思っていなかったのか、びくりと体が跳ね、息を飲む気配を感じた。しかしゲオルグの掌が、ただ頭を撫でているだけだとわかると、ほっとしたように体の力を抜く。
「……ゲオルグ殿ー……?」
 不安そうに窺ってくるカイルに、何か返そうとは思わなかった。
 本当は、ドアを閉め忘れていた時にはとっくに許していたのだと、告げるつもりはなかった。――少なくとも今は。
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