「はあッ!!」
鋭い気合の声とともに一閃。袈裟斬りにされた怪物が倒れる。鋭い剣筋のためか、流れる血は存外少なかった。ゲオルグは血振るいした剣を鞘に収める。
モンスターが絶命したのを確かめたベルクートが振り返った。その顔には勝利への喜びよりも、疲労のほうが勝って見える。
ベルクートだけではない。王子もリオンもカイルも、ベルナデッドも同じだった。誰の顔にも、隠せない疲労が現れている。
「お見事です、ゲオルグ殿」
「いや……さすがに弱っていた。そうでないと困るが」
溜息を吐き、ゲオルグは右手の甲へ視線を落とす。皮手袋の下には、必殺の紋章が宿されているはずだ。とどめを刺せたのはおそらく、その紋章のおかげ。
思いもかけないところで見たことのない敵と遭遇し、王子は撤退しなかった。
「近隣の村や街がこれに襲われたらどうするんだ」
正論である。だが正論を振りかざしてこちらが倒れては話にならない。さすがにこの化物は荷が勝ちすぎると思ったところで、ようやくの勝利だ。
「助かったよ、ゲオルグ。もっと時間がかかると思った」
「紋章様々だな。行くか」
「うん。今日はもう休みたいね」
カイルは王子の後を歩こうとしたゲオルグの傍に寄り、さりげなさを装い右手を掴む。仲間たちは幸い、王子を先頭に歩き出した。後ろを振り返る気配はない。
「カイル?」
遅れない程度にゆっくり歩きながらも、カイルは掴んだ手は離さない。そんなカイルを不審の目で見ているのは、振り返らずともわかる。
カイルは小さく吐息した。
「……隠さなくてもいーでしょーに」
「…………」
何故バレたのかと言いたげな沈黙。
わからいでか。
口の中だけで呟いた。
「水魔法使いますよ」
「……今使うのは……」
「街も近いから休めますし、まだ魔力残ってますから心配はいりません。リオンちゃんの盾の紋章もありますしね。わかったら大人しく使われて下さい」
「…………わかった」
歩きながら集中するのは一苦労だが、弱みを見せたがらないゲオルグのためだ。
ゲオルグの右手を掴んだままの左手を自分の胸に当てて集中すると、ふわりと水の波動がカイルとゲオルグを取り巻く。すぐにそれが引くと、カイルは手を離した。
「今度は言って下さいね?」
「……ああ。よく気付いたな」
「協力攻撃した時におかしかったら、誰でも相手の不調に気付くと思いますよー?」
そうでなければカイルでも気付けたかどうか。この男は本当に、そういったことを隠すのが上手い。平然とした顔で城に戻ってきておいて、マントの下に目を覆いたくなるような怪我を負っていたこともあった。神経が通っていないのかと疑ったものだ。
基本的に大怪我を負いにくいということも知っているが、だからといって平然としてはいられない。
「……そうか……」
小さな笑みの理由が何かまでカイルにわかるはずもなく、離してしまったことを惜しむようにゲオルグの右手に視線をやった。きっと今まで多くのものを護り、共に戦い続けてきた紋章を、少し羨ましいと思った。