ゲオルグの武術指南はわかりやすい。
決して、もうひとりの武術指南役であるゼガイの指南がわかりにくいわけではない。ゼガイの指南のほうがわかりやすい、あるいは合うという仲間もいる。それと同じように、カイルにはゲオルグの指南がわかりやすかったし、自分には合うと思っている。
最初からそうだったかもしれない。
太陽宮で、ゲオルグが衛兵たちに剣の指南をしているのを初めて見た時。見とれて、思わず無理矢理に参加してしまった。その時は純粋に剣技に見惚れたのだと思ったが、今になって思えば、ゲオルグ本人に見惚れていた可能性が充分にある。
どんな人生を歩んできたのか、『二太刀要らず』というたいそうな徒名を戴いた男は、そのまま名に相応しい剣を使う。太刀筋の鋭さ、重さに一目で魅了された。だから、気付いたら言っていたのだ。オレにも教えてください、と。
あんな剣を使いたい。
あんな風に戦いたい。
協力攻撃を頼み込んだのも、そんな気持ちからだったかもしれない。唐突すぎたかと思ったが、ゲオルグはあっさりと応じてくれた。――嬉しかった。
「気が散っているな」
「ぎく」
鋭い声に、あえておどけてみせた。ゲオルグは剣を下ろすと、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「いくら稽古といっても、集中しなければ怪我をするぞ」
「すみませーん。考え事してましたー」
「……今日はこの辺にしておくか?」
「まだまだいけますよー」
「どちらにせよ、休憩だ」
太刀をひと振るいすると鞘に収める。カイルも同じように剣を鞘に収めると、木の幹に背を預けるように地面に座り込んだ。
「いい運動になるなー」
「少し運動不足なんじゃないか?」
「鍛練は欠かしてませんよー。ただ、最近は王子が連れてってくれないんですよー」
口を尖らせてぼやく。
「頼りにならないって思われてるのかなー」
「それで指南を受けてるというわけか」
面白そうに見つめられ、そっぽを向いたのは、気恥ずかしかったからだ。ゲオルグが言った言葉も事実ではあったが、すべてではない。
まさか、ゲオルグといたかったから、など言えるはずもない。
「まあ、己を鍛えるのは良いことだ」
目標や目的があるなら、と付け足して、ゲオルグは微笑む。
「焦るばかりでは上達はしない。――今日はやはり、ここまでにしておいたほうが良さそうだな」
「えー……まだ大丈夫なのにー」
「そう言うな」
酒に付き合え、と促され、カイルは笑いながら承諾した。