45/蝋燭が消えるまで

「ねー、ゲオルグ殿」
 軽い調子の呼び掛けは、しかし上滑りして軽さより脆さを露呈していた。本人もその自覚はあったのだろう、笑顔を失敗した顔を俯かせた。蝋燭のか細い明かりでは、今どんな表情をしているのか、はっきりと見せてはくれない。
「たまには、オレのわがまま聞いてくれたっていいでしょー?」
 いつも王子たちのわがまま聞いてるじゃないですか、と言い訳じみたことを言って寄越すのもらしくない。
 本来なら、ファレナの気候のようにからりと明るい男だ。それが、こんなにもダメージを受けている。
 どうしてその頼みを無下にできるだろう。
 ゲオルグは小さく息を吐くと、大股でカイルに近寄り、抱きしめた。
「ちょっ……ゲオルグ殿?」
「今のおまえには、こっちのほうがいいだろう」
 思ったままのことを口にすれば、カイルはわずかに顔をあげ、
「……オレは子供じゃありませんよ」
「無理をするな。……こういう時は誰でも弱る。俺も、衝撃を受けなかったわけじゃない」
「ゲオルグ殿も……?」
 ゲオルグの言葉がよほど意外だったのか、カイルは目を見開いていた。
 ああ、と頷いて背を撫でる。そうするだけで自分も落ち着ける気がした。
「それじゃ、しょーがないですね……このままでいてあげますよ」
 あの蝋燭が消えるまでは。
 ゲオルグの肩に顔を伏せたカイルがどんな表情をしていたのかわからない。無理に見ようとは思わなかったのでそのままにし、カイルを抱きしめる腕に力を籠める。
 蝋燭は当分、消える気配がなかった。
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