43/涙腺の故障

 ずっと、信じていた。
 帰る場所はただひとつなのだと思い続けていた。
 竜宮島――、一騎のいるところ。仲間がいる場所。乙姫が護る島。
 個を保てなくなっても、一騎と繋がっている、いられることで自分の存在を確信できた。
 操が総士を守ってくれたお陰でもある。
 蒼穹。蒼を映した海。白い砂浜。
 またこうして自分の足で立てていることの喜び。
 操の遺した言葉。
「ただいま」と「おかえり」。
 どれほど夢想したかわからない。
 もしかしたら、自分は泣き出してしまうのではないかと総士は思っていた。けれど――自分より先に泣いていたのは、一騎のほうだった。
「ありがとう、一騎。島を……僕の帰る場所を守ってくれて」
 自然に出た言葉。
 手を伸ばせば、一騎も手を伸ばしてくれる。
 確かに掴める。
 ここに、いる。
 一騎も、自分も。
 おかえりと言ってくれた一騎はもう、泣いてなどいなかった。
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