交替でシャワーを使い、ベッドで落ち合う。知った仲だから余計に気恥ずかしさを感じたが、表面だけは平静を装った。そんな仮面すら叶には見透かされているようで、居心地はあまり良くない。
叶がシャワーを浴びている間、自分でシャワーを使っている間、何度か思い直そうかと考えた。しかし結局行動に移すことなく、寝室で大人しく叶を待っている。
このことで考えることを放棄したのは、叶が寝室へ入ってきた時だ。
桜内の予想より、叶の身体に傷は少なかった。ひきしまった身体に無駄な肉は見あたらない。骨格標本にでもしてやりたい身体だ。
「なんだ、人の身体を見つめて」
珍しいもんじゃないだろうと寄越される声は揶揄が混ざっている。
「珍しくはない。……着痩せするタイプだったんだな」
「ああ、よく言われる」
軽口は前哨戦のようなものだ。
「じゃあ……先生は緊張していらっしゃるようだし、あんたが先に俺に入れてみるか」
はい、と手渡されたのは調理用オリーブオイルの小さな瓶だった。戸惑いを視線で叶と瓶へ交互に送ると、叶は苦笑しながら桜内の頭を撫でた。
「女じゃないからな。濡れようがないからそういうので慣らす時に使うわけだ」
用意があればローションなどを使うが、さっきの今で用意などあるはずがない。納得して頷いた。
始まりを告げる口付けは、叶から与えられた。
互いの体に触れ合い、徐々に熱を高めていく。かたい体に触れるのは、どうにも違和感がある。唇と舌の感触だけが、女と変わらない。口内で絡めあう舌は、今までの誰より巧みに己を翻弄していることだけはわかった。
触れる感触が違うだけで、することは女相手と大差ない。咥えられるのも、同じといえば同じだ。しかも責めたては山根よりよほど容赦がない。
追い上げられて息がまた乱されると、叶の後ろを慣らした。
「女を慣らす倍は時間がかかると思ってくれ。ここで手を抜かれると、後で俺が困る」
桜内の腰を跨いだまま、叶が薄く笑う。今までに見たことがない表情に、わずかに興奮を覚えた。頭を引き寄せ、今度は桜内から口付ける。すぐに深く合わせられ、互いの口内を貪った。
そのまま指を這わせ、言われた通り慎重に弄る。狭くきつく感じられた中は、時間をかけるごとに押し広げられていった。
「いいぜ、ドク……結構、うまいじゃないか」
「結構、は余計だ」
こんな時にもこの男には余裕があるのだろうか。こちらの余裕が奪われているばかりなのだろうか。
当り前なのかもしれないが、いつもとまったく勝手が違うことに戸惑わされる。初めて女と寝た時も、こうだっただろうか。
「指、抜いてくれ」
囁かれるがまま、ゆるりと指を引く。叶が一瞬息を詰めたのがわかった。
やや萎えた桜内の精器を指で立ち上がらせると、ゴムをかぶせられる。そうして叶は惑い無く腰を落とし、咥えこんでゆく。
久しぶりすぎてさすがにつらいなどと言いながら、表情には辛さなど見せてはいない。せいぜい顰めた眉間で「ああ苦しいのだな」と思わせる程度だ。
入れているのは己なのに、なぜか叶に食われているような錯覚に陥る。
すべてを身の内に収めてしまうと、叶はゆっくり動き出した。引き締まった腰を支え、胸を撫でながら、桜内も負けじと動く。
昂まりはすぐに訪れ、互いに欲を晒す。
わずかに身を震わせ、乱れた息を整えもせずに叶が離れる。名残惜しいような気分になっていると、叶に口付けられた。
「気分は?」
「悪くない。……たしかにあんたの言う通りだ」
「なるほど」
喉を鳴らすように笑いながら、叶の掌は桜内の肌を滑る。
「入れられる側の心意気をひとつ、教えておいてやるよ」
耳や首筋を指先で弄びながら、叶が低く囁く。肌が粟立った。
「習うより慣れろ」
一言くれると、にやりと口元を歪めさせた。