この人は眼で人を殺せるんじゃないか。
ふとそんな思いが、カイルの胸を過ぎる。
だから、この人が片目でいるのは正しい。眼帯を着けているのは正しい。
ゲオルグが片目を傷付けてしまった事実を喜ぶわけではないが、両目で見つめられることがないことにほっとしてしまうのは確かだ。
「……何か顔についているか?」
「いいえー。何もー」
一心不乱に皿に集中していたゲオルグだったが、どうやら食べ終わったらしい。暖かい茶を飲みながら、不審そうにカイルを見つめてくる。
そんなに顔ばっかり見てたかな、と思いながら、笑顔を浮かべる。
「あえて言うなら、よく食べるなーと思ってましたー」
チーズケーキばかり、よく飽きませんねーと笑うと、ゲオルグは困ったような表情をする。
「好きなものは、仕方がないだろう」
「いや、そうですけどー……でも噂が本当だったのは、ちょっと笑っちゃいましたよー」
くすくすと笑うと、今度はばつの悪そうな表情をする。太陽宮では見なかった表情だ。
カイルが聞いた噂というのは、にわかに信じがたいものだった。いわく、「ゲオルグが道具屋で「いつもの」と言うと、チーズケーキが山盛り出てくる」というものだ。
真実を確かめようにも、ゲオルグは滅多に城にいない。道具屋を営むシンロウに聞いても「客の秘密は守る主義なんで」と遠回しに断られるし、ゲオルグに直接訊こうにも、ゴドウィン側に女王殺しの主犯として名を挙げられている以上、表立って行動するのは王子の不利になる。そう言って、専ら裏方的な役割を率先しているため、城にいる時間が短い。
今日はその短い時間にいるのを見付け、わざわざ後を付いて回り、真実を確かめたというわけだが――
「一気にチーズケーキを6個も食べる人も、なかなかいないと思いますよー」
苦笑しながら、自分が食べたマグロ丼の皿を脇によける。
ゲオルグも皿を傍らへどかすと、水を一口飲んだ。
「……体力回復にもなる」
「そんな疲れてるようにも見えませんけどねー」
「…………」
「そんな怖い顔しないでくださいよー」
ただでさえ怖い眼してるんですからー、と付け足すと、ゲオルグは心外そうな表情になる。
「目つき鋭いですからねー、ゲオルグ殿」
「そうか?」
「……オレでも時々怖い時がありますよー。普段はないですけど。片目でも充分怖いのに、両目だったら滅茶苦茶怖いでしょーね、きっと」
あえて軽めの口調で言うと、ゲオルグは微苦笑した。機嫌は損ねなかったようなので、ほっと胸を撫で下ろす。
「目つきなんぞ気にしたことがなかったが……そんなことを言うのは、おまえくらいだ」
「えー。ゲオルグ殿が城にいないからですよー」
「そんなものか?」
「そうですって」
断言すると、ゲオルグが表情を和らげる。
「せいぜい、怖がられないようにしよう」
仲間には女子供もいるようだからな。
鋭い金の眼が、一転して優しくなる。そのギャップに弱いのだと、カイルは内心で告白した。