ニルバ島から王子やリオンとともに戻り、次の作戦前の休息のひととき。本拠地に新たにできた浴場で疲れを癒し、久々にのんびりしてみるかと城の中を歩いていると、カイルと遭遇した。
「あっ、ゲオルグ殿。おかえりなさい」
「ああ……ただいま」
「群島諸国との密談は、うまくいったそうですねー?」
「ああ。予想通りだな」
王子が報告したのを聞いたのだろう。ゲオルグは笑いながら頷いた。カイルは視線を泳がせながら、言葉を迷っているそぶりを見せた。
「? 何かあったのか?」
「……えーと……チーズケーキ買ったんですが、食べませんか?」
「食べる」
即答すれば、カイルに笑われてしまう。「ゲオルグ殿は、」
「ホントーにチーズケーキが好きなんですねー」
「……まあな」
今更否定もできないし、しようとは思わない。好きなものは好きなのだ。昔、フェリドにも笑われたことがあり、悔しくてチーズケーキ絶ちをしてみたが、数日しかもたなかったことがある。
ゲオルグの部屋に戻り、その話をすると、カイルは楽しそうに笑う。
「そんなに好きなんですねー。中毒ですか」
「おまえも、女絶ちしてみればいい」
「……すみません、無理です」
深々と頭を下げるカイルに、今度はゲオルグが笑う番だった。
カイルが茶をいれ、ケーキを恭しく饗する。自然と顔が綻ぶのを見られたのか、目の前の金髪は楽しそうにゲオルグを見ている。
「今止めろって言われても、絶対無理でしょうねー」
「何がだ」
「チーズケーキ断ちですよー」
「無理だな」
「……食べてる最中に敵が来たら、瞬殺ですねー、きっと。あ、それでついた仇名ですかー?」
「そんなわけあるか。……俺の仇名を言うなら、おまえにもあるんじゃないのか」
「え?」
「レルカーでは相当だったらしいな」
「……誰がそんなことを……」
机に突っ伏したカイルを、ゲオルグは楽しそうに見た。こんな話題には慣れているはずだが、何がショックだったのか。
「自分が誰とレルカーに行ったか忘れたか?」
「…………王子ですか……」
がっくりと肩を落とし、恨めしそうに見上げてくる。ゲオルグは涼しい顔でチーズケーキを一口食べた。
「面白おかしく色々聞かせてくれたぞ」
「えー……何を聞いたんですかー……?」
恐る恐るといった態で聞いてくる。ゲオルグはふと笑った。この男の女好き病は今更だろうに、どうしてそんな顔をするのか。追及はしないが、可愛いとは思っている。
「略奪愛したのに相手の女の名前も覚えてないとか、レルカーの顔役も手を焼くほどやんちゃだったとか、かな」
「…………」
「何故黙る」
「いやもうなんて言うかー……」
「昔の話だろう」
もっとも、今もたいして変わりないか。
付け足すと、不満げな顔でそっぽを向いてしまった。何やらぶつぶつ言っているが、ぎりぎり聞き取れない。
まるで子供だな、とは胸の中でだけ呟くに留め、二つ目のチーズケーキ攻略に取り掛かった。